1現代は高度情報化社会であるといわれる。湾岸戦争では、多国籍軍のステルス戦闘機によるバグダッド市内爆撃が、あたかもTVゲームのように茶の間にリアルタイムに映し出された。2今ではインターネットを通じて、過去では考えられない量の情報が、瞬時に手に入る時代になっている。情報量の増大は、意思決定を単純化するであろうか。事態はそれほど簡単ではない。情報量の増大は情報のパラドックスという現象を引き起こすからである。
3つまり、情報があればあるほど、我々の事実認識があいまいになり、相対的な問題解決能力を喪失するということである。情報が多量にあるということには、三つの意味がある。まず、情報が細分化されるということである。4「木を見て森を見ず」という諺通り、樹木に対する知識の増大は、森全体の構造的な認識を失わせることになる。情報の細分化は分析によって行なわれることが多いため、これを分析麻痺(アナリシス・パラリシス)と呼ぶこともある。5医学の専門分化の進展について考えれば分かりやすいかもしれない。
また、情報の送り手が媒体を通して伝える情報は、元の情報とは必ず異なる部分が生じる。6これを情報スラックというが、情報システムの複雑化、ネットワークの錯綜化の進行によって、この情報スラックが増大する。情報の送り手と媒体が複雑になれば、情報スラックも多く発生することになり、結果として真の情報がよりあいまいになる。7誰でもやったことのある伝言ゲームを考えれば理解しやすい。伝言が伝わっていくに従い、余分な情報が加わったり、情報の一部が歪められたりすることはよく経験することである。
8第三は、そもそも我々の受け取る情報は、誰かの意思決定の結果であるということである。TVで流れる情報は、現場の撮影者が意識的・無意識的に選択し、TV局が選択し、あなたがチャンネルを選択した結果の情報である。9ニュース性が高いもの、人気のあるもの、もともと受け入れやすいものが優先される。切り捨てられた選択肢に関する情報は、はじめから隠蔽されていると見ることもできる。
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