a 長文 4.3週 sa2
きつねのつかい

 山のなかに、さる鹿しかおおかみきつねなどが、いっしょにすんでおりました。
 みんなはひとつのあんどんをもっていました。紙ではった四角な小さいあんどんでありました。
 夜がくると、みんなはこのあんどんにあかりをともしたのでありました。
 あるひの夕方、みんなはあんどんのあぶらがもうなくなっていることに気がつきました。
 そこでだれかが、村の油屋あぶらやまであぶらを買いにゆかねばなりません。さてだれがいったものでしょう。
 みんなは村にゆくことがすきではありませんでした。村にはみんなのきらいな猟師りょうしと犬がいたからであります。
「それではわたしがいきましょう」
とそのときいったものがありました。きつねですきつねは人間の子どもにばけることができたからでありました。
 そこで、きつねのつかいときまりました。やれやれとんだことになりました。
 さてきつねは、うまく人間の子どもにばけて、しりきれぞうりを、ひたひたとひきずりながら、村へゆきました。そして、しゅびよくあぶらを一合かいました。
 かえりにきつねが、月夜のなたねばたけのなかを歩いていますと、たいへんよいにおいがします。気がついてみれば、それは買ってきたあぶらのにおいでありました。
「すこしぐらいは、よいだろう。」
といって、きつねはぺろりとあぶらをなめました。これはまたなんというおいしいものでしょう。
 きつねはしばらくすると、またがまんができなくなりました。
「すこしぐらいはよいだろう。わたしのしたは大きくない。」
といって、またぺろりとなめました。
 しばらくしてまたぺろり。
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 きつねしたは小さいので、ぺろりとなめてもわずかなことです。しかし、ぺろりぺろりがなんどもかさなれば、一合のあぶらもなくなってしまいます。
 こうして、山につくまでに、きつねあぶらをすっかりなめてしまい、もってかえったのは、からのとくりだけでした。
 待っま ていた鹿しかさるおおかみは、からのとくりをみてためいきをつきました。これでは、こんやはあんどんがともりません。みんなは、がっかりして思いました、
「さてさて。きつねをつかいにやるのじゃなかった。」
と。

新美にいみ南吉なんきち童話どうわ作品さくひんしゅう
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