1ところが、千曲川のいきは、はやくはやく川へいきたいばっかりでしたが、かえりに、この目のさめるような赤ナスばたけのそばをとおるときは、子どもたちの心は、大きくゆらぎました。だいいち、さんざ水をあびてつかれていました。2いきはよいよいかえりはこわいのうたのように、子どもたちは、身も心もだれきっていました。一休みして水がほしかった。そこへもってきてさかをのぼりつめたとたん、この赤ナスばたけのふうけいは、たまらなかったのです。
3その日はどういう日だったか、がまんしきれないで、はるきち、よしお、ちよの三人で、ちよはわたしでした。とうとう、一つとってたべてみようということになって、はるきちがはたけへはいり、よしおとちよが、見はりばんでした。
4「すみのほうのをもいで、すぐにげだせばいいぞ。」
はるきちは、こしをこごめて、わたしたちからはなれていきました。よしおは、家へはいる道のトマトの木にかくれ、ちよは、すこしはなれたところにたって、家のほうを見つめて、見はりをしていました。
5ここで三人は、ちょっとけいさんちがいをしていたのです。家の中から人がでてくるということばかりかんがえて、見はりばんをしていて、うしろからだれかくるかもしれないということは、かんがえてもみなかったことです。6それだけ、人どおりのないところだったせいもあったかもしれません。
赤ナスの木の葉のかげに、はるきちの頭が見えていましたが、すぐ見えなくなりました。
「とったなーっ。」
ちよは、むねがどきんとしたけれど、こんなにあるんだから、一つや二つわかるものかと、気を大きくしていたときです。7まったくおもいがけないことになりました。わたしのたっているうしろから、
「これこれ、赤ナスがほしいのかね。」
わらい顔でひんのいいおばあさんがふろしきづつみをかかえて、こうもりがさをさしかけたまま、よびかけたのです。
8わたしは、はっとしたまま、にげだせません。はるきちとよしおは、それっ! とばかり、ふたたび千曲川のほうへ、ころげるようににげだしました。わたしは、こまってしまいました。
「女の子がこんなことをすると、家の人がかなしがりますよ。」
9やさしいことばでした。
「どこのむすめさんだね。」
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