1デザインと絵画や彫刻について、何かそこには決定的な違いがあるのかもしれないと思う人たちの根拠は、言ってみればできの良くない作品を思いうかべてのことだと思います。2絵画や彫刻のできの悪い作品は、とにかく色がきたない、形が悪い、何を言っているのかさっぱりわからない、暗い、湿っぽい、いやらしい(書いていてもいやになりますが)、3ということで(もっと探せばどんどん出てきますが、このくらいにしておきます)、「そんなものを、彼らは真顔でやっているのだから、私にはわからないけれど、さぞかし高尚なことがその奥にあるに違いない」というわけです。4しかしそれは買いかぶりかもしれません。誰が見ても変なモノは変で、実は本人としてもこれはちょっと困ったと思っているものです。だから顔もけわしくなってしまうのですね。5難解な作品は、作者にも難解で、色の悪い作品は、作者が見ても「色が悪いなー。でもまあいいか、というよりこれしか描けないんだから、仕方ないよ」と思っているかもしれません。で、そう思っているのはまだいい方で、それすらわかっていない場合もしばしばありますが。
ではデザイン。6できの良くないものは、センスが悪い、どこかの真似、使いにくい、やぼったい、等々……芸術とは全てを超えるくらいすばらしいもののはず、と思いこんでいる人たちから見ると、違うだろう、となってしまうところでしょうが、それは単にそれができの悪いものだったというだけで、だからデザインが芸術ではない、ということにはなりません。
7考えてみると日本の芸術の過去の傑作の多くは、今で言うところのデザイナーの作品でした。屏風という形式はインテリアデザインの流れで平安時代に流行したものですし、琳派は装飾デザイン以外の何ものでもなかったわけです。8それは皿から壁紙、本に至るまで、本当に見事なデザインワークで、今や幅広く国宝に指定されています。9浮世絵などは今で言うグラフィックデザインですし、鎌倉時代の「伝源頼朝像」などの肖像画は今ならさしずめ稲越功一さんや篠山紀信さんの写真を長友啓典さんがアートディレクションしたような仕事です。0茶道で用いる茶碗や茶道具という
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