a 長文 4.1週 sa2
 1昔(むかし)、田んぼにはナマズやドジョウなどの生き物(い もの)がたくさんすんでいました。しかし、戦後(せんご)、これらの生き物(い もの)は急速(きゅうそく)に減っ(へ )てしまいました。その原因(げんいん)の一つは、田んぼの水路(すいろ)がコンクリートなどで固め(かた )られたために生き物(い もの)がすみにくくなったことです。2もう一つの原因(げんいん)は、田んぼに、強い農薬(のうやく)がまかれたためにやはり生き物(い もの)がすみにくくなったことです。
 田んぼには、稲(いね)を弱らせてしまう虫が発生(はっせい)します。たとえば、ウンカです。3梅雨(つゆ)のころ、雲に乗っ(の )て中国からやってくるウンカは、日本の田んぼで数を増やし(ふ  )、稲(いね)の汁(しる)を吸っ(す )てつぎからつぎへと枯らし(か  )てしまいます。ひどいときは、田んぼの稲(いね)が全滅(ぜんめつ)してしまうほどです。今年もウンカの大発生(はっせい)か。4ウンカ悪い(わる )なあなどと言ってはいられません。またヨコバイも、稲(いね)に病気(びょうき)をうつすやっかいな虫です。農薬(のうやく)をまくことで、一時的(てき)に害虫(がいちゅう)の力を抑え(おさ )て増え(ふ )方を横バイ(よこ  )にすることはできますが、虫たちが農薬(のうやく)に抵抗(ていこう)性(せい)を持ち(も )、やがて前よりも農薬(のうやく)に強くなってしまうという問題(もんだい)があります。 
 5また、農薬(のうやく)をまいたあと、逆(ぎゃく)にウンカが大発生(はっせい)してしまうこともあります。その理由(りゆう)は、農薬(のうやく)によって、ウンカやヨコバイを食べるクモやアメンボなどの天敵(てんてき)が減っ(へ )てしまうからです。
 6そこで、農薬(のうやく)を使わ(つか )ないで稲(いね)を育てる(そだ  )方法(ほうほう)がいろいろと考えられてきました。その一つは、小ブナを田んぼに泳がせる(およ   )ことで、害虫(がいちゅう)を食べてもらったり、草取り(くさと )を手伝っ(てつだ )てもらったりする方法(ほうほう)です。7草取り(くさと )は農家(のうか)にとってはたいへんな重労働(じゅうろうどう)ですが、コイやフナが田んぼを泳ぎ(およ )まわっていると、水がかきまわされてにごるので、雑草(ざっそう)が生えにくくなるのです。小ブナのおかげで、農薬(のうやく)もほとんど使わ(つか )ずにすみます。 
 8田んぼにアイガモを飼っ(か )て、害虫(がいちゅう)を食べさせるという方法(ほうほう)もあります。アイガモは、稲(いね)の天敵(てんてき)であるウンカの卵(たまご)まで食べてし
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まうので、殺虫(さっちゅう)剤(ざい)は不要(ふよう)です。雑草(ざっそう)は、水かきでけられたり、食べられたりして、生えてこなくなります。9その上、アイガモのふんは、とてもいい肥料(ひりょう)になるので、化学(かがく)肥料(ひりょう)をやらなくてもすむのです。まさに一石二鳥。アイガモを使う(つか )方法(ほうほう)はいかがですか。「あ、いいカモ!」0

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(κ)
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a 長文 4.2週 sa2
あし

 1二ひきの馬が、まどのところでぐうるぐうるとひるねをしていました。
 すると、すずしい風がでてきたので、一ぴきがくしゃめをしてめをさましました。
 ところが、あとあしがいっぽんしびれていたので、よろよろとよろけてしまいました。
2「おやおや。」
 そのあしに力をいれようとしても、さっぱりはいりません。
 そこでともだちの馬をゆりおこしました。
「たいへんだ、あとあしを一本、だれかにぬすまれてしまった。」
「だって、ちゃんとついてるじゃないか。」
3「いやこれはちがう。だれかのあしだ。」
「どうして。」
「ぼくの思うままに歩かないもの。ちょっとこのあしをけとばしてくれ。」
 そこで、ともだちの馬は、ひづめでそのあしをぽォんとけとばしました。
4「やっぱりこれは、ぼくのじゃない、いたくないもの。ぼくのあしならいたいはずだ。よし、はやく、ぬすまれたあしをみつけてこよう。」
 そこで、その馬はよろよろと歩いてゆきました。
5「やァ、椅子(いす)がある。椅子(いす)がぼくのあしをぬすんだのかもしれない。よし、けとばしてやろう、ぼくのあしなら、いたいはずだ。」
 馬はかたあしで、椅子(いす)のあしをけとばしました。
 椅子(いす)は、いたいとも、なんともいわないで、こわれてしまいました。
 6馬は、テーブルのあしや、ベッドのあしを、ぽんぽんけってまわりました。けれど、どれもいたいといわなくて、こわれてしまいました。
 いくらさがしてもぬすまれたあしはありません。
「ひょっとしたら、あいつがとったのかもしれない。」
と馬は思いました。
 7そこで、馬は、ともだちの馬のところへかえってきました。そして、すきをみて、ともだちのあとあしをぽォんとけとばしました。
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 するとともだちは、
「いたいッ。」
とさけんでとびあがりました。
8「そォらみろ、それがぼくのあしだ。君(きみ)だろう、ぬすんだのは。」
「このとんまめが。」
 ともだちの馬は力いっぱいけかえしました。
 9しびれがもうなおっていたので、その馬も、
「いたいッ。」
と、とびあがりました。
 そしてやっとのことで、じぶんのあしはぬすまれたのではなく、しびれていたのだとわかりました。0

「新美(にいみ)南吉(なんきち)童話(どうわ)作品(さくひん)集(しゅう)」
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a 長文 4.3週 sa2
狐(きつね)のつかい

 1山のなかに、猿(さる)や鹿(しか)や狼(おおかみ)や狐(きつね)などが、いっしょにすんでおりました。
 みんなはひとつのあんどんをもっていました。紙ではった四角な小さいあんどんでありました。
 夜がくると、みんなはこのあんどんに灯(あかり)をともしたのでありました。
 2あるひの夕方、みんなはあんどんの油(あぶら)がもうなくなっていることに気がつきました。
 そこでだれかが、村の油屋(あぶらや)まで油(あぶら)を買いにゆかねばなりません。さてだれがいったものでしょう。
 3みんなは村にゆくことがすきではありませんでした。村にはみんなのきらいな猟師(りょうし)と犬がいたからであります。
「それではわたしがいきましょう」
とそのときいったものがありました。狐(きつね)です4。狐(きつね)は人間の子どもにばけることができたからでありました。
 そこで、狐(きつね)のつかいときまりました。やれやれとんだことになりました。
 5さて狐(きつね)は、うまく人間の子どもにばけて、しりきれぞうりを、ひたひたとひきずりながら、村へゆきました。そして、しゅびよく油(あぶら)を一合かいました。
 かえりに狐(きつね)が、月夜のなたねばたけのなかを歩いていますと、たいへんよいにおいがします。6気がついてみれば、それは買ってきた油(あぶら)のにおいでありました。
「すこしぐらいは、よいだろう。」
といって、狐(きつね)はぺろりと油(あぶら)をなめました。これはまたなんというおいしいものでしょう。
 狐(きつね)はしばらくすると、またがまんができなくなりました。
7「すこしぐらいはよいだろう。わたしの舌(した)は大きくない。」
といって、またぺろりとなめました。
 しばらくしてまたぺろり。
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 狐(きつね)の舌(した)は小さいので、ぺろりとなめてもわずかなことです。8しかし、ぺろりぺろりがなんどもかさなれば、一合の油(あぶら)もなくなってしまいます。
 こうして、山につくまでに、狐(きつね)は油(あぶら)をすっかりなめてしまい、もってかえったのは、からのとくりだけでした。
 9待っ(ま )ていた鹿(しか)や猿(さる)や狼(おおかみ)は、からのとくりをみてためいきをつきました。これでは、こんやはあんどんがともりません。みんなは、がっかりして思いました、
「さてさて。狐(きつね)をつかいにやるのじゃなかった。」
と。0

「新美(にいみ)南吉(なんきち)童話(どうわ)作品(さくひん)集(しゅう)」
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a 長文 4.4週 sa2
 1冷蔵庫(れいぞうこ)がまだあまり普通(ふつう)の家庭(かてい)にはなかったころ、冷蔵庫(れいぞうこ)には、毒(どく)があって危険(きけん)な物質(ぶっしつ)が使わ(つか )れていました。この物質(ぶっしつ)は、液体(えきたい)からガスに変わる(か  )ときに周り(まわ )を冷やす(ひ  )性質(せいしつ)を持っ(も )ていました。
 2しかし、このように危険(きけん)な物質(ぶっしつ)を、家庭(かてい)におく冷蔵庫(れいぞうこ)に使う(つか )わけにはいきません。そこで、何かいい方法(ほうほう)はないものかと、研究(けんきゅう)が行われました。その結果(けっか)、フロンという新しい物質(ぶっしつ)が見つかりました。
 3フロンは、色も匂い(にお )もない物質(ぶっしつ)で、安定(あんてい)した性質(せいしつ)を持っ(も )ています。性質(せいしつ)が安定(あんてい)しているということは、ほかのものといっしょにしても、ほとんど反応(はんのう)を起こさ(お  )ないということです。また、燃える(も  )こともないので、火事(かじ)の心配(しんぱい)がありません。4さらに、簡単(かんたん)に液体(えきたい)にしたりガスにしたりできるので、取り扱い(と あつか )も楽です。そして、安く(やす )作ることができるのも、大きな長所(ちょうしょ)でした。
 こうして、フロンは「20世紀(せいき)最大(さいだい)の発明(はつめい)」として歓迎(かんげい)され、世界中(せかいじゅう)で使わ(つか )れるようになっていきました。5フロンは、まさに時代(じだい)のフロンティア(最前線(さいぜんせん))でした。
 日本では特に(とく )、精密(せいみつ)機械(きかい)の工場で、部品(ぶひん)を洗う(あら )のに使わ(つか )れました。普通(ふつう)の水にはゴミやほこりが溶け(と )こんでいるため、精密(せいみつ)機械(きかい)の工場では使え(つか )なかったのです。
 6しかし、こんなに長所(ちょうしょ)ばかりがあると思われたフロンに、意外(いがい)な欠点(けってん)があることがわかってきました。地球(ちきゅう)の上空にあるオゾン層(そう)を、フロンが破壊(はかい)するということがわかってきたのです。
 7フロンの長所(ちょうしょ)である安定(あんてい)した性質(せいしつ)が、逆(ぎゃく)に欠点(けってん)にもなっていたのです。フロンは壊れ(こわ )にくく、ほかのものと反応(はんのう)もしないため、そのままガスとなって空気中に出て行きます。8そして空の高いところまで行くと、太陽(たいよう)の強力な紫外線(しがいせん)によって初めて(はじ  )分解(ぶんかい)されることになります。そのときに、フロンから出た塩素(えんそ)がオゾン層(そう)を壊し(こわ )ていくのです。
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 9オゾン層(そう)は、太陽(たいよう)の強力な紫外線(しがいせん)から地球(ちきゅう)上の生き物(い もの)を守っ(まも )ているバリアのようなものです。このバリアが壊さ(こわ )れると、紫外線(しがいせん)が地球(ちきゅう)上に降り注ぎ(ふ そそ )、生き物(い もの)に大きな害(がい)を与え(あた )ます。0こうして、ヒーローだったはずのフロンは、いつの間にか悪者(わるもの)になってしまいました。
 しかし、人間が破壊(はかい)したものは、人間の手によって修復(しゅうふく)できるはずです。オゾン層(そう)を破壊(はかい)することは、人間にとってオーゾン(大損(おおぞん))ですから、今、世界中(せかいじゅう)でオゾン層(そう)を守る(まも )対策(たいさく)が進め(すす )られています。

「フロンさん、元気出してね。君(きみ)が悪い(わる )わけじゃなく、たまたまオゾン君(くん)と仲(なか)が悪かっ(わる  )ただけなんだから。」
「うん、フロン、がんばる。フロンでも(ころんでも)ただでは起き(お )ないわ。」
「そう。オゾン君(くん)も、だんだん元気が出てきたようだから。」
「オイゾンも、これからがんばって、紫外線(しがいせん)からみんなを守る(まも )でごわす。」
 フロー、フロー、オゾン!

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(τ)
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a 長文 5.1週 sa2
蟹(かに)のしょうばい

 1蟹(かに)がいろいろ考えたあげく、とこやをはじめました。蟹(かに)の考えとしてはおおできでありました。
 ところで、蟹(かに)は、
「とこやというしょうばいは、たいへんひまなものだな。」
と思いました。と申し(もう )ますのは、ひとりもお客( きゃく)さんがこないからであります。
 2そこで、蟹(かに)のとこやさんは、はさみをもって海っぱたにやっていきました。そこにはたこがひるねをしていました。
「もしもし、たこさん。」
と蟹(かに)はよびかけました。
 たこはめをさまして、
「なんだ。」
といいました。
3「とこやですが、ごようはありませんか。」
「よくごらんよ。わたしの頭に毛があるかどうか。」
 蟹(かに)はたこの頭をよくみました。なるほど毛はひとすじもなく、つるんこでありました。いくら蟹(かに)がじょうずなとこやでも、毛のない頭をかることはできません。
 4蟹(かに)は、そこで、山へやっていきました。山にはたぬきがひるねをしていました。
「もしもし、たぬきさん。」
 たぬきはめをさまして、
「なんだ。」
といいました。
「とこやですがごようはありませんか。」
 5たぬきは、いたずらがすきなけものですから、よくないことを考えました。
「よろしい、かってもらおう。ところで、ひとつやくそくしてくれなきゃいけない。というのは、わたしのあとで、わたしのお父さんの毛もかってもらいたいのさ。」
「へい、おやすいことです。」
 6そこで、蟹(かに)のうでをふるうときがきました。
 ちょっきん、ちょっきん、ちょっきん。
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 ところが、蟹(かに)というものは、あまり大きなものではありません。蟹(かに)とくらべたら、たぬきはとんでもなく大きなものであります。7その上、たぬきというものは、からだじゅうが毛むくじゃらであります。ですから、仕事(しごと)はなかなかはかどりません。蟹(かに)は口から泡(あわ)をふいていっしょうけんめいはさみをつかいました。そして三日かかって、やっとのこと仕事(しごと)はおわりました。
8「じゃ、やくそくだから、わたしのお父さんの毛もかってくれたまえ。」
「お父さんというのは、どのくらい大きなかたですか。」
「あの山くらいあるかね。」
 蟹(かに)はめんくらいました。そんなに大きくては、とてもじぶんひとりでは、まにあわぬと思いました。
 9そこで蟹(かに)は、じぶんの子どもたちをみなとこやにしました。子どもばかりか、まごもひこも、うまれてくる蟹(かに)はみなとこやにしました。
 それでわたくしたちが道ばたにみうける、ほんに小さな蟹(かに)でさえも、ちゃんとはさみをもっています。0

「新美(にいみ)南吉(なんきち)童話(どうわ)作品(さくひん)集(しゅう)」
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a 長文 5.2週 sa2
ひとつの火

 1わたしが子どもだったじぶん、わたしの家は、山のふもとの小さな村にありました。
 わたしの家では、ちょうちんやろうそくを売っておりました。
 ある晩(ばん)のこと、ひとりのうしかいが、わたしの家でちょうちんとろうそくを買いました。
2「ぼうや、すまないが、ろうそくに火をともしてくれ。」
と、うしかいがわたしにいいました。
 わたしはまだマッチをすったことがありませんでした。
 そこで、おっかなびっくり、マッチの棒(ぼう)のはしの方をもってすりました。3すると、棒(ぼう)のさきに青い火がともりました。
 わたしはその火をろうそくにうつしてやりました。
「や、ありがとう。」
といって、うしかいは、火のともったちょうちんを牛のよこはらのところにつるして、いってしまいました。
 4わたしはひとりになってから考えました。
 ――わたしのともしてやった火はどこまでゆくだろう。
 あのうしかいは山の向こう(む  )の人だから、あの火も山をこえてゆくだろう。
 5山の中で、あのうしかいは、べつの村にゆくもうひとりの旅人(たびびと)にゆきあうかもしれない。
 するとその旅人(たびびと)は、
「すみませんが、その火をちょっとかしてください。」
といって、うしかいの火をかりて、じぶんのちょうちんにうつすだろう。
 6そしてこの旅人(たびびと)は、よっぴて山道をあるいてゆくだろう。
 すると、この旅人(たびびと)は、たいこやかねをもったおおぜいのひとびとにあうかもしれない。
 その人たちは、
「わたしたちの村のひとりの子どもが、狐(きつね)にばかされて村にかえってきません。7それでわたしたちはさがしているのです。すみませんが、ちょっとちょうちんの火をかしてください。」
といって旅人(たびびと)から火をかり、みんなのちょうちんにつけるだろう。8長いちょうちんやまるいちょうちんにつけるだろう。
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 そしてこの人たちは、かねやたいこをならして、山や谷をさがしてゆくだろう。

 9わたしはいまでも、あのときわたしがうしかいのちょうちんにともしてやった火が、つぎからつぎへうつされて、どこかにともっているのではないか、とおもいます。0


「新美(にいみ)南吉(なんきち)童話(どうわ)作品(さくひん)集(しゅう)」
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a 長文 5.3週 sa2
 1ここに茶わんが一つあります。中には熱い(あつ )湯(ゆ)がいっぱいはいっております。ただそれだけではなんのおもしろみもなく不思議(ふしぎ)もないようですが、よく気をつけて見ていると、だんだんにいろいろの微細(びさい)なことが目につき、さまざまの疑問(ぎもん)が起こっ(お  )て来るはずです。2ただ一ぱいのこの湯(ゆ)でも、自然(しぜん)の現象(げんしょう)を観察(かんさつ)し研究(けんきゅう)することの好き(す )な人には、なかなかおもしろい見物(みもの)です。
 第(だい)一に、湯(ゆ)の面(めん)からは白い湯(ゆ)げが立っています。3これはいうまでもなく、熱い(あつ )水蒸気(すいじょうき)が冷え(ひ )て小さな滴(しずく)になったのが無数(むすう)に群がっ(むら  )ているので、ちょうど雲や霧(きり)と同じようなものです。この茶わんを縁側(えんがわ)の日向(ひなた)へ持ち出し(も だ )て、日光を湯(ゆ)げにあて、向こう(む  )側(がわ)に黒い布(ぬの)でもおいてすかして見ると、滴(しずく)の粒(つぶ)の大きいのはちらちらと目に見えます。4場合により、粒(つぶ)があまり大きくないときには、日光にすかして見ると、湯(ゆ)げの中に、虹(にじ)のような、赤や青の色がついています。これは白い薄(うす)雲が月にかかったときに見えるのと似(に)たようなものです。5この色についてはお話しすることがどっさりありますが、それはまたいつか別(べつ)のときにしましょう。
 6すべて全く(まった )透明(とうめい)なガス体の蒸気(じょうき)が滴(しずく)になる際(さい)には、必ず(かなら )何かその滴(しずく)の心(しん)になるものがあって、そのまわりに蒸気(じょうき)が凝っ(こ )てくっつくので、もしそういう心(しん)がなかったら、霧(きり)は容易(ようい)にできないということが学者(がくしゃ)の研究(けんきゅう)でわかって来ました。7その心(しん)になるものは通例(つうれい)、顕微鏡(けんびきょう)でも見えないほどの、非常(ひじょう)に細かい塵(ちり)のようなものです。空気中には、それが自然(しぜん)にたくさん浮遊(ふゆう)しているのです。8空中に浮かん(う  )でいた雲が消え(き )てしまった跡(あと)には、今言った塵(ちり)のようなものばかりが残っ(のこ )ていて、飛行機(ひこうき)などで横(よこ)からすかして見ると、ちょうど煙(けむり)が広がっているように見えるそうです。
 9茶わんから上がる湯(ゆ)げをよく見ると、湯(ゆ)が熱い(あつ )かぬるいかが、おおよそわかります。締め切っ(し き )た室(へや)で、人の動き回ら(うご まわ )ないときだと
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ことによくわかります。熱い(あつ )湯(ゆ)ですと湯(ゆ)げの温度(おんど)が高くて、周囲(しゅうい)の空気に比べ(くら )てよけいに軽い(かる )ために、どんどん盛ん(さか )に立ちのぼります。0反対(はんたい)に湯(ゆ)がぬるいと、勢い(いきお )が弱いわけです。湯(ゆ)の温度(おんど)を計る寒暖計(かんだんけい)があるなら、いろいろ自分でためしてみるとおもしろいでしょう。もちろんこれは、まわりの空気の温度(おんど)によっても違い(ちが )ますが、おおよその見当はわかるだろうと思います。

(寺田寅彦(とらひこ) 大正十一年五月、赤い鳥)

※「通常(つうじょう)は芯(しん)という字が遣わ(つか )れることが多いと思いますが原本は「心(しん)」となっています。
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a 長文 5.4週 sa2
 1哺乳類(ほにゅうるい)の赤ちゃんは、母親からミルクを与え(あた )られて育ち(そだ )ます。動物(どうぶつ)のミルクの成分(せいぶん)は、みな同じではなく、それぞれに特徴(とくちょう)があります。2たとえば、オランウータンやチンパンジーなどは、母親がいつも子供(こども)のそばにいてミルクを与える(あた  )ことができる生活をしているので、ミルクは薄く(うす )、たんぱく質(    しつ)と脂肪(しぼう)が少なくなっています。
 3ところが、ライオンなどの狩り(か )に出かける動物(どうぶつ)は、母親が何時間も留守(るす)にするため、その間は子供(こども)にミルクを与える(あた  )ことができません。長時間子供(こども)のお腹(なか)を満たし(み  )ておく必要(ひつよう)があるので、ミルクは濃く(こ )、たんぱく質(    しつ)と脂肪(しぼう)をたくさん含ん(ふく )でいます。
 4また、寒い(さむ )地方や水中にすむ動物(どうぶつ)は、体温(たいおん)をうばわれないように、皮膚(ひふ)の下にたくさんの脂肪(しぼう)をたくわえています。この仲間(なかま)であるアザラシやアシカのミルクはとても濃く(こ )、脂肪(しぼう)がたくさん含ま(ふく )れています。
 5クジラやイルカの赤ちゃんは、水中でミルクを飲み(の )ますが、まだ赤ちゃんなので長時間もぐっていることができません。そこで、短い(みじか )時間でもたくさんの栄養(えいよう)を取れる(と  )ように、やはり濃い(こ )ミルクになっています。
 6人間のお腹(なか)の中(なか)には、たくさんの細菌(さいきん)がすんでいて、その中には役に立つ(やく た )ものと病気(びょうき)のもとになるものがあります。赤ちゃんのお腹(なか)の中(なか)にも、生まれて間もなく、さまざまな細菌(さいきん)がすみつきはじめます。7母乳(ぼにゅう)には、赤ちゃんにとって役に立つ(やく た )微生物(びせいぶつ)が増える(ふ  )ための成分(せいぶん)や、病気(びょうき)のもとになる細菌(さいきん)を増やさ(ふ  )ないようにする成分(せいぶん)が入っていて、赤ちゃんの健康(けんこう)を保つ(たも )大きな役(やく)割り(わ )を果たし(は  )ています。
 8赤ちゃんが生まれて間もないころの母乳(ぼにゅう)は、初乳(しょにゅう)と呼ば(よ )れています。人間の体には、外から入ってきた病気(びょうき)のもとを撃退(げきたい)するための免疫(めんえき)というシステムがありますが、生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ免疫(めんえき)を十分(じゅうぶん)に持っ(も )ていません。9初乳(しょにゅう)には、お母さんが
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持っ(も )ている免疫(めんえき)物質(ぶっしつ)がふくまれていて、それが赤ちゃんの体の中で吸収(きゅうしゅう)されて、いろいろな病気(びょうき)から赤ちゃんを守っ(まも )ているのです。

 おっぱいには、このようにいろいろなものがいっぱい入っています。
 0しかし、赤ちゃんが大きくなり、自分でご飯( はん)が食べられるようになると、やがて赤ちゃんは自分の力で生きていくようになります。
 そこで、「おっぱいさん、グッパーイ」となるわけです。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(κ)
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a 長文 6.1週 sa2
 1次(つぎ)に湯(ゆ)げが上がるときにはいろいろの渦(うず)ができます。これがまたよく見ているとなかなかおもしろいものです。2線香(せんこう)の煙(けむり)でもなんでも、煙(けむり)の出るところからいくらかの高さまではまっすぐに上(のぼ)りますが、それ以上(いじょう)は煙(けむり)がゆらゆらして、いくつもの渦(うず)になり、それがだんだんに広がり入り乱れ(い みだ )て、しまいに見えなくなってしまいます。3茶わんの湯(ゆ)げなどの場合だと、もう茶わんのすぐ上から大きく渦(うず)ができて、それがかなり早く回りながら上って行きます。
 これとよく似(に)た渦(うず)で、もっと大きなのが庭(にわ)の上なぞにできることがあります。4春先などのぽかぽか暖かい(あたた  )日には、前日雨でもふって土のしめっているところへ日光が当たって、そこから白い湯(ゆ)げが立つことがよくあります。そういうときによく気をつけて見ていてごらんなさい。5湯(ゆ)げは、縁(えん)の下や垣根(かきね)のすきまから冷たい(つめ  )風が吹き込む(ふ こ )たびに、横(よこ)になびいてはまた立ち上ります。そして時々大きな渦(うず)ができ、それがちょうど竜巻(たつまき)のようなものになって、地面(じめん)から何尺(しゃく)もある、高い柱(はしら)の形になり、非常(ひじょう)な速(はや)さで回転(かいてん)するのを見ることがあるでしょう。
 6茶わんの上や、庭先(にわさき)で起こる(お  )渦(うず)のようなもので、もっと大仕掛け(しか )なものがあります。それは雷雨(らいう)のときに空中に起こっ(お  )ている大きな渦(うず)です。陸地(りくち)の上のどこかの一地方が日光のために特別(とくべつ)にあたためられると、そこだけは、地面(じめん)から蒸発(じょうはつ)する水蒸気(すいじょうき)が特に(とく )多くなります。7そういう地方のそばに、割合(わりあい)に冷たい(つめ  )空気におおわれた地方がありますと、前に言った地方の暖かい(あたた  )空気が上がって行くあとへ、入り代わり(か  )にまわりの冷たい(つめ  )空気が下から吹き込ん(ふ こ )で来て大きな渦(うず)ができます。そして雹(ひょう)がふったり雷(かみなり)が鳴ったりします。
 8これは茶わんの場合に比べる(くら  )と仕掛け(しか )がずっと大きくて、渦(うず)の高さも一里とか二里とかいうのですからそういう、いろいろな
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変わっ(か  )たことが起こる(お  )のですが、しかしまた見方によっては、茶わんの湯(ゆ)とこうした雷雨(らいう)とはよほどよく似(に)たものと思ってもさしつかえありません。9もっとも雷雨(らいう)のでき方は、今言ったような場合ばかりでなく、だいぶ模様(もよう)のちがったのもありますから、どれもこれもみんな茶わんの湯(ゆ)に比べる(くら  )のは無理(むり)ですがただ、ちょっと見ただけではまるで関係(かんけい)のないような事(こと)がらが、原理の上からはお互いに( たが  )よく似(に)たものに見えるという一つの例(れい)に雷(かみなり)をあげてみたのです。0
 湯(ゆ)げのお話はこのくらいにして、今度(こんど)は湯(ゆ)のほうを見ることにしましょう。

(寺田寅彦(とらひこ) 大正十一年五月、赤い鳥)

※一里は約(やく)三・九キロメートル。
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 1白い茶わんにはいっている湯(ゆ)は、日陰(ひかげ)で見ては別に(べつ )変わっ(か  )た模様(もよう)も何もありませんが、それを日向(ひなた)へ持ち出し(も だ )て直接(ちょくせつ)に日光を当て、茶わんの底(そこ)をよく見てごらんなさい。2そこには妙(みょう)なゆらゆらした光った線や薄暗い(うすぐら )線が不規則(ふきそく)な模様(もよう)のようになって、それがゆるやかに動い(うご )ているのに気がつくでしょう。これは夜電燈()の光をあてて見ると、もっとよくあざやかに見えます。3夕食のお膳(ぜん)の上でもやれますからよく見てごらんなさい。それもお湯( ゆ)がなるべく熱い(あつ )ほど模様(もよう)がはっきりします。
 次に(つぎ )、茶わんのお湯( ゆ)がだんだんに冷える(ひ  )のは、湯(ゆ)の表面(ひょうめん)の茶わんの周囲(しゅうい)から熱(ねつ)が逃げる(に  )ためだと思っていいのです。4もし表面(ひょうめん)にちゃんとふたでもしておけば、冷やさ(ひ  )れるのはおもにまわりの茶わんにふれた部分(ぶぶん)だけになります。そうなると、茶わんに接し(せっ )たところでは湯(ゆ)は冷え(ひ )て重く(おも )なり、下のほうへ流れ(なが )て底(そこ)のほうへ向かっ(む  )て動き(うご )ます。5その反対(はんたい)に、茶わんのまん中のほうでは逆(ぎゃく)に上のほうへのぼって、表面(ひょうめん)からは外側(そとがわ)に向かっ(む  )て流れる(なが  )、だいたいそういうふうな循環(じゅんかん)が起こり(お  )ます。よく理科の書物(しょもつ)なぞにある、ビーカーの底(そこ)をアルコール・ランプで熱し(ねっ )たときの水の流れ(なが )と同じようなものになるわけです。6これは湯(ゆ)の中に浮かん(う  )でいる、小さな糸くずなどの動く(うご )のを見ていても、いくらかわかるはずです。
 しかし茶わんの湯(ゆ)をふたもしないで置い(お )た場合には、湯(ゆ)は表面(ひょうめん)からも冷え(ひ )ます。7そしてその冷え(ひ )方がどこも同じではないので、ところどころ特別(とくべつ)に冷たい(つめ  )むらができます。そういう部分(ぶぶん)からは、冷え(ひ )た水が下へ降りる(お  )、そのまわりの割合(わりあい)に熱い(あつ )表面(ひょうめん)の水がそのあとへ向かっ(む  )て流れる(なが  )、それが降り(お )た水のあとへ届く(とど )時分には冷え(ひ )てそこからおりる。8こんなふうにして湯(ゆ)の表面(ひょうめん)には水の降り(お )ているところとのぼっているところとが方々にできます。従って(したが  )湯(ゆ)の中までも、熱い(あつ )ところと割合(わりあい)にぬるいところとがいろいろに
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入り乱れ(い みだ )てできて来ます。9これに日光を当てると熱い(あつ )ところと冷たい(つめ  )ところとの境(さかい)で光が曲がる(ま  )ために、その光が一様(いちよう)にならず、むらになって茶わんの底(そこ)を照らし(て  )ます。そのためにさきに言ったような模様(もよう)が見えるのです。
 0日の当たった壁(かべ)や屋根(やね)をすかして見ると、ちらちらしたものが見えることがあります。あの「かげろう」というものも、この茶わんの底(そこ)の模様(もよう)と同じようなものです。「かげろう」が立つのは、壁(かべ)や屋根(やね)が熱(ねつ)せられると、それに接し(せっ )た空気が熱く(あつ )なって膨脹(ぼうちょう)してのぼる、そのときにできる気流(きりゅう)のむらが光を折り曲げる(お ま  )ためなのです。

(寺田寅彦(とらひこ) 大正十一年五月、赤い鳥)
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 1このような水や空気のむらを非常(ひじょう)に鮮明(せんめい)に見えるようにくふうすることができます。2その方法(ほうほう)を使っ(つか )て鉄砲(てっぽう)のたまが空中を飛ん(と )でいるときに、前面(ぜんめん)の空気を押しつけ(お   )ているありさまや、たまの後ろに渦巻(うずまき)を起こし(お  )て進ん(すす )でいる様子(ようす)を写真(しゃしん)にとることもできるし、また飛行機(ひこうき)のプロペラーが空気を切っている模様(もよう)を調べ(しら )たり、そのほかいろいろのおもしろい研究(けんきゅう)をすることができます。
 3近ごろはまたそういう方法(ほうほう)で、望遠鏡(ぼうえんきょう)を使っ(つか )て空中の高いところの空気のむらを調べよ(しら  )うとしている学者(がくしゃ)もいたようです。
 4次(つぎ)には熱い(あつ )茶わんの湯(ゆ)の表面(ひょうめん)を日光にすかして見ると、湯(ゆ)の面(めん)に虹(にじ)の色のついた霧(きり)のようなものが一皮(ひとかわ)かぶさっており、それがちょうど亀裂(きれつ)のように縦横(たてよこ)に破れ(やぶ )て、そこだけが透明(とうめい)に見えます。5この不思議(ふしぎ)な模様(もよう)が何であるかということは、私(わたし)の調べ(しら )たところではまだあまりよくわかっていないらしい。しかしそれも前の温度(おんど)のむらと何か関係(かんけい)のあることだけは確か(たし )でしょう。
 6湯(ゆ)が冷える(ひ  )ときにできる熱い(あつ )冷たい(つめ  )むらがどうなるかということは、ただ茶わんのときだけの問題(もんだい)ではなく、たとえば湖水(こすい)や海の水が冬になって表面(ひょうめん)から冷え(ひ )て行くときにはどんな流れ(なが )が起こる(お  )かというようなことにも関係(かんけい)して来ます。7そうなるといろいろの実用(じつよう)上の問題(もんだい)と縁(えん)がつながって来ます。
 地面(じめん)の空気が日光のために暖め(あたた )られてできるときのむらは、飛行(ひこう)家にとっては非常(ひじょう)に危険(きけん)なものです。いわゆる突風(とっぷう)なるものがそれです。8たとえば森と畑地(はたち)との境(さかい)のようなところですと、畑(はたけ)のほうが森よりも日光のためによけいにあたためられるので、畑(はたけ)では空気が上り森ではくだっています。それで畑(はたけ)の上から飛ん(と )で来て森の上へかかると、飛行機(ひこうき)は自然(しぜん)と下のほうへ押し(お )おろされる傾き(かたむ )があります。9これがあまりにはげしくなると危険(きけん)になるのです。これと同じような気流(きりゅう)の循環(じゅんかん)が、もっと大仕掛(じか)けに陸地(りくち)と海との
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間に行なわれております。それはいわゆる海陸(かいりく)風と呼ば(よ )れているもので、昼間は海から陸(りく)へ、夜は反対(はんたい)に陸(りく)から海へ吹き(ふ )ます。少し高いところでは反対(はんたい)の風が吹い(ふ )ています。
 0これと同じようなことが、山の頂き(いただ )と谷との間にあって、山谷風(さんこくふう)と名づけられています。これがもういっそう大仕掛(じか)けになって、たとえばアジア大陸(たいりく)と太平洋(たいへいよう)との間に起こる(お  )とそれがいわゆる季節風(きせつふう)(モンスーン)で、われわれが冬期(とうき)に受ける(う  )北西の風と、夏期(かき)の南がかった風になるのです。
 茶わんの湯(ゆ)のお話は、すればまだいくらでもありますが、今度(こんど)はこれくらいにしておきましょう。

(寺田寅彦(とらひこ) 大正十一年五月、赤い鳥)
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 1七五三というのは年のことですが、実際(じっさい)は六歳(さい)や四歳(さい)でお祝い( いわ )をすることがあります。七五三の年は、数え年というもので、実際(じっさい)の年より一つか二つ上になります。どうしてこういう年の数え方をするのでしょう。
 2今は誕生(たんじょう)日がくると一つ年をとる満年齢(まんねんれい)が普通(ふつう)です。しかし、昔(むかし)はそうではありませんでした。新しい年がくると、みんないっせいに一つ年をとったのです。
 3お年玉というのは、もともと年の魂(たましい)のことで、お正月に年の魂(たましい)であるお餅(もち)を食べて、年を一つとったというわけです。
 この数え年の考え方は東洋(とうよう)のもので、西洋(せいよう)では昔(むかし)から今のような満年齢(まんねんれい)の数え方でした。4西洋(せいよう)では、赤ちゃんが生まれてきたときから、年齢(ねんれい)を数えます。しかし、日本では、お母さんのおなかにいるときから赤ちゃんの年齢(ねんれい)を数えるため、生まれた瞬間(しゅんかん)に一歳(さい)としました。5もし、十二月三十一日に生まれたとしたら、その赤ちゃんは生まれたときにもう一歳(さい)です。そして、次(つぎ)の日に元旦(がんたん)を迎える(むか  )と、すぐに二歳(さい)になるのです。
 6だれもが同じ一月一日に一つ年をとるというのは、それだけ年が改まる(あらた  )お正月の意味(いみ)が大きかったからなのかもしれません。
 今の満年齢(まんねんれい)の数え方になったのは、第(だい)二次(じ)世界(せかい)大戦(たいせん)後のことです。7生まれた日から数える満年齢(まんねんれい)の考え方は、それなりに正確(せいかく)で実用(じつよう)的(てき)です。しかし、お正月にお餅(もち)を食べていっせいに年をとった古き時代(じだい)のやり方には、等しく(ひと  )命(いのち)を大事(だいじ)にする文化(ぶんか)があったように思えます。
 8お正月は、お雑煮(ぞうに)のお餅(もち)を食べながら、モチっと日本の文化(ぶんか)について考えてみるのもいいかもしれません。

 七五三は、三歳(さい)五歳(さい)七歳(さい)でお祝い( いわ )をします。9どうして、年齢(ねんれい)の順(じゅん)に三五七と言わないかというと、次(つぎ)のようなことがあるからです。
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「えーと、そろそろうちの子も、あれだな。あの三五、えーと三五……」
「十五でしょ」0

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(α)
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