a 長文 7.1週 si
1「あら、なつかしい。」
 母が声をあげました。おばあちゃんの家を改築(かいちく)することになって、荷物の整理に行ったときのことです。母の手には、手紙の束(たば)が握ら(にぎ )れていました。色とりどりの便箋(びんせん)や封筒(ふうとう)、かわいらしいメモ帳の切れ端(き はし)などがたくさん出てきました。
2「昔は、携帯(けいたい)やメールなんかなかったでしょう。だから、こんなふうに手紙を交換(こうかん)していたのよ。」
と母が言います。するとおばあちゃんが笑い(わら )ながら、
「毎日学校で会う友だちともやり取りしていて、よくそんなに書くことがあるものだと思ったわ。」
と言いました。
 3母は少し恥ずかし(は   )そうでしたが、私(わたし)は見せてもらうことにしました。手紙のほとんどは、今でも家族ぐるみでつきあいのある母の同級生からのものです。特に(とく )おもしろかったのは、四年生のときにダジャレに夢中(むちゅう)になっていたころの手紙です。
4「大沢(おおさわ)先生のおおさわぎ」「そんなシャレやめなシャレ」「体育行く?」
などと書いてあり、大沢(おおさわ)先生らしい太った男の人のイラストがありました。さらに、
「真衣子(まいこ)、まーいい子。」
と母の名前を使ったダジャレもありました。
 5そのほかに、秘密(ひみつ)の手紙もありました。封筒(ふうとう)の表書きに「真衣子(まいこ)へ。だれにも見せないでね」とあったので、私(わたし)は少しどきっとしました。封筒(ふうとう)の中には、色あせた水色のびんせんが入っていて、小さな字でぎっしりと文が書いてありました。
 6私(わたし)はそれを読みたかったけれど、母はこれはだめ、とさっとかくしてしまいました。私(わたし)はきっと好き(す )な子の話が書いてあるのだな、と思いました。私(わたし)だってもう四年生だからわかるのになあ。
 7おばあちゃんは、箱のほこりを払い(はら )ながら、
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「ママはね、小学生のころは、とてもおとなしかったのよ。授業(じゅぎょう)参観(さんかん)に行ってもほとんど発言しないような子でね。」
と驚く(おどろ )ようなことを言いました。今の母からは全く想像(そうぞう)できません。
8「ねえねえ、いつから今みたいにうるさくなったの?」
と聞くと
「あなたが生まれてからかしらねえ。」
と、おばあちゃんが答えました。私(わたし)は、人間って変わる(か  )ものだなと心の中で思いました。母は知らぬ顔で、昔の本を束ね(たば )ています。
 9私(わたし)は、もし子どものころの母と今、同じクラスだったら、私(わたし)たち、仲良く(なかよ )なるかなあと考えました。なんとなく、好み(この )も似(に)ていそうだし、話も合いそうだなと思います。私(わたし)は楽しくなってきて、
「おはよう、真衣子(まいこ)。」
と聞こえないようにつぶやいてみました。0

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 7.2週 si
 世界中(せかいじゅう)を簡単(かんたん)に旅(たび)することができなかった昔(むかし)の人々にとって、ウミガメが毎年決まっ(き  )た季節(きせつ)になると海岸(かいがん)にやってきて卵(たまご)を産ん(う )でいく様子(ようす)は、神秘(しんぴ)的(てき)だったことでしょう。そんなウミガメから、竜宮城(りゅうぐうじょう)という夢(ゆめ)のような話が生まれたのかもしれません。
 では、日本にやってくるウミガメには、どんな種類(しゅるい)があるのでしょうか。日本列島(れっとう)は四季(しき)がはっきりしているので、季節(きせつ)によって気温(きおん)や海水温(かいすいおん)が大きく変わっ(か  )てきます。その中で、日本に卵(たまご)を産み(う )にくるのは、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイなどのカメです。関東(かんとう)地方より南の海岸(かいがん)で卵(たまご)を産む(う )アカウミガメは、春になると日本近海に姿(すがた)をあらわします。アオウミガメは、屋久島(やくしま)より南で卵(たまご)を産み(う )、タイマイは沖縄(おきなわ)本島(ほんとう)より南で卵(たまご)を産み(う )ます。
 産卵(さんらん)場所(ばしょ)となる海岸(かいがん)の沖(おき)には、オスがメスより一ヶ月(かげつ)も前に来て待っ(ま )ています。やがてメスがやってくる時期(じき)になると、オスたちはメスのあとをついてまわるとともに、オスどうしで激しく(はげ  )争い(あらそ )、メスを奪い合い(うば あ )ます。かんだり、ぶつかったり、オールのような足ではたいたりと、とても迫力(はくりょく)があり、水族館(すいぞくかん)でゆったり泳い(およ )でいるときの姿(すがた)からは想像(そうぞう)もつかないほどです。その後、オスは産卵(さんらん)場所(ばしょ)のまわりの海から姿(すがた)を消し(け )ます。メスは近くの砂浜(すなはま)に上陸(じょうりく)して産卵(さんらん)します。
 お風呂(ふろ)やプールに入ると、体が軽く(かる )感じ(かん )られます。それは、水の中につかっているものには浮力(ふりょく)が働く(はたら )からです。海中のウミガメは、浮力(ふりょく)のおかげで重(おも)さが陸上(りくじょう)にいるときよりもずっと軽く(かる )なります。しかし、浮力(ふりょく)の働か(はたら )ない陸上(りくじょう)では自由(じゆう)に体を動かす(うご  )ことができません。海から上がって卵(たまご)を産む(う )ときには、外敵(がいてき)から自分や卵(たまご)を守る(まも )こともできなければ、すばやく逃げる(に  )こともできません。そのため、産卵(さんらん)をひかえたメスは、夜になってから用心深く(ようじんぶか )砂浜(すなはま)に上陸(じょうりく)し、安全(あんぜん)を確かめ(たし  )てから産卵(さんらん)にとりかかるのです。
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 アカウミガメは、左右の後ろ足を交互(こうご)にシャベルのように使っ(つか )て、大きな穴(あな)を掘り(ほ )、一回に百個(こ)ほどの卵(たまご)を産み(う )ます。一頭のメスは、夏の産卵(さんらん)期(き)の間に多いときで六回くらい卵(たまご)を産み(う )ます。
 では、ウミガメは危険(きけん)をおかしてまで、どうして陸(りく)に卵(たまご)を産む(う )のでしょう。ウミガメは、陸上(りくじょう)で生活できるように進化(しんか)してきた爬虫類(はちゅうるい)の仲間(なかま)です。爬虫類(はちゅうるい)は乾い(かわ )た場所(ばしょ)でも体の水分が外へ出ていかないように、丈夫(じょうぶ)なウロコのような皮膚(ひふ)で体をおおっています。卵(たまご)も、水中に産む(う )魚類(ぎょるい)や両生類(りょうせいるい)のものと違い(ちが )、鳥類(ちょうるい)の卵(たまご)のように殻(から)に包ま(つつ )れています。ウミガメの卵(たまご)は、殻(から)を通して息(いき)をしており、水中だと息(いき)ができずに死ん(し )でしまうのです。このため、ウミガメは一生の大部分(ぶぶん)を海で暮らす(く  )ようになった今でも、卵(たまご)だけは陸(りく)に産み(う )にくるのです。
 ウミガメのひとりごと、「わたしも、本当は、海でウミたいわあ」。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(Κ)
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a 長文 7.3週 si
 1父が母国をはなれたあと、母は三人の育ち(そだ )ざかりのむすこをかかえ、けんめいに生きてきました。「牛乳(ぎゅうにゅう)とやさいをうる店がちかくにないから、あなたがやってみては。お金は用だてます。」と、しんせつな友人がすすめてくれ、家のすぐそばに小さな店をひらきました。2もうけはみじめなほどすくないのですが、ともかく毎日いくらかでもお金がはいってくるのは助かり(たす  )ます。
 それでもときには、あすのお金にもこまることがありました。そこでロベルトとリュドビグの兄弟は、アンデルセンの童話(どうわ)そっくりのアルバイトをしました。3町かどに立って、通行人にマッチのわけうりをし、銅貨(どうか)をいくまいか、かせいだのです。
 ロベルトとリュドビグが、ほこらしげにその日のうりあげを母にわたすのをみたとき、アルフレッドは、どれほどじぶんをなさけなくおもったかしれません。4からださえじょうぶなら、兄たちにけっしてまけてはいませんのに……。
 アルフレッドが気をうしなってたおれた数日後の雪の日には、こんなことがありました。
 5店から昼食のしたくにかえった母が、ロベルトに一まいの硬貨(こうか)をわたし、「パンとすづけにしんをかってきてちょうだい。それでおひるをすませましょう。」とたのみました。
 6ロベルトは二つへんじででかけていったのですが、いつまでももどってきません。
「どこまでいったのかしら……。」
 しびれをきらした母が、ドアをあけると、そこにロベルトが立っていました。そまつながいとうを雪でぐっしょりぬらし、青ざめてふるえながら。
7「ぼく、お金を雪のなかにおっことしたんだ。いくらさがしてもみつからなくて……。」
 十二さいの、父ににてがっしりしたからだのロベルトがなきじゃくりました。硬貨(こうか)をしまったポケットにあながあいていたのです。8母の、なかみのとぼしいさいふのことをおもって、ロベルトは、きっと、とほうにくれてしまったのでしょう。
(かわいそうに、ロベルト兄さん……。)
ベッドのなかのアルフレッドは、心でよびかけました。
9(ひるごはんくらい、たべなくてもへいきなのに……。)
「おばかさんねえ……。」
 ロベルトをだきしめて、母がわらいました。
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「雪のなかに貯金(ちょきん)したとおもえばいいじゃない。」
「そうさ。」
と、リュドビグ。
0「でも、雪がとけたとき、フレイのやつがさきに貯金(ちょきん)をみつけなきゃいいけどなあ。」
 フレイというのは、リュドビグのけんかなかまなのです。
 みんな、おもわずふきだしました。
 それから母と子の四人家族(かぞく)は、ひとさらずつのスープを、フーフーふきながらのみ、ほかになんにもたべなくても、心はみちたりていました。たがいのあたたかい理解(りかい)と愛情(あいじょう)とユーモアでむすばれていましたから。
 
(「ノーベル」大野進(すすむ)著(ちょ)より)
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a 長文 7.4週 si
 ドイツの心理学者(がくしゃ)が、味(あじ)には、塩味(しおみ)、酸味(さんみ)、甘味(あまみ)、苦味(にがみ)の四つの基本(きほん)の要素(ようそ)があって、どんな味(あじ)もその組み合わせでできているという説(せつ)を発表(はっぴょう)して以来(いらい)、基本(きほん)の味(あじ)についてはもうこれ以外(いがい)にないと思われていました。しかし、味覚(みかく)を研究(けんきゅう)していた日本人の化学(かがく)者(しゃ)たちは、これにもう一つ、旨味(うまみ)を加える(くわ  )べきだと主張(しゅちょう)しました。
 この旨味(うまみ)の成分(せいぶん)を発見(はっけん)し、初めて(はじ  )学会に報告(ほうこく)したのは、池田菊苗(きくなえ) 博士(はくし)です。博士(はくし)はある日、夕飯(ゆうはん)を食べていて、妻(つま)が作ったお吸い物(す もの)のあまりのおいしさに感動(かんどう)を覚え(おぼ )たのです。そして、「この味(あじ)は、四つの基本(きほん)味(あじ)だけで出せる味(あじ)ではない」と確信(かくしん)し、旨味(うまみ)の研究(けんきゅう)に取りかかり(と    )ました。
 お吸い物(す もの)のだしは、昆布(こんぶ)でとられていました。そこで博士(はくし)は、四十キログラムもの昆布(こんぶ)からだし汁(  じる)を作り、そこから旨味(うまみ)以外(いがい)のすべての成分(せいぶん)を取り除い(と のぞ )ていくという、気の遠くなるような作業(さぎょう)を続け(つづ )ました。そして最後(さいご)に残っ(のこ )た旨味(うまみ)の正体が、グルタミン酸(     さん)という物質(ぶっしつ)であることをつきとめたのです。池田博士(はくし)はこれを学会に報告(ほうこく)するとともに、調味(ちょうみ)料(りょう)として大量(たいりょう)生産(せいさん)する方法(ほうほう)を発明(はつめい)しました。そしてこの旨味(うまみ)の素(もと)は、「味の素(あじ もと)」として商品(しょうひん)化(か)され売り出されました。
 旨味(うまみ)の成分(せいぶん)は、池田博士(はくし)が発見(はっけん)したグルタミン酸(     さん)以外(いがい)にもあります。たとえば、煮干(にぼし)しや鰹節(かつおぶし)のだしの旨味(うまみ)はイノシン酸(さん)、干し(ほ )シイタケやマツタケの旨味(うまみ)はグアニル酸(さん)です。だしの味(あじ)は外国にもないわけではありません。西洋(せいよう)料理(りょうり)には肉類(にくるい)と香味(こうみ)野菜(やさい)を煮込ん(にこ )でとるスープストックやブイヨンと呼ば(よ )れるだしがあります。中華(ちゅうか)料理(りょうり)では、鶏(とり)ガラや干し(ほ )エビ、白菜(はくさい)やネギなど、やはりさまざまな材料(ざいりょう)を煮込ん(にこ )で「湯(たん)」と呼ば(よ )れるだしを作ります。
 このように旨味(うまみ)は確か(たし )に味(あじ)をよくする成分(せいぶん)であるとは認め(みと )られていましたが、旨味(うまみ)が第(だい)五の基本(きほん)味(あじ)であるということは、世界(せかい)の人々
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になかなか受け入れ(う い )てもらえませんでした。しかし、最近(さいきん)になってようやく、旨味(うまみ)は第(だい)五の味(あじ)として認め(みと )られ、そのまま「UMAMI(ウマミ)」という用語となって世界中(せかいじゅう)に知られるようになったのです。
 それでは、旨味(うまみ)は、なぜおいしく感じ(かん )られるのでしょうか。それは、旨味(うまみ)の成分(せいぶん)が、私(わたし)たちの体を作るために欠か(か )せないものだからだと言われています。グルタミン酸(     さん)はアミノ酸(   さん)というグループに属し(ぞく )、イノシン酸(さん)やグアニル酸(さん)は核酸(かくさん)と呼ば(よ )れるグループに入る化学(かがく)物質(ぶっしつ)です。そして、この両方(りょうほう)ともが、私(わたし)たちの体を作るのにとても必要(ひつよう)なものなのです。つまり、体の方で、ちゃんとこれらをおいしく、たくさん取り込む(と こ )ようにできているのかもしれません。
 旨味(うまみ)は少量(しょうりょう)の塩(しお)が入ることで、より強くなります。また、ちがうグループの旨味(うまみ)を組み合わせることによっても、ぐんとおいしさが上がることがあります。したがって、うまく旨味(うまみ)を利用(りよう)することで、かえって塩分(えんぶん)を減らし(へ  )たり、よりおいしい味付け(あじつ )にしたりすることも可能(かのう)になるのです。
 ところで、昆布(こんぶ)の旨味(うまみ)を発見(はっけん)した池田博士(はくし)は、ロンドンに留学(りゅうがく)していたとき、同じくロンドンに留学(りゅうがく)していた文学者(しゃ)の夏目漱石(そうせき)に会っています。もしかすると、夏目漱石(そうせき)と、「日本料理(りょうり)のおいしいだしの味(あじ)が恋しい(こい  )なあ」などと話をしていたのかもしれません。

 旨味(うまみ)の研究(けんきゅう)は、一杯(いっぱい)のお吸い物(す もの)から始まり(はじ  )ました。
 昆布(こんぶ)のだしによろコンブ池田博士(はくし)の笑顔(えがお)が、研究(けんきゅう)の出発(しゅっぱつ)点だったのです。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(τ)
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a 長文 8.1週 si
1「あつっ。」
 ぼくは、思わず指を引っ込め(ひ こ )ました。しかし、後ろを向いている母には気付か(きづ )れませんでした。今夜は、ぼくの大好物(こうぶつ)の鳥の唐揚(からあ)げです。あつあつの鳥が並ぶ(なら )お皿から食欲(しょくよく)をそそる香り(かお )が漂っ(ただよ )てきます。
 2ぼくは、思わず手を伸ばし(の  )てしまったのですが、揚げたて(あ   )だったせいで、人差し指(ひとさ ゆび)にやけどをしてしまいました。ぼくは何食わぬ顔で、そっと洗面所(せんめんじょ)へ行き、指を流水で冷やし(ひ  )ました。母は何も知らずに、揚げ物(あ もの)を続け(つづ )ています。
 3その唐揚(からあ)げは、ぼくが下味をつけるのを手伝っ(てつだ )たのです。ショウガやニンニクをすりおろしたり、酒やしょうゆを入れたり、片栗粉(かたくりこ)をまぶしてなじませたりするのがぼくの仕事でした。だから、どんな味に仕上がったか確かめ(たし  )たかったのです。
 4ぼくは、指が冷たく(つめ  )なるまで冷やす(ひ  )と、再び(ふたた )キッチンに向かいました。さっきの唐揚(からあ)げは食べごろに冷め(さ )ているはずです。のれんをあげて、テーブルに目をやると、
「あ、あれ? ないっ。」
 唐揚(からあ)げのお皿はなくなっていました。
5「鳥を取り上げないでえ。」
とぼくは、言いそうになりましたが、がまんして、冷静(れいせい)にまわりを見渡し(みわた )ました。なんと、お皿は母の横のレンジ台に移動(いどう)していました。ぼくは、まだ食べていないのにと心の中で叫び(さけ )ました。
 6母はニヤッとして、菜ばし(さい  )ではさんだ鳥を振っ(ふ )て油を切りながら、
「残念(ざんねん)でした。」
と言いました。さらに、
「水ぶくれにならなかった?」
と聞きました。ぼくは、さっきのつまみぐい未遂(みすい)を母は知っていたのだなあとあせりました。
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 7父もつまみぐいの常習犯(じょうしゅうはん)です。会社から帰って、まずキッチンに直行し、テーブルの上をチェックします。そして、置い(お )てあるものをひょいと口に入れてしまいます。すると、母が必ず(かなら )、
「きちんと手を洗っ(あら )てから! うがいもしてから!」
と言うのです。
 8父は、はいはいと言いながら洗面所(せんめんじょ)に消えます。そんなときの父は、まるで叱ら(しか )れた子供(こども)のようです。父は何度も注意されているのに、堂々(どうどう)とつまみぐいをするところがぼくと違い(ちが )ます。
 9ぼくは、昨日(きのう)うまい言い訳(い わけ)を考え付き(かんが つ )ました。つまみぐいを叱ら(しか )れたら、ママの料理(りょうり)があんまりおいしそうだからだよ、と言うのです。これなら見つかっても叱ら(しか )れません。しかし、「そんな言い訳(い わけ)していいわけ」と言われるかな。0

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 8.2週 si
 羽には、様々(さまざま)な用途(ようと)があります。あるときには婦人(ふじん)の帽子(ぼうし)を飾り(かざ )、女性(じょせい)の美し(うつく )さを際立た(きわだ )せます。別(べつ)のときにはペンになり、ラブレターをつづるかもしれません。またあるときにはコートの中綿(なかわた)になり、私(わたし)たちを温かく(あたた  )包ん(つつ )でくれます。
 しかし、羽のありがたみをいちばん感じ(かん )ているのは、何といっても鳥たちでしょう。羽がなければ飛ぶ(と )ことができません。更に(さら )、美しい(うつく  )羽は、つがいの相手(あいて)となるパートナーをひきつけるのにも役立ち(やくだ )ます。また、鳥を寒(さむ)さから守る(まも )役目(やくめ)も果たし(は  )ます。これらの点では、鳥たちも人間とあまり変わり(か  )ません。もっとも、羽をペンの代わり(か  )にする鳥はいないようですが。
 鳥類(ちょうるい)が羽を持っ(も )ていることは広く知られていますが、その作りをじっくり眺め(なが )たことのある人はあまり多くないかもしれません。羽は実に(じつ )見事(みごと)にデザインされています。
 風切羽(かざきりばね)の中心には羽を支える(ささ  )軸(じく)が走っています。よく見るとその裏側(うらがわ)には一本の溝(みぞ)が刻ま(きざ )れています。このちょっとした工夫(くふう)のおかげで軸(じく)の強度(きょうど)は高まり、曲がっ(ま  )たりよじれたりしても折れ(お )にくくなっています。
 鳥類(ちょうるい)はまた、普通(ふつう)の羽の間に、糸のような細長い羽を持っ(も )ています。この羽の根元(ねもと)にある一種(いっしゅ)の感覚(かんかく)器(き)は、羽の乱れ(みだ )を鳥に知らせます。羽が乱れ(みだ )てきたという信号(しんごう)が出ると、鳥は翼(つばさ)を休め、くちばしで羽(は)づくろいをして羽を整え(ととの )ます。この感覚(かんかく)器(き)はまた、飛ん(と )でいる速度(そくど)を鳥が判断(はんだん)するのに役立っ(やくだ )ているのではないかとも言われています。
 表面(ひょうめん)から見える羽の下には、ダウンと呼ば(よ )れる綿羽(わたばね)がぎっしりと生えています。カモの場合、その厚(あつ)さはニセンチ近くにもなります。綿羽(わたばね)の断熱(だんねつ)性(せい)は優れ(すぐ )ており、冬の身(み)を切られるような寒(さむ)さも、ダウンのコートがあれば平気(へいき)です。
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 羽のおかげで、鳥も人間もファッションを楽しむことができ、さらには寒(さむ)さをしのぐこともできます。鳥の羽は、まさに「一石三鳥(さんちょう)」あるいはそれ以上(いじょう)の働き(はたら )をしています。しかし、生まれつきそういう羽を持っ(も )ているカモたちにとっては、当たり前のことなのカモしれません。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(τ)
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a 長文 8.3週 si
 1ニトログリセリンのグリセリンは、石けんをつくるときにできる副産物(ふくさんぶつ)です。ねばっこい液(えき)で、薬(くすり)や、機械(きかい)のうごきをなめらかにするための油(あぶら)としてつかわれます。2「硝酸(しょうさん)が変化(へんか)させたグリセリン」というのが、ニトログリセリンのいみですが、じっさいには、とくべつのそうちで、こい硝酸(しょうさん)と硫酸(りゅうさん)をまぜた液(えき)に、水分をとりさったグリセリンをそそいでつくります。
 3これくらいのことは、技術(ぎじゅつ)雑誌(ざっし)にしたしんでいるアルフレッドには、とっくにわかっています。
(つくりかたがわかっても、ばくはつをコントロールすることには役だた(やく  )ないなあ……。)
 4そうおもいながら、アルフレッドは、いくどか、小さなばくはつ実験(じっけん)をこころみました。けれども、ニトログリセリンは、うんともすんともいわないか、とんでもないときにばくはつして、きもをひやさせるかです。
5「いずれにしても、導火(どうか)線を用いなければならないよね……。」
 アルフレッドが、ちえをかりにいったジーニン先生は、大学の研究(けんきゅう)室でいいました。
 6導火(どうか)線は、黒色火薬(かやく)を紙と糸でまいてつくった線です。手もとに火をつけると、シューッともえていき、ばくやくをばくはつさせるのです。
7「……そうなんです、先生。まさか大量(たいりょう)のニトログリセリンを、鉄(てつ)のはりでばくはつさせるわけには、いきませんものね。いのちあってのものだねです。」
8「しかし、導火(どうか)線では、ばくはつしない……と。あたえるショックが小さすぎるのかなあ。」
9「そうかもしれません。といって、導火(どうか)線をうんと太いものにすると、もちはこびのとき、きけんですし……。」
 アルフレッドは、そうこたえながら、「あたえるショックを強めるには?」と、ノートにメモしました。0
 
(「ノーベル」大野進(すすむ)著(ちょ)より)
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a 長文 8.4週 si
 文字は、初め(はじ )石などに刻ま(きざ )れていました。しかし、それでは時間もかかるし、重(おも)すぎて持ち運ぶ(も はこ )こともできません。人間が、カイコのまゆから絹(きぬ)の布(ぬの)を作ったり、植物(しょくぶつ)から繊維(せんい)をとり出して布(ぬの)を作ったりすることができるようになると、その布(ぬの)を作る技術(ぎじゅつ)を利用(りよう)して、紙を発明(はつめい)することができるようになりました。紙は、安い(やす )上に、軽く(かる )て、しかも薄い(うす )ので、何枚(まい)も重ね(かさ )て使う(つか )ことができました。この紙の発明(はつめい)で、文字が人間の社会に広がるようになったのです。
 日本にも、一六〇〇年以上(いじょう)前に、中国から紙を作る方法(ほうほう)が伝わっ(つた  )てきました。日本には紙にするのにとてもよい植物(しょくぶつ)があり、日本人は工夫(くふう)が得意(とくい)だったので、あっというまに、厚い(あつ )紙、薄い(うす )紙、硬い(かた )紙、軟らかい(やわ   )紙、白い紙、色のついた紙、そして、金や銀(ぎん)をちらした紙、よい香り(かお )がする紙など、いろいろな紙が作り出されました。
 その時代(じだい)に書かれた本には、「いろいろな紙をもらうと、この紙にあわせて、どんなふうに工夫(くふう)して字や絵をかこうかと考えてとても楽しい」とか、「いやなことがあっても、真っ白(ま しろ)で上等(じょうとう)な紙のたばをもらうと、気持ち(きも )もはれて、ここに何を書こうかとうれしくなってくる」などという話が載っ(の )ています。今でも、きれいな折り紙(お がみ)や包み(つつ )紙、真っ白(ま しろ)なノートなどをもらったときに、同じような気持ち(きも )が感じ(かん )られるのではないでしょうか。
 日本では、古い紙をもう一度(  いちど)すきかえして新しい紙にする技術(ぎじゅつ)も発明(はつめい)されました。そのリサイクルの紙は真っ白(ま しろ)でなくしっかりもしていませんでしたが、普通(ふつう)の人も買うことができる安い(やす )本になりました。
 江戸(えど)時代(じだい)になると、紙の本はたくさんの人が持つ(も )ことができるようになりました。そればかりか、子どものための、紙細工のおもちゃまでたくさん作られるようになりました。これを、おもちゃ絵と
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いいます。そこには豆(まめ)絵本のような、本のかわりになるものや、はさみで切ってくみたてて遊ぶ(あそ )紙おもちゃなどさまざまな種類(しゅるい)のおもちゃがありました。きせかえ人形や、おしばいごっこの立ち絵、紙ずもうやめんこ、そして組み立て絵というものができたのもこのころです。ほかにもすごろくやかるたなど、今の時代(じだい)にも伝わる(つた  )おもちゃがこの時代(じだい)に発達(はったつ)しました。。
 江戸(えど)時代(じだい)の子どもたちも、今の子どもたちが、ゲームのカードをためたりマンガを買いそろえたりするのと同じことをやっていたのです。
 破れ(やぶ )やすく、火には燃え(も )てしまう紙と知ってはいても、それでも紙でできたものには、集め(あつ )て愛さ(あい )ずにはいられない魅力(みりょく)があるようです。

「紙君(くん)って、えらいんだね。今度(こんど)から紙様(さま)って呼ぼ(よ )うか。」
「いやあ、もっと気楽に読んでくれた方がいいよ。」
「じゃあ。ヘイ、カミーン。」

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(λ)
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1「あっ、これ知ってる。」
 テレビのコマーシャルに金子みすずさんの詩が流れました。私(わたし)は、三年生のとき、国語の教科書で知ってから、みすずさんの詩をたくさん読みました。その中の一つが使われていたので、びっくりしたのです。
 2私(わたし)の好き(す )な勉強は、国語です。どのくらい好き(す )かというと、四月に新しい教科書をもらうと、一日で全部読み終えてしまうくらいです。国語の勉強は、新しい漢字をたくさん覚える(おぼ  )のも、いろいろな人の作品を読むのも、音読も、作文も、全部楽しくてたまりません。
 3国語はまるで勉強ではなく趣味(しゅみ)のような感じです。学校の授業(じゅぎょう)が毎日、全部国語だったらいいのになあ、とよく考えます。
 去年、母にそれを話したら、
「がんばって勉強をして、国語を専門(せんもん)に研究できる大学に行くといいかもしれないわね。」
と言ってくれました。
 4そのとき、横で新聞を読んでいた父は顔を上げて、
「それまでは国語だけではなく、いろいろな科目の勉強もしっかりやるといいよ。国語以外(いがい)の勉強が、国語の研究に役立つからね。」
と、私(わたし)の方を向きました。5私(わたし)はそれを聞いて、ようし、がんばるぞと思いました。
 一年生のときから仲良し(なかよ )のはるかちゃんは、国語はあまり好き(す )ではなく、算数や理科の方が好き(す )なのだそうです。私(わたし)は、どちらかというと、算数は苦手です。6だから、いつもおたがい勉強でわからないところは教え合っています。
 はるかちゃんは、読書があまり好き(す )でないらしく、私(わたし)がおもしろい本をすすめても、
「ええ。めんどうくさいなあ。これ、字が小さいし。」
などと言って、あまり読んでくれません。7私(わたし)は逆(ぎゃく)に、数字がたくさん並ん(なら )でいる算数の問題集を見ると、「わあ、めんどうそう。」と思ってしまいます。
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 そんなはるかちゃんですが、去年、「ちいちゃんのかげおくり」を国語で習ったときは、とても真剣(しんけん)に何度も読んだそうです。8二年生のときの「スイミー」もおもしろかったと言っていました。
 だから、私(わたし)は、将来(しょうらい)国語の教科書を作る仕事をするようになったら、子供(こども)が興味(きょうみ)を持つ話をもっとのせたいと思っています。
 9私(わたし)にとって、国語の勉強は、ご飯( はん)にたとえられます。ほかの教科は、スープやおかずやデザートです。国語の勉強をしっかりやると、きっと栄養(えいよう)もたっぷり、おなかもいっぱいになります。そんな気持ちで、私(わたし)は、今日も国語の授業(じゅぎょう)を聞いています。0

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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 みなさんは空の絵をかくとき、何色でかきますか。ふつうは空色、つまり薄い(うす )青色にするのではないでしょうか。しかし、もしかすると、ある人は、昨日(きのう)の夕焼け(ゆうや )の空を思い出してきれいなオレンジ色にするかもしれません。
 確か(たし )に、空の色は時刻(じこく)によっても、天気によっても変わり(か  )ます。空だけではありません。木でもベンチでも人の顔でも、その時々でいろいろな色合いに変わり(か  )ます。では、その時々の色を決める(き  )のはなんでしょうか。
 それは光です。物(もの)は、光との関係(かんけい)によってさまざまな色合いに変化(へんか)します。特に(とく )、外の景色(けしき)は太陽(たいよう)の光をじかに受け(う )ているので、一日のうちでもさまざまに印象(いんしょう)を変え(か )ます。この光というものを大切に考えて、自然(しぜん)の姿(すがた)をそのまま絵にしようと考えたのが、印象派(いんしょうは)と呼ば(よ )れる芸術家(げいじゅつか)たちでした。
 印象派(いんしょうは)とは、十九世紀(せいき)の後半にフランスで起こっ(お  )た画家を中心とするグループです。それまでは、時間をかけてかきこんだ重々しい(おもおも  )作品(さくひん)がよいとされてきました。そのため、一瞬(いっしゅん)の輝き(かがや )をとらえてすばやく仕上げる(しあ  )印象派(いんしょうは)の絵は、最初(さいしょ)単なる(たん  )スケッチにすぎないと見られていました。印象派(いんしょうは)の最初(さいしょ)の印象(いんしょう)は、あまりよくなかったのです。
 しかし、印象派(いんしょうは)の人たちは、実は(じつ )しっかりした科学的(てき)な考え方にもとづいて制作(せいさく)をしていました。そのひとつが、シュヴルール()という人の色の考え方です。彼(かれ)は本の中で、となり合う色がおたがいに影響(えいきょう)しあって、いろいろな見え方になることを説明(せつめい)しました。そしてとなり合う色どうしが違え(ちが )ば違う(ちが )ほど、より大きな効果(こうか)があるとしました。
 例えば(たと  )、赤と緑(みどり)、黄と紫(むらさき)などは、最も(もっと )違う(ちが )色合いで、このような色の組み合わせを補色(ほしょく)の関係(かんけい)と呼び(よ )ます。補色(ほしょく)を並べ(なら )てみると、目がちかちかするような効果(こうか)を生みます。青っぽい色は奥(おく)に
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引っ込み(ひ こ )、赤っぽい色は前に飛び出し(と だ )てくるようにも見えます。
 その印象派(いんしょうは)の画家たちの中で中心となったのが、クロード・モネです。モネは、移ろい(うつ  )やすい光や自然(しぜん)の鮮やか(あざ  )な色を、だれよりも深く(ふか )追い求め(お もと )ました。
 それまでの絵は、絵の具(え ぐ)を混ぜる(ま  )ことによってさまざまな色を作り出していました。絵の具(え ぐ)は混ぜ合わ(ま あ )せれば混ぜ合わせる(ま あ   )ほど、明るさがなくなっていきます。絵の具(え ぐ)の筆(ふで)を洗っ(あら )ていると、水がどんどん暗い(くら )色になっていくことを知っている人も多いでしょう。印象派(いんしょうは)以前(いぜん)の絵は、暗い(くら )部分(ぶぶん)に影(かげ)をつけることによってものの奥行き(おくゆ )を出していたので、絵が更に(さら )暗く(くら )重い(おも )感じ(かん )になっていました。
 モネはこうした暗い(くら )絵を嫌い(きら )ました。そして、光に溢れ(あふ )たみずみずしい景色(けしき)を描く(えが )ために、新しい技法(ぎほう)を使い(つか )ました。ある色を作るのに、絵の具(え ぐ)を混ぜ合わせる(ま あ   )のではなく、純粋(じゅんすい)な色を数多くの点としてとなり合わせるように描い(えが )たのです。こうすると、離れ(はな )て見た場合、それらの色が混ざり(ま  )合って見えます。しかし、絵の具(え ぐ)を混ぜ(ま )て使っ(つか )たときよりもはるかに明るい色になるのです。モネは、となり合う点どうしを補色(ほしょく)の関係(かんけい)にするなど、いろいろな工夫(くふう)を重ね(かさ )ました。こうして、モネの絵は、自然(しぜん)の風や太陽(たいよう)のあたたかさまで感じ(かん )させるようなものになっていったのです。
 最初(さいしょ)は受け入れ(う い )られなかったモネの絵も、次第に(しだい )多くの人に認め(みと )られるようになりました。今その光溢れる(あふ  )絵は、世界中(せかいじゅう)の人々から愛さ(あい )れています。

「モネさんのような絵を、印象派(いんしょうは)の絵と言ってもイーンショウか。」
「うん、いいかモネ。」

   言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(α)
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 1アルフレッドのゆいごんじょうは、十二月十七日、サン=レモのやしきでひらかれました。立ちあったのは、リュドビグの長男イマニュエル、ロベルトの長男ヤルマル、それにソールマンと弁護士(べんごし)です。
2「なんですって。わたしが、ノーベルさんのゆいごんをとりしきることになっているんですって……。」
 ソールマンは、おどろきました。たしかに、ゆいごんじょうのおもて書きには、ソールマンの名があります。3ゆいごんじょうが、弁護士(べんごし)によってよみあげられるにつれ、ソールマンはさらに大きなおどろきにうたれ、まばたきもしません。
「わたし、アルフレッド=ノーベルは、あとにのこすざいさんについて、つぎのようにゆいごんする……。」
 4アルフレッドは、ごくわずかなお金をおくる友人、しんるいの名をあげたあと、こう書いていました。
「のこりのすべての金の利子(りし)を、毎年、そのまえの年に、人類(じんるい)のために役だつ(やく  )しごとをした人々に、賞(しょう)としてわけること。
 5利子(りし)は五つにわけ、
一、物理(ぶつり)学
一、化学(かがく)
一、医学(いがく)生理学
一、文学
一、国際(こくさい)平和(へいわ)
の、それぞれの分野で、重要(じゅうよう)な発明(はつめい)発見(はっけん)をし、あるいは理想(りそう)にみちた作品(さくひん)をあらわし、あるいはまた戦争(せんそう)をふせぐことにつとめた人物(じんぶつ)にあたえること。」
 6ゆいごんじょうを、弁護士(べんごし)がよみおわると、ソールマンが、ぼうぜんとして、いいました。
「このしごとを、わたしがやるのですか。たった二十六さいのこのわたしが……。」
7「ソールマンさん……。ロシア語では、ゆいごんをとりしきる人のことを『たましいの代理人(だいりにん)』というのですよ。しっかりなさい。おじのアルフレッドは、あなたがこれをやれるとみこんだから、あ
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なたをえらんだのですよ。」
 8イマニュエルが、なき父リュドビグそっくりの、かしこそうな目をむけてはげましました。
 そうはげますイマニュエルは、ヤルマルとともに、ゆいごんじょうがもしなかったら、アルフレッドのばく大なざいさんをもらえるはずの人なのです。
9「わかりました。では、このしごとを、わたしのしょうがいのしごととして、おひきうけします。」
 そうちかったソールマンは、十二月二十九日、ストックホルムの教会で、アルフレッドのそうしきがおわったあと、しごとにとりかかりました。0
 
(「ノーベル」大野進(すすむ)著(ちょ)より)
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 海水は塩辛い(しおから )もので、私(わたし)たちはそれを当たり前のことだと思っています。実際(じっさい)、そこに含ま(ふく )れる塩分(えんぶん)は大変(たいへん)な量(りょう)です。海水をすべて蒸発(じょうはつ)させ、残っ(のこ )た塩分(えんぶん)を陸地(りくち)に敷きつめる(し    )と、百五十メートルもの厚い(あつ )層(そう)ができると言われています。この大量(たいりょう)の塩(しお)は、一体どこから来たのでしょうか。
 塩分(えんぶん)のふるさとのひとつは川です。地球(ちきゅう)上に存在(そんざい)する川の大半は淡水(たんすい)なので、これは意外(いがい)な感じ(かん )がします。雨が降る(ふ )と水が地中にしみ込ん(  こ )で、土の中にあるミネラル分を溶かし(と  )ます。このミネラル分の中に塩分(えんぶん)が含ま(ふく )れています。溶け(と )出した塩分(えんぶん)は、川によって海まで運ば(はこ )れます。ただ、淡水(たんすい)の川に含ま(ふく )れる塩分(えんぶん)はごく少ないので、なめても塩辛い(しおから )とは感じ(かん )ません。
 塩分(えんぶん)のもうひとつのふるさとは、海底(かいてい)火山です。活動(かつどう)する海底(かいてい)火山の爆発(ばくはつ)や熱水(ねっすい)の噴出(ふんしゅつ)によって、地中からミネラル分が放出(ほうしゅつ)され、その中に含ま(ふく )れる塩分(えんぶん)が海水に溶け込む(と こ )のです。
 このように、塩(しお)はいろいろなところから海を目指し(めざ )てやって来ますから、海には塩(しお)がたまる一方のように思えます。その上、海からはどんどん水分が蒸発(じょうはつ)しミネラル分だけがあとに残り(のこ )ます。これでは、塩分(えんぶん)がどんどん濃く(こ )なっていったとしても不思議(ふしぎ)ではありません。しかし現実(げんじつ)には、海水の塩分(えんぶん)濃度(のうど)は、ほぼ一定(いってい)です。つまり、増える(ふ  )分と減る(へ )分とがうまく釣り合っ(つ あ )ているのです。では、塩分(えんぶん)は一体どこへ行くのでしょう。
 まず、海の生物(せいぶつ)が塩(しお)を体の中に取り込み(と こ )ます。例えば(たと  )サンゴやエビ、カニなどは、硬い(かた )殻(から)を作るために塩類(えんるい)を必要(ひつよう)とします。これらの生き物(い もの)が死ぬ(し )と、その殻(から)に含ま(ふく )れていた塩類(えんるい)は海底(かいてい)にたまります。こうして塩分(えんぶん)の一部(いちぶ)は取り除か(と のぞ )れます。このようにして、海水中の塩分(えんぶん)は、増える(ふ  )量(りょう)と減る(へ )量(りょう)のバランスがとれているのです。
 では、この海底(かいてい)にたまった塩分(えんぶん)はどうなるのでしょうか。海底(かいてい)を
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含む(ふく )地殻(ちかく)は巨大(きょだい)なプレートで成り立っ(な た )ています。それらのプレートは少しずつ移動(いどう)し、二つ以上(いじょう)のプレートが出合うところでは、一方が隣(となり)のプレートの下に入り込み(はい こ )ます。沈み(しず )込ん(こ )だ海底(かいてい)は高温(こうおん)のマントルの中で溶け(と )ていきます。当然(とうぜん)、海底(かいてい)にたまっていた塩分(えんぶん)も一緒(いっしょ)に溶け(と )てしまいます。
 地中から海へ、そしてまた地中へ。塩(しお)は、この壮大(そうだい)な旅(たび)を気の遠くなるような年月の間繰り返し(く かえ )てきました。今日の一杯(いっぱい)のお味噌汁(みそしる)にも、塩分(えんぶん)の長い旅(たび)の歴史(れきし)が刻ま(きざ )れているのです。

「塩分(えんぶん)さん、最初(さいしょ)の生まれはどこなんですか。」
「実は(じつ )、スーパーの食品(しょくひん)売り場なんだよ。」
「うそでシオ。」

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(Μ)
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