a 長文 2.2週 se2
 母まで、まるでわたしのことなどわすれたように、白いまえかけのひもをきゅっとむすぶと、もうながしばのほうにいってしまいました。
 わたしはしかたなく、かつよねえちゃんを、よこ目でひとにらみしてから、うらにわのむこうのはなれにいきました。
 はなれでは、太郎たろうくん、みっちゃん、としぼうたち、ちびすけばかり五、六人が、ひとかたまりであそんでいました。
「あ、ゆう子ちゃんだ。」
と、みっちゃんがとびついてきました。みっちゃんは、わたしより一さい年下のなかよしです。でもわたしは、ぶすっとつったっていました。このままはなれでちびすけたちのあいてをするなんて、じつにつまらないことにおもえてきたからです。
「ねえ、あそぼうよ。」
 みっちゃんがわたしの手を、しきりにひっぱります。そのとき、いいことをおもいつきました。家の中のたんけんをしてやろう、とおもったのです。
「みっちゃん、おいで。」
 わたしはみっちゃんをつれて、いそいではなれをとびだし、うらにわのしげみにかくれて、ざしきのようすをうかがいました。
「なにするの。」
「しっ、だまって、たんけんよ。」
「たんけん?」
「うん、そうっと家の中にはいってなにかいいものさがしだそう。かあちゃんたちに見つからないようにね。」
「見つかったらいけないの?」
「そうよ、見つかったら、たんけんにならないよ。」
「うん、おもしろそうだね、たんけんって。」
 みっちゃんはすぐにうなずきました。みっちゃんは、いつもわたしのいうなりになるのです。
 ふたりはざしきのよこにまわり、ろうかのすみっこから家の中にしのびこみました。そしてまず、ふろばにとびこみました。
 ざしきのほうからきこえてくる、おじいさんたちのはなし声やわらい声。だいどころの水の音、おさらのふれあう音や足音。いろんな音に耳をすましながら、ふたりは、かがみのまえでくびをすくめてくすりとわらいました。
「あ、かあちゃんの声だ。」
みっちゃんが、とびだそうとしました。
「だめ、みっちゃん。見つかったら、また、はなれにつれもどされるよ。」
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 それからふたりは、かべにそって、そうっと、そうっと、せ中をまるめてあるきました。
 だいどころのそばの、小べやのまえまできたときです。
「あれ、なに?」
と、みっちゃんがゆびさしました。
 せまいへやじゅうには、おさらをだしたあとの木ばこなどが、ほうりだしてありました。そのまん中にテーブルが一つ、そしてテーブルの上に、なんだか大そうおいしそうなものが、どんぶりに山もりにおいてあるのです。
 だれもいません。ふたりはテーブルにかけよりました。
 どんぶり山もりのおいしそうなもの、それは金いろにつやつやともりあげた、きんとんでした。見ているだけで、ツバがでてきそうです。
 みっちゃんがぶすりとゆびをつっこんで、ひとなめしました。
「わっ、おいしーい。」
 わたしも、やわらかい金いろの中に、おもいっきり人さしゆびをつっこんで、きんとんをすくいました。
 あまくてあまくて、とろりと口いっぱいにとけそうです。すくってはなめているうちに、気がとおくなりそうな、おいしいきんとんです。

『いたずらわんぱくものがたり』「きんとんきんとんくりきんとん」(山口勇子ゆうこ)より
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