a 長文 2.3週 re2
悪童たち

春休みの悪童たち
所在なしに
わが家のへいに石を投げる
石は
古びたへいをつきぬけ硝子がらす窓に命中する
思うに
キャッとばかり飛び出してゆく私の姿を
見ようがための悪戯あくぎ
桜の木から偵察ていさつ兵のちびが
するすると逃げに てゆくのを目撃もくげきした
泥棒どろぼうとか実を盗むぬす のならかわいいのだけれど

ある日
とうとう一味の三人をえた
   学校名を言いなさい! 何年生?
   だれがしたの?
   あなたたちの家 どこ?
   あなたたちのお母さんに
   言わなければならないことがある!
一味は頑としてがん   口を割らず
逃げに 首謀しゅぼう者を庇っかば ている
かれらにはかれらのおきてがあり
沈黙ちんもく抵抗ていこう運動の仲間のように完璧かんぺき
私の叫びさけ を不敵な笑いで眺めなが られると
ぎりぎりと拷問ごうもんしても
どろ吐かは せたいさざなみが立ってくる

アルジェリア!
腐臭ふしゅう薫風くんぷうにのってくる
わが青春の日に讃えたた たフランスのたましい
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十数年でさびを呼んでしまったのか!
   おまわりさんを呼んでくる
   という一言をぐっと押えおさ 
   割られた窓を繕いつくろ 
   私は顔をあからめてくびすを返す

次の日は戦法をかえる
へいに石の鳴る時刻
私はほんきでやさしい気持を作って出てゆく
   あなたたち そうしないでね
   自分の家のへいにそうされたら
   困るでしょう
   硝子がらすを割られると本当に困るのよ
ガラスはもはやガラスではなく
微妙びみょうであやしげな人間の権利そのもの
ふるえだ
子供たちはウンという
やさしい言葉で人を征服せいふくするのは
なんてむつかしく しんどい仕事だろう
悪童の顔ぶれは毎日違いちが 
私は毎日出てゆかねばならない
遠視の眼鏡をずりあげながら
シャボンのあわだらけになりながら
菜切包丁を持ったりしたままで
へいひとつむこう
夕暮などは
蚊柱かばしらのように群れている子供たちの広場へ

(『茨木いばらぎのり子詩集』より)
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