1実は現在インターネットの上では二つの力が争っていると思うんです。一方はそれを資本主義化してしまおうという力、もう一方はそれを贈与交換の世界へ引き戻そうという力です。
2インターネットは、その出発点においては、アメリカ国防省から軍事研究を委託されていた、研究者の間の科学研究の情報のネットワークであったわけですが、もともとの参加者である科学者にとっては、インターネットを経済的な目的に使うのは抵抗があるようです。3科学者の集団というのは、少なくとも建て前の上では、信用なるものによって結ばれている世界なのです。科学者がおたがいに論文を交換する、あるいは科学情報や技術情報を交換するとき、それは同じ科学コミュニティの一員としておたがいの名前を認めあっているからです。4たとえ個人的に名前を知らない場合でも、博士号を持っていたり、名のある研究機関に属している人間であれば同じです。そこでは、まさに名前というものが重要な役割を果たす信用のネットワークが築かれる。5そして、その名前が重要な役割を果たす世界とは、贈与交換の世界なのです。たとえば、古代ギリシアのホメロスの叙事詩のなかに出てくる英雄たちは、他人から贈与を受けたら、自らの名誉を守るために、つまり自分の名前の信用を守るために、必ず贈与をした人間に対して返礼をする。6ここでは、まさにおたがいの名前に対する信用が人間と人間との交換を可能にしている。贈られるモノそのものに価値があるから返礼するのではなく、贈った人間と贈られた人間との間の一種の信用関係を保つためにモノが交換されるのです。
7昨年、あるコンピュータ・サイエンスの会合に呼ばれて講演をしたときに出会った何人かの人たちは、コンピュータ・コミュニケーションの世界に資本主義的な要素が入り込んでくるのをなるべく排除しようとしていました。8それは、いうなれば、それを原初における贈与交換の世界のままに保ちたいという必死の抵抗でしょう。その極端な例が、ソフトウェアを全部タダにしようと、それをネットを通じてタダでばらまこうという動きです。9コピーレフトですね。あれはインターネットから資本主義の原理を排除して、
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