1もっとも肉食がぜいたくだといいだせば、本来なら、欧米諸国でも事情は同じである。いくら一人当り農用地面積がひろくとも、土地からの第一次生産物を直接人間の口に入れる方が、はるかに安上がりなことに変りはない。2にもかかわらずヨーロッパ人のあいだでは、栄養問題がたいしてやかましくもない古い時代から、なぜ不経済な肉食が高い比率を占めてきたのであろうか。3実は、畜産物を食べるのがぜいたくだというのは、食用作物の十分にとれる耕地をわざわざ割いて、飼料作物を人工的に栽培した場合のことである。もし、家畜が、そこらに勝手に生える、食用にならない草のようなもので育つぶんには、肉食はすこしも不経済ではない。4ヨーロッパ人の家畜飼育は、もともとそういうところからでてきたのである。日本とは、だいぶ事情がちがう。ヨーロッパの肉食率が古くから高かったのは、もとはといえば、日本では考えられないほど家畜飼育の容易な、牧畜適地だったからである。5そして、ヨーロッパを牧畜適地にしたのは、要するに、自然に生える草類が家畜飼料にならないほど徒長するのを妨げる、独特の気候条件であった。では、ある意味では植物の生育に不適なそうした気候条件は、穀物生産に対してどのように働きかけたのであろうか。
6ここでまず考えなければならないのは、日本では穀物生産の主役が伝統的に水稲であったのに、ヨーロッパでは麦類であったという事実である。このことは何でもないようで実は重大な意味をもつ。7とくに、現在とちがって化学肥料がものをいわない時代には、なおさらである。たとえば、無肥料連作をつづけた場合、麦類は水稲の半分ほどの収量比しか確保できない。8これは、水稲であれば、自然の灌漑用水のなかにいろいろな養分があり、収穫はそれほどおちないのに、麦の場合はそうはいかないからである。同じ稲でありながら、陸稲を無肥料連作すると、麦類と同じくらいの比率で収量が低下することからも、このことはわかる。9それならばヨーロッパでも水稲を栽培してもよさそうなものであるが、ここでわたくしたちは気候条件につきあたる。水稲の栽培には、成育期に三か月以上摂氏二〇度を越す気温と、年間で一〇〇〇ミリを越す降雨量が必要であるが、ヨーロッパでこのような条件を満たすところ
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