初七日の終わった夜、私はふとんを抜け出し、母屋を出て離れにある弟の部屋に行った。電灯の紐をさがしていると高校生特有の、運動部の選手独特の汗のしみた匂いが漂った。
あかりをつけると、そこには受験勉強の最中だった弟の時間が停止したまま浮かび上がっていた。私は弟の机を掌で触れた。ひんやりとした木目の感触から、つい十数日前まで、ここで笑ったり、うたを歌ったり、悩んだりしていただろう若いゴツゴツした弟の気持ちのようなものが感じられた。
部屋を見回した。かつて私も使っていた本棚があった。『樽にのって二万キロ』『コンチキ号漂流記』『冒険者×××』、そんな本が並んでいた。小夜の話は本当であった。
してはならないと思ったが、私は弟の引き出しを開けてみた。大学ノートが一冊あった。それは弟が高校に入学してからの日誌で、毎日ではないが日々のこと、サッカーの練習、小遣いの出納も記してある雑記帳のようなものだった。真面目な弟の性格がよくあらわれていた。
二月のある日、そのページだけが文字がていねいに書いてあった。その日は弟の誕生日である。私が父と争って出ていった翌月だった。
要約すると、――兄が父と争って家にもどらないことになった。母に相談し父に命じられて、自分はこの家を継ぐことにした。医者になる。父は病院をたてると言った。だが自分はシュバイツァーのような医者になりたい。アフリカに行きたい。しかし親孝行が終わるまでがんばって、それからアフリカに行き冒険家になりたい。その時自分は四十歳だろうか、五十歳だろうか……。それでも自分はそれを実現するために、体を鍛えておくのだ。私は兄にずっとついてきた。兄が好きだ……――
弟はその冬、北海道大学の医学部志望を担任に提出したという。
私は自分の身勝手さ、いいかげんさを思った。済まないと思っ
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