a 長文 8.2週 si2
「ほんとに、たからものがあるのか!」
 竹ちゃんが、ぼくにむかってねんをおすようにいいました。
 そういわれると、ぼくもあとにはひけません。
「うそじゃない。おじいちゃんが、いったんだ、ほらあなの中に、千りょうばこにはいった大ばん小ばんが、ごっそりうずめてあるって。」
 ぼくのうそはますます大きくなり、とりかえしのつかない大ぼらになっていきました。
「よし、いってみよう。だけど、おまえがいちばんさきにはいるんだぞ。いいな。」
 竹ちゃんが、だめおしをするように、ぼくの顔を見つめていいました。
「ああ、いいとも。」ぼくは、むねをはってこたえました。
 でも、ほんとうのところ、ぼくの心は、(こまったぞ。どうしよう……。)と、おろおろしていました。
 やがて、ローソクやマッチなどをもったぼくたち五人は、ドンドンあなへむかいました。
 あなの入り口は、やっと人がとおれるだけのせまさです。
「さあ、おまえからはいるんだ!」
 竹ちゃんがぼくの心を見すかすようにせきたてました。ぼくは、とたんに、ぶるるる……と、からだがふるえました。
「おい、さっきいったの、あれみんなうそっぱちなんだ!」
 ぼくは、のどのあたりまでそんなことばがでかかったのですが、またゴクン、とのみこんでしまいました。
 みんなから「大うそつき、大ぼらふき」と、いわれるのがしゃくだったからです。
 ぼくは、ローソクに火をつけてまっさきにあなにはいりました。
 正ちゃん竹ちゃん、六ちゃんとあとにつづき、いちばんしんがりは竹ちゃんの弟で、二年生のきよしちゃんでした。
 はいったとたんに、しめっぽくかびくさいいやなにおいが、ぷーんとはなをつき、ローソクの光におどろいたコウモリが、パタパタ……と、とびたちました。
(ばか、ばか、ばか! おまえって、なんてばかなんだ。なぜ、つまらないうそなんかついたんだ!)
 ぼくの心が、しきりにぼくをせめたてました。
「おい、たからのありかはどのへんだ!」
 うしろから、竹ちゃんがたずねました。
「もっとさきだ。」
 ぼくは、かぼそい声でこたえました。
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 しばらくすすむうちに、てんじょうから、大きな石がぐーっとおちかかったりして、ゆくてをふさぎました。
 やっと、はらばいでいけるようなところもあります。
 声をだすと、ウォーン、ウォーンと、ぶきみにあなの中でひびきます。
 はじめは、たがいにわらったり、はなしたりしていたなかまは、しぜんにだまりこんでしまいました。
「おい、どこだ、千りょうばこのあるところは!」
 うしろから、みんながおこったような声で、さけびました。
 どこまでつづいているかわからないほらあな。石が上からおちかかっていきうめになったら……と、おもったしゅんかん、ぼくはもう、一ぽもすすめなくなりました。
 父や母のしんぱいそうな顔が、目のまえにちらちらして、なきだしたくさえなったのです。
(はやくあやまれ、みんなにあやまって、あなの中からでろ!)
 ぼくの心がさけびました。
 そのときです、いちばんしんがりにいたきよしちゃんが、とつぜん大声でなきだしました。
 こわいから、かえるというのです。とたんに、ぼくはすくわれたような気もちになって、
「だめだなあ、こんなときに小さい子をつれてくるからだ……。」
と、うしろの竹ちゃんをなじるようにいいました。
「おい、みんなかえろうぜ。どうせ、たからものなんか、ありっこないんだ。」
 竹ちゃんは、ぼくの心の中をみすかしたように、いいかえしました。
「そ、そ、そんな、おじいちゃんが、ちゃんといったんだぞ。」
 ぼくはあわてぎみに、いっしょうけんめいべんかいをしました。
 やがて、ぼくたち五人は、ぶじにほらあなの外へ、はいだしました。
 あなの中からでたとたんに、ぼくはすくわれたように、ほっと大きないきをつきました。
 それでも、なかまたちの顔を、まっすぐ見ることができず、まだなきじゃくっているきよしちゃんのそばへいって、
「ごめんよ。」
と、小さな声でいいました。

「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十むくはとじゅうへん フォア文庫ぶんこより)
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