長文が二つある場合、読解問題用の長文は一番目の長文です。
ある夏の、ひどくむし暑い日のことだった。上の兄は学校へ行き、私と下の兄とだけが残されて、退屈していた。二人はただ目的もなく大堰ばたの方へ歩いて行った。大堰ばたの水は流れが止まったように淀んでいて、岸には雑草がしげり、日ざしはじりじりと照りつけていた。そのとき兄は水面に近く、鮒を見つけたのだった。
鮒は水温が上がり過ぎたために、苦しがって水面に浮かび、口をあけて喘いでいた。それが意外にも五匹、六匹……十匹もいた。私たちは興奮した。兄は流れの岸にうずくまり、手近なところに浮いている小鮒をそっと両手で追ってみた。鮒は逃げるだけの気力もなく、黙って兄の手に捕らえられた。それからが大変だった。水から上げたら魚は死んでしまう。鮒を水の中で捕らえたまま、兄はどうすることもできなかった。兄は顔だけをふり向けて、
「おい、うちへ帰って何か入れ物を持って来い。あき缶でも何でもいい。大急ぎだぞ」と言った。
私は柔順な弟だった。いつも兄たちの命令には絶対服従だった。私は言いつけに従っていきなり走り出した。私自身、生きた鮒を持って帰りたくもあった。だが、そこから私の家までは二百メートル以上もあった。私は日盛りの、人通りの絶えた乾いた道を小さな下駄を鳴らして夢中になって走った。汗を流し、暑さに喘ぎながら家まで帰りつくと、あき缶を一つ見つけ出して、また同じ道を引き返した。その途中で、石につまずいて転び、膝をすりむいてしまった。私は痛みに耐え、泣きながら走った。それほど私は柔順な弟だった。そして兄を怨んでいた。川岸まで駆け戻ってみると、兄はまだ元のところにうずくまって、一匹の小鮒を両手でつかまえていた。兄は家に帰ってから、(おれが獲った鮒だ)と言った。私はそれが不満だった。
鮒よりも、私はトンボが好きだった。一番大型のオニヤンマは大型という魅力はあるが、黒と黄色のだんだら縞で下品だった。つか
|