a 長文 7.3週 si
 父が母国をはなれたあと、母は三人の育ちそだ ざかりのむすこをかかえ、けんめいに生きてきました。「牛乳ぎゅうにゅうとやさいをうる店がちかくにないから、あなたがやってみては。お金は用だてます。」と、しんせつな友人がすすめてくれ、家のすぐそばに小さな店をひらきました。もうけはみじめなほどすくないのですが、ともかく毎日いくらかでもお金がはいってくるのは助かりたす  ます。
 それでもときには、あすのお金にもこまることがありました。そこでロベルトとリュドビグの兄弟は、アンデルセンの童話どうわそっくりのアルバイトをしました。町かどに立って、通行人にマッチのわけうりをし、銅貨どうかをいくまいか、かせいだのです。
 ロベルトとリュドビグが、ほこらしげにその日のうりあげを母にわたすのをみたとき、アルフレッドは、どれほどじぶんをなさけなくおもったかしれません。からださえじょうぶなら、兄たちにけっしてまけてはいませんのに……。
 アルフレッドが気をうしなってたおれた数日後の雪の日には、こんなことがありました。
 店から昼食のしたくにかえった母が、ロベルトに一まいの硬貨こうかをわたし、「パンとすづけにしんをかってきてちょうだい。それでおひるをすませましょう。」とたのみました。
 ロベルトは二つへんじででかけていったのですが、いつまでももどってきません。
「どこまでいったのかしら……。」
 しびれをきらした母が、ドアをあけると、そこにロベルトが立っていました。そまつながいとうを雪でぐっしょりぬらし、青ざめてふるえながら。
「ぼく、お金を雪のなかにおっことしたんだ。いくらさがしてもみつからなくて……。」
 十二さいの、父ににてがっしりしたからだのロベルトがなきじゃくりました。硬貨こうかをしまったポケットにあながあいていたのです。母の、なかみのとぼしいさいふのことをおもって、ロベルトは、きっと、とほうにくれてしまったのでしょう。
(かわいそうに、ロベルト兄さん……。)
ベッドのなかのアルフレッドは、心でよびかけました。
(ひるごはんくらい、たべなくてもへいきなのに……。)
「おばかさんねえ……。」
 ロベルトをだきしめて、母がわらいました。
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「雪のなかに貯金ちょきんしたとおもえばいいじゃない。」
「そうさ。」
と、リュドビグ。
「でも、雪がとけたとき、フレイのやつがさきに貯金ちょきんをみつけなきゃいいけどなあ。」
 フレイというのは、リュドビグのけんかなかまなのです。
 みんな、おもわずふきだしました。
 それから母と子の四人家族かぞくは、ひとさらずつのスープを、フーフーふきながらのみ、ほかになんにもたべなくても、心はみちたりていました。たがいのあたたかい理解りかい愛情あいじょうとユーモアでむすばれていましたから。
 
(「ノーベル」大野すすむちょより)
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