ひとつの火
1わたしが子どもだったじぶん、わたしの家は、山のふもとの小さな村にありました。
わたしの家では、ちょうちんやろうそくを売っておりました。
ある晩のこと、ひとりのうしかいが、わたしの家でちょうちんとろうそくを買いました。
2「ぼうや、すまないが、ろうそくに火をともしてくれ。」
と、うしかいがわたしにいいました。
わたしはまだマッチをすったことがありませんでした。
そこで、おっかなびっくり、マッチの棒のはしの方をもってすりました。3すると、棒のさきに青い火がともりました。
わたしはその火をろうそくにうつしてやりました。
「や、ありがとう。」
といって、うしかいは、火のともったちょうちんを牛のよこはらのところにつるして、いってしまいました。
4わたしはひとりになってから考えました。
――わたしのともしてやった火はどこまでゆくだろう。
あのうしかいは山の向こうの人だから、あの火も山をこえてゆくだろう。
5山の中で、あのうしかいは、べつの村にゆくもうひとりの旅人にゆきあうかもしれない。
するとその旅人は、
「すみませんが、その火をちょっとかしてください。」
といって、うしかいの火をかりて、じぶんのちょうちんにうつすだろう。
6そしてこの旅人は、よっぴて山道をあるいてゆくだろう。
すると、この旅人は、たいこやかねをもったおおぜいのひとびとにあうかもしれない。
その人たちは、
「わたしたちの村のひとりの子どもが、狐にばかされて村にかえってきません。7それでわたしたちはさがしているのです。すみませんが、ちょっとちょうちんの火をかしてください。」
といって旅人から火をかり、みんなのちょうちんにつけるだろう。8長いちょうちんやまるいちょうちんにつけるだろう。
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