a 長文 1.2週 re2
こどもたち

こどもたちの視るものはいつも断片
それだけではなんの意味もなさない断片
たとえ視られても
おとなたちは安心している
なんにもわかりはしないさ あれだけじゃ

しかし
それら一つ一つとの出会いは
すばらしく新鮮しんせんなので
こどもたちは永く記憶きおくにとどめている
よろこびであったもの 驚いおどろ たもの
神秘なもの 醜いみにく ものなどを

青春があらしのようにどっと襲っおそ てくると
こどもたちはなぎ倒さ  たお れながら
ふいにすべての記憶きおく紡ぎつむ はじめる
かれらはかれらのゴブラン織りをはじめる

その時に
父や母 教師や祖国などが
海蛇うみへびや毒草 こわれたかめ ゆがんだ顔の
イメージで ちいさくかたどられるとしたら
それはやはり哀しいかな  ことではないのか

おとなたちにとって
ゆめゆめ油断のならないのは
なによりもまず まわりを走るこどもたち
今はお菓子 かしばかりをねらいにかかっている
この栗鼠りすどもなのである

(『茨木いばらぎのり子詩集』より)
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