a 長文 4.2週 sa2
あし

 二ひきの馬が、まどのところでぐうるぐうるとひるねをしていました。
 すると、すずしい風がでてきたので、一ぴきがくしゃめをしてめをさましました。
 ところが、あとあしがいっぽんしびれていたので、よろよろとよろけてしまいました。
「おやおや。」
 そのあしに力をいれようとしても、さっぱりはいりません。
 そこでともだちの馬をゆりおこしました。
「たいへんだ、あとあしを一本、だれかにぬすまれてしまった。」
「だって、ちゃんとついてるじゃないか。」
「いやこれはちがう。だれかのあしだ。」
「どうして。」
「ぼくの思うままに歩かないもの。ちょっとこのあしをけとばしてくれ。」
 そこで、ともだちの馬は、ひづめでそのあしをぽォんとけとばしました。
「やっぱりこれは、ぼくのじゃない、いたくないもの。ぼくのあしならいたいはずだ。よし、はやく、ぬすまれたあしをみつけてこよう。」
 そこで、その馬はよろよろと歩いてゆきました。
「やァ、椅子いすがある。椅子いすがぼくのあしをぬすんだのかもしれない。よし、けとばしてやろう、ぼくのあしなら、いたいはずだ。」
 馬はかたあしで、椅子いすのあしをけとばしました。
 椅子いすは、いたいとも、なんともいわないで、こわれてしまいました。
 馬は、テーブルのあしや、ベッドのあしを、ぽんぽんけってまわりました。けれど、どれもいたいといわなくて、こわれてしまいました。
 いくらさがしてもぬすまれたあしはありません。
「ひょっとしたら、あいつがとったのかもしれない。」
と馬は思いました。
 そこで、馬は、ともだちの馬のところへかえってきました。そして、すきをみて、ともだちのあとあしをぽォんとけとばしました。
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 するとともだちは、
「いたいッ。」
とさけんでとびあがりました。
「そォらみろ、それがぼくのあしだ。きみだろう、ぬすんだのは。」
「このとんまめが。」
 ともだちの馬は力いっぱいけかえしました。
 しびれがもうなおっていたので、その馬も、
「いたいッ。」
と、とびあがりました。
 そしてやっとのことで、じぶんのあしはぬすまれたのではなく、しびれていたのだとわかりました。

新美にいみ南吉なんきち童話どうわ作品さくひんしゅう
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