ドイツの心理学者が、味には、塩味、酸味、甘味、苦味の四つの基本の要素があって、どんな味もその組み合わせでできているという説を発表して以来、基本の味についてはもうこれ以外にないと思われていました。しかし、味覚を研究していた日本人の化学者たちは、これにもう一つ、旨味を加えるべきだと主張しました。
この旨味の成分を発見し、初めて学会に報告したのは、池田菊苗 博士です。博士はある日、夕飯を食べていて、妻が作ったお吸い物のあまりのおいしさに感動を覚えたのです。そして、「この味は、四つの基本味だけで出せる味ではない」と確信し、旨味の研究に取りかかりました。
お吸い物のだしは、昆布でとられていました。そこで博士は、四十キログラムもの昆布からだし汁を作り、そこから旨味以外のすべての成分を取り除いていくという、気の遠くなるような作業を続けました。そして最後に残った旨味の正体が、グルタミン酸という物質であることをつきとめたのです。池田博士はこれを学会に報告するとともに、調味料として大量生産する方法を発明しました。そしてこの旨味の素は、「味の素」として商品化され売り出されました。
旨味の成分は、池田博士が発見したグルタミン酸以外にもあります。たとえば、煮干しや鰹節のだしの旨味はイノシン酸、干しシイタケやマツタケの旨味はグアニル酸です。だしの味は外国にもないわけではありません。西洋料理には肉類と香味野菜を煮込んでとるスープストックやブイヨンと呼ばれるだしがあります。中華料理では、鶏ガラや干しエビ、白菜やネギなど、やはりさまざまな材料を煮込んで「湯」と呼ばれるだしを作ります。
このように旨味は確かに味をよくする成分であるとは認められていましたが、旨味が第五の基本味であるということは、世界の人々
|