1小屋の中には、なん十頭ものブタがいます。もし、それらのブタがバクチクにおどろいて、小屋をとびだしたらどうなるでしょう。町じゅうは、ブタだらけになってしまいます。どうろというどうろにブタがあふれ、家の中にまで、ブタがとびこんでくるでしょう。2ブタは、おひつをひっくりかえしてごはんをくうかもしれません。ちゃだんすから、おかずをくわえだすかもしれません。もしかしたら、ねている赤んぼうにかみつくかも……。
ぼくのひざこぞうは、がくがくしてきました。
3(にげちゃおう!)と、おもったときです。
コウちゃんが、
「火をつけろ!」
と、めいれいしました。小さいけれど、力のこもった声です。
ふたり一組になって、ひとりがバクチクをもち、もうひとりがマッチをするのです。4ぼくは、サブちゃんと組でした。ぼくがマッチをするやくですが、なかなか火がつきません。マッチぼうを三本もおってしまいました。やっと火がついたら、こんどはサブちゃんの手がふるえるので、うまくバクチクに火がつきません。5いや、ほくの手だって、ふるえていたのです。
そのうらに、シュルシュルシュルという音がきこえました。コウちゃん、ヘイちゃん組のバクチクのどうかせんに、火がついたのです。つづいて、チヨちゃん、クンちゃん組のバクチクにも火がつきました。
6「それっ。」
コウちゃんが、バクチクをさくの中になげこみました。クンちゃんもほうりました。すると、サブちゃんはあわてて、まだ火がついてもいないのに、ほっぽりだしました。
ぼくらは、もうあとも見ないでかけだしました。7ブタ小屋のつうろはじめじめしていて、よくすべるので、あまりはやくかけれません。サブちゃんが、すてんところびました。
「ゲンちゃん、まってえ。」
サブちゃんのなき声がうしろできこえましたが、たすけてやるどころではありませんでした。
8ぼくらは、ブタ小屋をとびだそうとしたとき、ばったり社長とはちあわせしてしまいました。おもいがけないことだったので、たまげてしまいました。
社長のほうも、とつぜん子どもたちがとびだしてきたので、目をまるくしていました。9そのすきに、ぼくらはにげだしてしまいました。
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