a 長文 10.1週 nu
 「泣きながらごはん食べると、おいしくない」。小さいとき、どこかでそんな歌を聞いた。 
 歌の内容ないようは、もうすっかり忘れわす てしまったのだが、そのワンフレーズだけはよく覚えている。きっとその当時から、「それはそうだなあ」と実感し、納得なっとくしていたのだろう。 
 両親にしかられたり、友達とけんかをしたり、先生にお説教をされたりしたあとに食べるご飯は、確かたし においしくない。悲しいとかくやしいとか、そんな重苦しいものがお腹 なかにズウンとつまっているようで、食欲しょくよくすらわいてこないこともある。
 もしかしたら、どんなにいやな気分でいても、ご飯を食べているうちに忘れわす ていって、満腹まんぷくになったらケロッとしてしまう明るい性格せいかくの人もいるのかもしれないが、大多数の人はそうではないだろう。つまり「おいしい」とか「まずい」というのは、食べ物そのものより、自分の心の持ちようで変わるものなのかもしれない。 
 そういえば、こんなこともあった。前、沖縄おきなわへ旅行をして、海辺でゴーヤチャンプルーを食べたときのことだ。新鮮しんせんな感じがして、とてもおいしかった。それをもう一度味わいたくて、帰ってから母にゴーヤチャンプルーを作ってほしいと頼んたの だ。 
 しかし、いざそれが我が家わ や食卓しょくたくに乗り、一口食べてみたら、なぜかそれほどおいしくは感じられなかった。いや、はっきり言うと変な味だと思ってしまった。
 せっかく作ってくれた母に悪かったので、全部食べたが、「こんな味だったっけ?」と首をかしげたくなったものだ。 
 今思うと、沖縄おきなわの海で思いきり泳ぎ、お腹 なかを空かせて、美しい海を眺めなが ながら食べた、という雰囲気ふんいきが、おいしさを倍増ばいぞうさせたのだろう。
 やはり、よい気分で食べるご飯はおいしい。楽しい気持ちでいると、不思議とお腹 なかも空く。
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 この間の給食のとき、友達が面白い話を連発して、大笑いをした。まるでお腹 なかがよじれるようで、絶対ぜったい吹き出しふ だ てしまうから、牛乳ぎゅうにゅうを飲むことができなかったほどだ。 
 ただし、そのとき食べたものの肝心かんじんの味がどうだったかということは、実はあまり覚えていない。というより、友達とのおしゃべりが面白すぎて、何を食べたかも思い出せないのである。 
 「笑いながらごはん食べても、おいしいとは限らかぎ ない」。ふと、そんな言葉が頭に浮かんう  だ。でも、笑いながらごはんを食べれば、お腹 なかも心も満腹まんぷくになる。これからも、そんな楽しい食事をしていきたい。

(言葉の森長文作成委員会 ι)
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