a 長文 7.1週 si
「あら、なつかしい。」
 母が声をあげました。おばあちゃんの家を改築かいちくすることになって、荷物の整理に行ったときのことです。母の手には、手紙のたば握らにぎ れていました。色とりどりの便箋びんせん封筒ふうとう、かわいらしいメモ帳の切れ端き はしなどがたくさん出てきました。
「昔は、携帯けいたいやメールなんかなかったでしょう。だから、こんなふうに手紙を交換こうかんしていたのよ。」
と母が言います。するとおばあちゃんが笑いわら ながら、
「毎日学校で会う友だちともやり取りしていて、よくそんなに書くことがあるものだと思ったわ。」
と言いました。
 母は少し恥ずかしは   そうでしたが、わたしは見せてもらうことにしました。手紙のほとんどは、今でも家族ぐるみでつきあいのある母の同級生からのものです。特にとく おもしろかったのは、四年生のときにダジャレに夢中むちゅうになっていたころの手紙です。
大沢おおさわ先生のおおさわぎ」「そんなシャレやめなシャレ」「体育行く?」
などと書いてあり、大沢おおさわ先生らしい太った男の人のイラストがありました。さらに、
真衣子まいこ、まーいい子。」
と母の名前を使ったダジャレもありました。
 そのほかに、秘密ひみつの手紙もありました。封筒ふうとうの表書きに「真衣子まいこへ。だれにも見せないでね」とあったので、わたしは少しどきっとしました。封筒ふうとうの中には、色あせた水色のびんせんが入っていて、小さな字でぎっしりと文が書いてありました。
 わたしはそれを読みたかったけれど、母はこれはだめ、とさっとかくしてしまいました。わたしはきっと好きす な子の話が書いてあるのだな、と思いました。わたしだってもう四年生だからわかるのになあ。
 おばあちゃんは、箱のほこりを払いはら ながら、
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「ママはね、小学生のころは、とてもおとなしかったのよ。授業じゅぎょう参観さんかんに行ってもほとんど発言しないような子でね。」
驚くおどろ ようなことを言いました。今の母からは全く想像そうぞうできません。
「ねえねえ、いつから今みたいにうるさくなったの?」
と聞くと
「あなたが生まれてからかしらねえ。」
と、おばあちゃんが答えました。わたしは、人間って変わるか  ものだなと心の中で思いました。母は知らぬ顔で、昔の本を束ねたば ています。
 わたしは、もし子どものころの母と今、同じクラスだったら、わたしたち、仲良くなかよ なるかなあと考えました。なんとなく、好みこの ていそうだし、話も合いそうだなと思います。わたしは楽しくなってきて、
「おはよう、真衣子まいこ。」
と聞こえないようにつぶやいてみました。

(言葉の森長文ちょうぶん作成さくせい委員会 φ)
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