a 長文 3.1週 se2
 小屋こやの中には、なん十頭ものブタがいます。もし、それらのブタがバクチクにおどろいて、小屋こやをとびだしたらどうなるでしょう。町じゅうは、ブタだらけになってしまいます。どうろというどうろにブタがあふれ、家の中にまで、ブタがとびこんでくるでしょう。ブタは、おひつをひっくりかえしてごはんをくうかもしれません。ちゃだんすから、おかずをくわえだすかもしれません。もしかしたら、ねている赤んぼうにかみつくかも……。
 ぼくのひざこぞうは、がくがくしてきました。
(にげちゃおう!)と、おもったときです。
コウちゃんが、
「火をつけろ!」
と、めいれいしました。小さいけれど、力のこもった声です。
 ふたり一組になって、ひとりがバクチクをもち、もうひとりがマッチをするのです。ぼくは、サブちゃんと組でした。ぼくがマッチをするやくですが、なかなか火がつきません。マッチぼうを三本もおってしまいました。やっと火がついたら、こんどはサブちゃんの手がふるえるので、うまくバクチクに火がつきません。いや、ほくの手だって、ふるえていたのです。
 そのうらに、シュルシュルシュルという音がきこえました。コウちゃん、ヘイちゃん組のバクチクのどうかせんに、火がついたのです。つづいて、チヨちゃん、クンちゃん組のバクチクにも火がつきました。
「それっ。」
 コウちゃんが、バクチクをさくの中になげこみました。クンちゃんもほうりました。すると、サブちゃんはあわてて、まだ火がついてもいないのに、ほっぽりだしました。
 ぼくらは、もうあとも見ないでかけだしました。ブタ小屋こやのつうろはじめじめしていて、よくすべるので、あまりはやくかけれません。サブちゃんが、すてんところびました。
「ゲンちゃん、まってえ。」
 サブちゃんのなき声がうしろできこえましたが、たすけてやるどころではありませんでした。
 ぼくらは、ブタ小屋こやをとびだそうとしたとき、ばったり社長とはちあわせしてしまいました。おもいがけないことだったので、たまげてしまいました。
 社長のほうも、とつぜん子どもたちがとびだしてきたので、目をまるくしていました。そのすきに、ぼくらはにげだしてしまいました。
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「こらっ、まてえ!」
 社長のどなる声がおいかけてきましたが、みんないちもくさんにかけました。
 やっとじぶんの家のちかくまでにげてきて、ほっとしたとたんにぼくらはサブちゃんがいないことに気がつきました。
 ぼくは、どきんとしました。ころんだサブちゃんをおいてきぼりにしてきたことが、きゅうにすまなくなりました。
「社長に、くびのほねをへしおられたかしら。」
と、チヨちゃんがいったので、みんなしんぱいになりました。
「まさか。」
と、クンちゃんがうちけしました。
「そんなばかなことするもんか。」
 ぼくもじぶんにいいきかせました。
「コウちゃん、バクチクの音きいたかい?」
と、ヘイちゃんがいいました。
「いや、おれもへんだとおもってるんだ。」
 バクチクがはれつしたのを、きいたものはありませんでした。あとでわかったのですが、ブタ小屋こやのゆかがぬれていたので、火がきえてしまったのです。
 しばらくすると、サブちゃんが、にやにやしながら、もどってきました。
 社長は、サブちゃんから、ぼくらがあそびばをとられた、しかえしをしたことをきくと、
「わっははは……、がきどもやりおるな。」
と、わらったそうです。そして、どろだらけのサブちゃんを、水道までつれていって、あらってくれたそうです。そして、
「もっと、元気になれよ。」
といって、かたをたたいてくれたそうです。
「とってもやさしかったよ。」
と、サブちゃんはいいました。
 きっと、社長も子どものころわんぱくぼうずだったのでしょう。

『いたずらわんぱくものがたり』「バクチクをなげろ」(長崎ながさき源之助げんのすけ)より
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