1「ゆるりばたではしるでねえ!。」
ねどこの中で、おこっている母の声です。そのひょうしに、兄がちょっとひるみました。そこでわたしは、いっきにおいつめようとしたとき、おもわず、お茶ぼんを、けっとばしたのです。
「あっ!」
2わたしは、からだじゅうから、ちのけがひいていくほど、びっくりしました。やっと、つやのでてきた、ばんこやきのきゅうすを、父が、どんなにだいじにしているか、よくしっていたからです。
はいの中にころげおちたきゅうすを、そっとひろいあげました。3こわごわと、さし口や、ふたにさわってみました。兄も、しんぱいそうにのぞきこみました。
こわれては、いませんでした。ひびもはいっていないようです。あわてて、ながしへもっていって、はいをあらいおとし、もとのところへおいて、ふきんをかぶせました。
4兄も、だまって、もちをやきはじめました。
そこへ、父のほうが、さきにおきてきたのです。だまって、たばこを一ぷくすうと、いつものように、いればをもって、顔をあらいにいこうとしました。
お茶ぼんのふきんを、めくりました。はがありません。
5わたしは、どきっとしました。きゅうすのことばかりがしんぱいで、それまで、いればのことは、わすれていたのです。それでも、だまって下をむいていました。
「おーい。ゆうべは、はをどっかへしまったか?」
6父は、まだおきてこない、母のほうへいいました。はのない父のことばは、声がもぐって、よくききとれません。
「ちっとゆっくりしてえのに、みんなでうるせえだから。」
母はぶつぶついいながら、おきてきました。
7「おぼんの上には、ねえだかい。」
そういいながらも、母は、戸だなの戸を、しめたり、あけたりして、さがしはじめました。
(あってくれますように――。)わたしは、からだをかたくして、いのるおもいでした。兄もだまっています。
8「おまえたちは、さっき、おぼんをけとばしたんじゃあ、あるまいなあ。」
くるりとこちらをむいた、母は、おそろしいまでに、こわい顔になっていました。
いろりばたにひざをつくと、長い火ばしで、はいの中を、かきまわしはじめたのです。9父もさがしましたが、ありません。
しまいに、もえているマキをくずし、火の中までもさがしまし
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