1世の中がすべてインスタント化しているのです。インスタント食品はちょうど昭和三〇年代中ごろから出はじめました。そしてそれ以来ずっと私たちの暮らしを取り囲んでいます。2かつては自分で努力をして手をつくして時間をかけて、待っているあいだ心ときめかせて楽しんで、そして結果を得るというので生活が完結しました。ところが、お金を出して始まり、ものを得て終わりといったら、そのあいだは瞬間になる。3待たないわけです。高度経済成長期に入って、待つことが消えていってしまいました。カップラーメンの宣伝に「三分間待つのだぞ」というのがありましたが、みなさんはご存知ないでしょうね。いまは三分待たなくても、すぐできるんでしょうか。4あるいは、三分は、もうちっとも短い時間じゃなくなったのかもしれません。三分も待つのーと逆に売れなくなってしまうのかもしれないですね。世の中めまぐるしく速く動いているのですからね。
ものごと万事、欲望がすぐ結果に短絡するようになってしまっている。5本当は何かを願望することと、願望したことが満たされるあいだが実は最も楽しい時間であって、満たされてしまったらもうおしまいなのだというところがあるでしょう。わかりやすくいえば、恋愛なんかまさにそうです。6もちろん、好きだと言ってから、それから先もまた楽しみはありますが、好きになっていくプロセスそのものが実はものすごく、苦しくても楽しい世界ですよね。7彼女は本当に僕を好いてくれているのかと心配になったり、その時期があるから、好きだということが確認できたときうれしいわけです。もし手軽に得られたら、それはいいかえれば手軽にすてられる世界にもなります。8これはゴミの問題と同じです。手軽に得られるから手軽にすてることができるのです。それではつまらないですね。
自然のものも、たとえばイチゴなんていまは年中あります。トマトも年中あります。でもかつて旬のときしか食べられなかった。だから、待ち遠しかった。
9待つ喜びがあったわけです。そして、たとえば旬の初ものを食べると寿命が延びるなどということもいいました。初ものを食べると寿命がのびる気がするほどうれしいから、そういう言葉か
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