a 長文 2.1週 re2
もっと強く

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは明石のたいがたべたいと

もっと強く願っていいのだ
わたしたちはいく種類ものジャムが
いつも食卓しょくたくにあるようにと

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは朝日の射すあかるい台所が
ほしいと

すりきれたくつはあっさりとすて
キュッと鳴る新しいくつ感触かんしょく
もっとしばしば味いたいと

秋 旅に出たひとがあれば
ウィンクで送ってやればいいのだ

なぜだろう
萎縮いしゅくすることが生活なのだと
おもいこんでしまった村と町
家々のひさしは上目づかいのまぶた

おーい 小さな時計屋さん
猫背ねこぜをのばし あなたは叫んさけ でいいのだ
今年もついに土用のうなぎと会わなかったと

おーい 小さなつり道具屋さん
あなたは叫んさけ でいいのだ
おれはまだ伊勢いせの海もみていないと

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女がほしければ奪ううば のもいいのだ
男がほしければ奪ううば のもいいのだ

ああ わたしたちが
もっともっと貪婪どんらんにならないかぎり
なにごとも始りはしないのだ

(『茨木いばらぎのり子詩集』より)

(注)「味いたい」=「味わいたい」 「始り」=「始まり」
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