1植民地主義イギリスの紀行文学の根強い伝統を論じた著作『海外へ』のなかで、イギリスの批評家ポール・フュッセルは旅人を「探検家」「トラヴェラー」「ツーリスト」の三種類のタイプに類別している。
2「探検家」とは、フランシス・ドレーク卿やエドモンド・ヒラリー卿のように、しばしば爵位をもってその活動を顕彰されるようなタイプの旅人である、とフュッセルは言う。3いかなるトラヴェラーもツーリストも、彼らのなしとげた行為によって爵位を贈られる、というようなことはない。トラヴェラーやツーリストの旅が探検家のそれと同じ程度に困難で記憶されるべき内実をそなえたものであるとしても、それは「行為」として本質的に探検家の実践とは意味づけを異にしているからだ。4「探検家」は未知の探求者である。彼らの旅は処女的発見のための旅であり、その地理的・博物学的・考古学的発見の行為は新しい科学的世界像の形成と深く結びついている。彼らは死の危険をすら冒して未知を彼らの世界の側に奪取する文化英雄たろうとする。
5一方現代の「ツーリスト」の求めるものは商業主義的な企業家によってあらかじめ発見された大衆的価値である。ツーリストはマスメディアの巧妙なプレゼンテーションによって彼らのために準備されたルートとトポスとをめぐる、現代の受動的な好奇心を代表している。6探検家がかたちのないもの、知られざるものと対峙するリスクを進んで冒そうとする人々であるならば、その反対にツーリストは徹底して既知の側につき、すでに確認された紋切り型の「知識」を安全性の保証のもとに追認するにすぎない。
7そしてこの探検家とツーリストの両極の中間に「トラヴェラー」がいる。彼らは移動の途上で生起するであろうあらゆる予期せぬ経験を旅の長所として留保しつつ、一方で彼らの西欧的アイデンティティが揺らぎだす手前で巧妙に旅の混沌から身を引き離す。8彼らは自分がいまどこにいるのかを熟知しつつ、世界
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