長文が二つある場合、読解問題用の長文は一番目の長文です。
1経済学の父アダム・スミスはこう述べています。「通常、個人は自分の安全と利得だけを意図している。だが、彼は見えざる手に導かれて、自分の意図しなかった公共の目的を促進することになる」。2ここでスミスが「見えざる手」と呼んだのは、資本主義を律する市場機構のことです。資本主義社会においては、自己利益の追求こそが社会全体の利益を増進するのだと言っているのです。
3経済学者の「悪魔」ぶりがもっとも顕著に発揮されるのは、環境問題に関してでしょう。多くの人にとって、資本主義が前提とする私的所有制こそ諸悪の根源です。環境破壊とは、私的所有制の下での個人や企業の自己利益の追求によって引き起こされると思っているはずです。
4だが、経済学者はそのような常識を逆なでします。私的所有制とは、まさに環境問題を解決するために導入された制度だと言うのです。
5『かつて人類は誰のものでもない草原で自由に家畜を放牧していました。家畜を一頭増やせば、それだけ多く肉や皮やミルクがとれます。草原は誰のものでもないので、家畜が食べる牧草はタダです。6確かに一頭増えれば他の家畜が食べる牧草が減り、その発育に影響しますが、自由に放牧されている家畜の中で自分の家畜が占める割合は微々たるものです。それゆえ、人々は草原に牧草がある限り、自分の家畜を増やしていくことになります。7その結果、牧草は次第に枯渇し、いつの日か無数の痩せこけた家畜がわずかに残された牧草を求めて争い合う事態が到来することになると言うのです。』
8これこそ「元祖」環境問題です。そして経済学者は、それは、自然のままの草原が誰の所有でもない共有地であるがゆえの悲劇であると主張します。9環境問題とは「共有地の悲劇」だと言うのです。
『事実もし草原が分割され、その一画を牧場として所有するようになると、その中の家畜はすべて「自分の」家畜となります。0
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