a 長文 10.1週 su
1「おかえりなさあい。」
水曜日の朝のあいさつは、おはようではありません。私(わたし)のお母さんは看護(かんご)師(し)です。夜勤(やきん)と言って夕方から夜の間、病院(びょういん)で働く(はたら )ことがあるのです。2入院(にゅういん)している患者(かんじゃ)さんは、寝(ね)ている間も具合(ぐあい)が悪く(わる )なったり、どこか痛く(いた )なったりするので、一晩(ひとばん)中、ナースステイションには看護(かんご)師(し)さんが起き(お )ています。ベッドのそばのブザーを押す(お )と、飛ん(と )できてくれるのです。だから、安心(あんしん)して入院(にゅういん)できるのです。
 3お母さんの夜勤(やきん)の晩(ばん)は、お父さんと二人です。夕ご飯( はん)も、お父さんが作ってくれます。お父さんの作るご飯( はん)は、お母さんのときと少し違い(ちが )ます。味(あじ)が少し塩辛く(しおから )て、野菜(やさい)やお肉の切り方が大きいです。4お母さんのときは、おかずの種類(しゅるい)もたくさんありますが、お父さんのときは、あまりありません。お父さんの作るメニューの中で、いちばんおいしいのはカレーライスです。
 お母さんは、お父さんと結婚(けっこん)する前からずっと看護(かんご)師(し)です。5子供(こども)のときからなりたかった職業(しょくぎょう)だそうです。看護(かんご)師(し)になるための学校は、勉強(べんきょう)がとても大変(たいへん)で、普通(ふつう)の学校のような勉強(べんきょう)だけでなく、実際(じっさい)にやってみる看護(かんご)実習(じっしゅう)というのがあったそうです。でも、お母さんは、看護(かんご)師(し)になる日を夢見(ゆめみ)て、いっしょうけんめいがんばったと言っていました。
 6私(わたし)が生まれるときだけお休みしましたが、あとはずっと今も看護(かんご)師(し)です。お友だちに
「うちのお母さん、看護(かんご)師(し)なんだ。」
と話すと、みんなびっくりして
「いいなあ。」
とうらやましがります。女の子の中では、人気のある職業(しょくぎょう)だからです。7でも、実際(じっさい)は夜勤(やきん)もあるし、とても忙しい(いそが  )大変(たいへん)な仕事(しごと)なのだということを知らないんだなあと私(わたし)は心の中で思います。
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 お母さんは、時々、
「ゆきちゃん、肩(かた)をもんでくれる?」
と言います。そんなときのお母さんの肩(かた)は、力こぶを入れたようにかたくなっています。私(わたし)は、ちょうどよい力でもみほぐしてあげます。8すると、お母さんは、
「ああ、気持ちいい(きも   )。最高(さいこう)。」
と喜び(よろこ )ます。肩(かた)のほかに、首や足のふくらはぎをやってあげることもあります。長い時間やっていると、お母さんはうたた寝(   ね)してしまうこともあります。
 そんなに大変(たいへん)な仕事(しごと)だというのに、お母さんは今まで一度(ど)もやめたいと思ったことがないそうです。9この間、私(わたし)が
「どうして看護(かんご)師(し)をずっと続け(つづ )たいと思うの?」
と聞いてみたら、お母さんは、
「そうねえ。患者(かんじゃ)さんから、ありがとうって言われたとき、人の役(やく)に立てたんだなあって思えるからかな。」
と言ってにっこり笑い(わら )ました。0

(言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会 φ)
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a 長文 10.2週 su
 ダーウィンのお父さんとおじいさんは、医者(いしゃ)でした。ダーウィンも最初(さいしょ)は大学の医学部(いがくぶ)に入れられて勉強(べんきょう)をしていました。しかし、ダーウィンは、成績(せいせき)が悪く(わる )、やる気が見られませんでした。見かねたお父さんは、ダーウィンを医者(いしゃ)にすることをあきらめて、牧師(ぼくし)になるための大学に入れなおしました。しかし、ダーウィンはここでも牧師(ぼくし)の勉強(べんきょう)には関心(かんしん)がなく、博物学(はくぶつがく)という動物(どうぶつ)や植物(しょくぶつ)の勉強(べんきょう)にばかり夢中(むちゅう)になっていました。
 やっと大学を卒業(そつぎょう)したダーウィンは、今度(こんど)は海軍(かいぐん)の測量(そくりょう)船に乗っ(の )て世界中(せかいじゅう)を見て回ることにしました。お父さんは、船で世界(せかい)一周(いっしゅう)することなどはもちろん大反対(はんたい)です。しかし、周り(まわ )の人の助け(たす )も借り(か )て何とかお父さんを説得(せっとく)したダーウィンは、それから五年間、ビーグル号(ごう)に乗っ(の )て世界中(せかいじゅう)を探検(たんけん)しました。
 南米のガラパゴス諸島(しょとう)で、ダーウィンは不思議(ふしぎ)なことに気づきました。ガラパゴス諸島(しょとう)の島(しま)と島(しま)の間には速い(はや )海流(かいりゅう)が流れ(なが )ていて、動物(どうぶつ)たちが行き来することができません。そのような閉ざさ(と  )れた島(しま)にすむ動物(どうぶつ)たちは、島(しま)ごとに姿(すがた)形が変わっ(か  )ていたのです。例えば(たと  )、ヒワという鳥のくちばしが、ある島(しま)では昆虫(こんちゅう)を食べるのに都合(つごう)よくできているのに対し( たい )、ほかの島(しま)では植物(しょくぶつ)を食べるのに都合(つごう)よくできているというようなことです。
 ダーウィンは、この観察(かんさつ)をもとに、自然(しぜん)淘汰(とうた)という考えを作り上げました。つまり、それぞれの環境(かんきょう)に適し(てき )たものが生き残り(い のこ )、適さ(てき )ないものが淘汰(とうた)されることによって、だんだんと種(しゅ)が進化(しんか)していくという考え方です。
 当時の人々は、生物(せいぶつ)の種(しゅ)は神様(かみさま)が作ったもので最初(さいしょ)から完全(かんぜん)な形であり、進化(しんか)することなどはありえないと考えていたので、ダーウィンは多くの人から批判(ひはん)されました。更に(さら )、ダーウィンが、進化(しんか)論(ろん)を人間にあてはめて、「人間もサルから進化(しんか)した」と述べる(の  )と、
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批判(ひはん)は更に(さら )大きく広がりました。人間が神様(かみさま)から作られたものだという考えと、サルから進化(しんか)したものだという考えでは、天と地ほどの差(さ)があったからです。
 しかし、ダーウィンの考え方は科学的(てき)で、だれもが納得(なっとく)せざるをえない根拠(こんきょ)を持っ(も )ていたので、次第に(しだい )多くの人が認める(みと  )ようになりました。
 ところが、この進化(しんか)論(ろん)にも弱点がありました。それは第(だい)一に、環境(かんきょう)に適し(てき )たものが生き残る(い のこ )という考え方で説明(せつめい)するには、生物(せいぶつ)の種類(しゅるい)があまりにも多いということです。もし、ライオンが地球(ちきゅう)の環境(かんきょう)に最も(もっと )適し(てき )ていたとすれば、ほかの動物(どうぶつ)は全部(ぜんぶ)ライオンとの生存(せいぞん)競争(きょうそう)に負け(ま )て、地球(ちきゅう)上にはライオンしかいなくなってしまってもおかしくありません。地球(ちきゅう)の環境(かんきょう)に最も(もっと )適し(てき )ているものがラッコだったらもっと大変(たいへん)です。右を向い(む )てもラッコ、左を向い(む )てもラッコで、どこを見てもラッコラッコラッコラッコラーッと、いつの間にか怒ら(おこ )れているようです。
 進化(しんか)論(ろん)の第(だい)二の弱点は、自然(しぜん)淘汰(とうた)だけで進化(しんか)を説明(せつめい)しようとすると、鳥のくちばしの変化(へんか)ぐらいまでは説明(せつめい)できても、アメーバが魚になり、魚が爬虫類(はちゅうるい)になり、爬虫類(はちゅうるい)が哺乳類(ほにゅうるい)になるというような大きな変化(へんか)は説明(せつめい)しにくいということです。
 進化(しんか)論(ろん)の第(だい)三の弱点は、進化(しんか)論(ろん)そのものよりも、その進化(しんか)論(ろん)を利用(りよう)した社会の問題(もんだい)でした。進化(しんか)論(ろん)は、欧米(おうべい)諸国(しょこく)がアジアやアフリカを植民(しょくみん)地にするときに、その裏づけ(うら  )となる考えとして利用(りよう)されました。つまり、白人は最も(もっと )優れ(すぐ )ていて、有色(ゆうしょく)人種(じんしゅ)はそれよりも劣り(おと )、その有色(ゆうしょく)人種(じんしゅ)よりも更に(さら )劣っ(おと )ているのがサルだという考え方が、白人の支配(しはい)を正当化(か)したのです。
 このような弱点はあったものの、ほぼ一人で進化(しんか)の全体(ぜんたい)像(ぞう)を考え出したダーウィンは、人間のものの見方を大きく前進(ぜんしん)させたのでした。 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(Σ)
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a 長文 10.3週 su
1「でもね、お母さん、小学校って、まるで軍隊(ぐんたい)みたいなんだ。だからぼく、いやなんだよ。」
 なるほど、そのころのドイツの小学校は、規則(きそく)第(だい)一で、暗く(くら )重苦しい(おもくる  )ふんいきに満ち(み )あふれていました。2授業(じゅぎょう)も、暗記(あんき)ばかり。自分で考えることは、いっさい許さ(ゆる )れません。先生にさからうことはもちろん、質問(しつもん)することさえ禁じ(きん )られていたのです。おさないアルバートが「軍隊(ぐんたい)そっくり。」というのも、もっともでした。
 3おまけに、無口(むくち)で体育(たいいく)がにがてなアルバートには、なかなか友だちもできません。一か月もしないうちに、学校がすっかりいやになってしまいました。
 4とはいえ、勉強(べんきょう)まできらいになったわけではありませんでした。下校してくると、ヤコブおじさんに助け(たす )てもらいながら、辞書(じしょ)をひき、本を読み、自分の好き(す )な勉強(べんきょう)を深め(ふか )ていきました。
 5数学に興味(きょうみ)をもったのも、そのころのことです。
 ある日、アルバートはヤコブおじさんにたずねました。
「ねえ、おじさん、『代数(だいすう)』ってなんのこと?」
 おじさんは、待っ(ま )ていましたとばかりに、説明(せつめい)をはじめました。
6「『代数(だいすう)』とは、わからない数をさがしだす数学だよ。まず、わからない数を、文字の『X(エックス)』とよぶ。そして、問題(もんだい)でいわれたとおりに、計算式(しき)をつくっていくと、さいごに、『X』がどんな数かが、ちゃんとわかるんだ。」
7「なんだか、おもしろそうだね。」
「おう、頭の体操(たいそう)みたいなものだからな。」
 こうして、アルバートは、小学生ではとても理解(りかい)できないような数学を、どんどん、自力で学んでいったのです。
 8勉強(べんきょう)にあきると、こんどはバイオリンを取り上げ(と あ )、小さな手で器用(きよう)に、モーツァルトやベートーベンの曲(きょく)をかなでます。
 そういえば、バイオリンも、ほとんど独習(どくしゅう)でした。
 9六さいになったとき両親(りょうしん)に連れ(つ )ていかれたバイオリンの先生
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は、小学校の先生と同じように、かたくるしくて、いばりくさっていました。はじめのうち、アルバートは、レッスンがいやでたまりませんでした。0けれども、家に帰って、自分で工夫(くふう)しながら練習(れんしゅう)をつづけているうちに、ある日とつぜん、モーツァルトのソナタがひけるようになったのです。
 それからは、しめたもの。すっかりバイオリンのとりこになったアルバートは、一生、この優雅(ゆうが)で複雑(ふくざつ)な楽器(がっき)と、親友のようにつきあいました。
 父のへルマンからは文学、母のパゥリーネからは音楽、そしてヤコブおじさんからは科学……。この三つの世界(せかい)は、アインシュタインの一生の大きな柱(はしら)となりました。
 
(「アインシュタイン」岡田(おかだ)好恵(よしえ)著(ちょ)より)
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a 長文 10.4週 su
 「寝る(ね )子は育つ(そだ )」ということわざがあります。昔(むかし)の人は理屈(りくつ)でなく経験(けいけん)で理解(りかい)していたのでしょうが、このことわざのとおり、寝る(ね )子が育つ(そだ )のには科学的(てき)な根拠(こんきょ)があるのです。日の出とともに起き(お )、日の入りとともに眠る(ねむ )ような時代(じだい)と異なり(こと  )、現代(げんだい)の人々は夜も活動(かつどう)を続け(つづ )ています。ですから、大人はもちろん、子供(こども)が眠り(ねむ )につく時間も年々遅く(おそ )なる一方です。しかし、夜更かし(ふ  )は健全(けんぜん)な成長(せいちょう)のためにも勧める(すす  )ことはできません。たとえ遅く(おそ )寝(ね)たとしても、ある程度(  ていど)の睡眠(すいみん)時間を確保(かくほ)できればいいのだろうと思うかもしれませんが、そうではありません。睡眠(すいみん)も、量(りょう)より質(しつ)が問題(もんだい)になってくるのです。睡眠(すいみん)の場合、眠り(ねむ )に就く(つ )時間が重要(じゅうよう)なポイントになります。「早起き(はやお )は三文の得(とく)」ということわざがあるのも、実は(じつ )納得(なっとく)できる理由(りゆう)があるのです。 
 それでは、どうして遅く(おそ )寝る(ね )のはいけないのでしょうか。睡眠(すいみん)中には大切なホルモンが分泌(ぶんぴつ)されます。成長(せいちょう)期(き)の子どもたちに最も(もっと )重要(じゅうよう)なのが成長(せいちょう)ホルモンです。このホルモンは夜九時から二時くらいの間に盛ん(さか )に分泌(ぶんぴつ)されます。ホルモンは夜中に出るもん(出るもの)なのです。ですから、この時間には眠り(ねむ )に就い(つ )ている必要(ひつよう)があります。成長(せいちょう)ホルモンの主(おも)な働き(はたら )は、骨(ほね)の成長(せいちょう)を促し(うなが )、筋肉(きんにく)を作るたんぱく質(    しつ)の合成(ごうせい)を助け(たす )、日中活動(かつどう)して痛ん(いた )だ細胞(さいぼう)を修復(しゅうふく)することです。名前のとおり、体の成長(せいちょう)に欠か(か )せないものと言えます。
 ほかにメラトニンというホルモンも忘れ(わす )てはなりません。このホルモンは暗く(くら )なると分泌(ぶんぴつ)される性質(せいしつ)があり、電気を煌々(こうこう)と灯し(とも )た明るい部屋(へや)で夜更かし(ふ  )をしていると分泌(ぶんぴつ)量(りょう)が減少(げんしょう)してしまいます。メラトニンには人間の自然(しぜん)な生活のリズムを整える(ととの  )働き(はたら )や、酸素(さんそ)の毒性(どくせい)から体を守る(まも )働き(はたら )、それに加え(くわ )て免疫(めんえき)を強化(きょうか)する働き(はたら )があります。
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 遅く(おそ )寝(ね)た場合、これらのホルモンが十分に分泌(ぶんぴつ)されず、体に支障(ししょう)をきたす恐れ(おそ )があります。このことから、健康(けんこう)な体を維持(いじ)するためには、早く眠り(ねむ )に就き(つ )十分な睡眠(すいみん)時間を確保(かくほ)することが大切だとわかります。 
 睡眠(すいみん)には深い(ふか )眠り(ねむ )と浅い(あさ )眠り(ねむ )があることが知られています。浅い(あさ )眠り(ねむ )では脳(のう)はまだまだ活動(かつどう)しています。日中のできごとを思い出し、記憶(きおく)として定着(ていちゃく)させています。ですから、日中いっしょうけんめい勉強(べんきょう)したことが、浅い(あさ )眠り(ねむ )を通して記憶(きおく)として定着(ていちゃく)するわけです。
 浅い(あさ )眠り(ねむ )と深い(ふか )眠り(ねむ )は九十分ごとに入れ替わる(い か  )と考えられていますが、眠り(ねむ )に就く(つ )時間が遅く(おそ )睡眠(すいみん)時間が少なくなった場合は、眠り(ねむ )のほとんどを深い(ふか )睡眠(すいみん)が占め(し )てしまいます。というのも、脳(のう)に休養(きゅうよう)を与える(あた  )という、人が生きていくうえで重要(じゅうよう)な眠り(ねむ )が深い(ふか )眠り(ねむ )だからです。睡眠(すいみん)時間が足りなくなった場合は、浅い(あさ )眠り(ねむ )の出番はなくなってしまうのです。
 毎日深夜(しんや)まで勉強(べんきょう)していると、かえって脳(のう)を痛めつける(いた    )ことにもなりかねません。せっかくの努力(どりょく)を無駄(むだ)にしないためにも、また効率(こうりつ)よく学習(がくしゅう)の成果(せいか)をあげるにも、早い時間に床(とこ)に就き(つ )能率(のうりつ)のよい睡眠(すいみん)をとりましょう。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(ω)
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a 長文 11.1週 su
 1ぼくは、二年生のとき、初めて(はじ  )一人で電車に乗り(の )ました。夏休みにおばあちゃんのうちへ行くためです。駅(えき)のホームで、お母さんは、心配(しんぱい)そうに何回もぼくの顔を見て、
「いい? 港南台(こうなんだい)でおりるんだからね。二つめだからね。」
と言いました。2ぼくは、うなずきました。でも、お母さんは、まだ心配(しんぱい)そうで、
「港南台(こうなんだい)、だからね。おばあちゃんがそこでまってるからね。」
と言いました。
 青い電車が入ってきて、いよいよ乗り込み(の こ )ました。ぼくは、ドキドキしてきました。3お母さんを見たら、いっしょうけんめい手をふっています。ぼくは、それを見て、手をふるのはまだ早いよ、と思いました。そのとき、プルルルルーとベルが鳴って、びっくりしているうちに、電車のドアが閉まり(し  )ました。
 4ぼくは、ドアに顔をくっつけて、お母さんを見ました。お母さんが、何か言いながら手をふっています。ぼくもふろうとしたけれど、あっというまに電車は発車(はっしゃ)して、お母さんは見えなくなってしまいました。
 5ぼくは、急(きゅう)に心細くなって、あたりを見回しました。すると、近くの席(せき)にぼくぐらいの年齢(ねんれい)の子がゲーム機(き)で遊ん(あそ )でいるのが見えました。そのとなりには、もう少し大きいその子のお兄さんのような子もいて、やはりゲームをやっていました。6二人は、大きな声で笑っ(わら )たり、たたきあったりしながら、夢中(むちゅう)で遊ん(あそ )でいます。ぼくは、何のゲームかなあと思いながら、ずっとそちらを見ていました。
「次(つぎ)は洋光台(ようこうだい)、洋光台(ようこうだい)。」
とアナウンスが聞こえました。ぼくは、はっとしました。7いくつ駅(えき)をすぎたか数えていませんでした。でも、「台」がつくから、合っているなと思いました。やっとついたと思って、電車をおりてホームをさがしても、おばあちゃんはいませんでした。
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 8ぼくは、ドキドキしてきましたが、自分に、「落ち着け(お つ )。よく考えろ」と言い聞かせました。そこで手ににぎっていた紙を思い出して、よく見たら、「二つめ、港南台(こうなんだい)」と書いてありました。ぼくは、どうしたらいいかわからなくなって、紙を持っ(も )たまま立っていました。9そうしたら、知らないおばあさんが来て、紙をのぞきこんで
「一つ先まできちゃったね。港南台(こうなんだい)でおりたかったんでしょ。あっちがわにきた電車にのって、一つもどればだいじょうぶ。」
と教えてくれました。急い(いそ )で反対(はんたい)方向(ほうこう)の電車に乗る(の )と、その電車はすぐに発車(はっしゃ)しました。
 0電車が次(つぎ)の駅(えき)に近づくと、
「次(つぎ)は港南台(こうなんだい)、港南台(こうなんだい)。」
と、アナウンスが聞こえました。今度(こんど)はしっかり紙を見ていたので、合っているなと思いました。電車が止まり、ホームにおりたら、おばあちゃんが遠くからぼくを見つけて、こっちに走って来るのが見えました。

(言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会 φ)
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a 長文 11.2週 su
 ミツバチの群れ(む )は、一匹(ぴき)の女王蜂(じょおうばち)と数千匹(びき)から数万匹(びき)の働き蜂(はたら ばち)、繁殖(はんしょく)期(き)に現れる(あらわ  )二千匹(びき)から三千匹(びき)の雄蜂(おすばち)で構成(こうせい)されています。それぞれの役割(やくわり)分担(ぶんたん)も明確(めいかく)で、高度(こうど)な巨大(きょだい)社会を形成(けいせい)していると言ってもよいでしょう。 
 ミツバチは、規則正しい(きそくただ  )六角形を組み合わせて巣板(すばん)を作ります。巣(す)板(ばん)を構成(こうせい)する六角形の小部屋(こべや)は巣房(すぼう)と呼ば(よ )れます。巣(す)房(ぼう)は、育児(いくじ)、花粉(かふん)の貯蔵(ちょぞう)、花蜜(みつ)の貯蔵(ちょぞう)、ハチミツの加工(かこう)など、さまざまな目的(もくてき)に利用(りよう)されています。それぞれの作業(さぎょう)を効率(こうりつ)よく行えるように、巣(す)房(ぼう)の配置(はいち)も考慮(こうりょ)されています。 
 では、ミツバチは、なぜ六角形の巣(す)を作るのでしょうか。もしミツバチの巣(す)が丸だったら、上下左右に並べ(なら )ていくとき、無駄(むだ)なスペースができてしまいます。もし四角だったら、巣(す)と巣(す)の間に隙間(すきま)はなくなりますが、ミツバチが巣(す)に入ったときに無駄(むだ)なスペースができてしまいます。ミツバチの体型(たいけい)から考えると、六角形がいちばん効率(こうりつ)がよいのです。 
 ミツバチの巣(す)の材料(ざいりょう)は、働き蜂(はたら ばち)の腹部(ふくぶ)から分泌(ぶんぴつ)される蝋(ろう)片(へん)です。働き蜂(はたら ばち)は、その蝋(ろう)片(へん)を、後肢(あとあし)の内側(うちがわ)にあるブラシ状(じょう)の毛を使っ(つか )て抜き取り(ぬ と )、肢(あし)についた蝋(ろう)片(へん)を大あごでくわえ、それをかみ砕き(くだ )ながらはりつけていきます。この根気(こんき)のいる作業(さぎょう)を続ける(つづ  )だけでも大変(たいへん)なことですが、定規(じょうぎ)も分度器(ぶんどき)もコンパスも持た(も )ずに六角形の巣(す)を規則正しく(きそくただ  )並べ(なら )ていくのですから、まさに神業(かみわざ)としか言いようがありません。 
 以前(いぜん)は、ミツバチが最初(さいしょ)に丸い形の巣(す)を作り、それが周囲(しゅうい)から押しつぶさ(お    )れて自然(しぜん)に六角形になると考えられていました。しかし実際(じっさい)にミツバチの巣(す)づくりの様子(ようす)を観察(かんさつ)したところ、初め(はじ )から六角形を作っていることが分かったのです。 
 一九六六年、ドイツの二人の学者(がくしゃ)は、ミツバチの巣(す)が横向き(よこむ )に作られていることから、六角形の巣(す)を作る秘密(ひみつ)は、重力(じゅうりょく)に関係(かんけい)ある
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のではないかと考えました。巣(す)を作るとき、ミツバチは、頭を上下左右に向け(む )たいろいろな姿勢(しせい)を取ら(と )なければなりません。そのときに体にかかる重力(じゅうりょく)は絶えず(た  )変化(へんか)します。そこで、二人が注目(ちゅうもく)したのが、働き蜂(はたら ばち)の首と腹(はら)にある感覚(かんかく)毛です。二人は、実験(じっけん)から、ミツバチは首の感覚(かんかく)毛が頭に触れる(ふ  )ことによって重力(じゅうりょく)の方向(ほうこう)を感知(かんち)していることをつきとめました。ミツバチは、感覚(かんかく)毛の接触(せっしょく)によって、自分の体の向き(む )を知り、六角形の巣(す)を作っていたのです。
 ミツバチの巣(す)がいかに巧妙(こうみょう)に作られているかは、数学者(しゃ)たちの研究(けんきゅう)によっても証明(しょうめい)されています。三つの菱形(ひしがた)からなる中央(ちゅうおう)部(ぶ)のそれぞれの角度(かくど)は一〇九度(ど)二八分ですが、この数字は、使う(つか )蝋(ろう)の量(りょう)を最小(さいしょう)にして巣(す)を作った場合の角度(かくど)なのです。数学者(しゃ)たちが微分(びぶん)学の理論(りろん)を使っ(つか )たむずかしい計算をして出した数字をミツバチは生まれながらに知っていたことになります。 
 ハニカム構造(こうぞう)と呼ば(よ )れる六角形の組み合わせは、効率(こうりつ)がよいだけではなく、安定(あんてい)した形でもあります。外部(がいぶ)から力が加え(くわ )られたとき、うまく力を分散(ぶんさん)することができるのです。ダイヤモンドや雪の結晶(けっしょう)は、このハニカム構造(こうぞう)になっています。また、建築(けんちく)材料(ざいりょう)、航空機(こうくうき)の翼(つばさ)の内部(ないぶ)、サッカーゴールのネット、スキー板(いた)の内部(ないぶ)などにもこのハニカム構造(こうぞう)が応用(おうよう)されています。ハニカム構造(こうぞう)がこんなにも幅広く(はばひろ )採用(さいよう)されていることをミツバチが知ったら、はにかんでしまうかもしれません。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(Λ)
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a 長文 11.3週 su
 1かれはすぐ、プリンストンの名物(めいぶつ)教授(きょうじゅ)になりました。世界(せかい)的(てき)な大科学者(しゃ)ということもありますが、そのすなおで、あたたかい性格(せいかく)が教授(きょうじゅ)仲間(なかま)や学生たちをとらえたのです。
 2博士(はかせ)は、決まっ(き  )た講義(こうぎ)は行いませんでしたが、研究(けんきゅう)室にくる学生たちを、たいへん親切に指導(しどう)しました。
 3学生ばかりではありません。たのまれれば、小学生の勉強(べんきょう)だって見てあげたのです。
 4じっさい、プリンストンの町には、ある十さいの女の子が毎日のようにアインシュタイン家に行って、博士(はかせ)に算数の宿題(しゅくだい)を教えてもらったという話が残っ(のこ )ています。
「あんなえらい先生に、宿題(しゅくだい)を見てもらうなんて!」
 5女の子のお母さんが、びっくりしておわびに行くと、博士(はかせ)は、
「とんでもない。わたしのほうこそ、おじょうさんから教わることが、たくさんあったんですよ。」
といったそうです。
 6ライオンのたてがみのような白髪(はくはつ)をなびかせ、町を散歩(さんぽ)する博士(はかせ)を、だれもがあたたかい目で見守り(みまも )ました。
 アインシュタイン博士(はかせ)は、この町でだれからも愛さ(あい )れうやまわれました。7ただひとつ、あまりにも身なり(み  )をかまわないことだけは、人々のじょうだんの種(たね)になりました。古いセーターに、サンダルばき。くつしたをはかず、さんぱつも大きらい。
 8こんな博士(はかせ)に、「すこし服装(ふくそう)に気をつかわれたらどうですか。」と、だれかが忠告(ちゅうこく)すると、「肉を買って、包み(つつ )紙のほうがりっぱだったら、わびしくないかね。」と、やりかえされてしまいました。人は外見ではない、ということでしょう。
 9しかも、人生というのは限ら(かぎ )れています。ものは、すべて必要(ひつよう)最低限(さいていげん)にきりつめ、おしゃれをする時間があれば、一分でも研究(けんきゅう)のほうにまわしたい――アインシュタイン博士(はかせ)は、心からそう思っていたのです。
(「アインシュタイン」岡田(おかだ)好恵(よしえ)著(ちょ)より)
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a 長文 11.4週 su
 食虫植物(しょくちゅうしょくぶつ)とは、葉(は)などで虫や小動物(しょうどうぶつ)をつかまえて消化(しょうか)し、栄養分(えいようぶん)として吸収(きゅうしゅう)する植物(しょくぶつ)のことです。食虫植物(しょくちゅうしょくぶつ)と言っても、しょっちゅう虫をつかまえているわけではありません。食虫植物(しょくちゅうしょくぶつ)も普通(ふつう)の植物(しょくぶつ)と同じように、日光から栄養分(えいようぶん)を自分で作っているので、虫を食べなくても枯れる(か  )ことはないからです。ただ、育ち(そだ )が少し悪く(わる )なることはあります。食虫植物(しょくちゅうしょくぶつ)は、世界(せかい)には、五百種(しゅ)あまり、日本にも、二十種(しゅ)あまりが自生しています。数ある食虫植物(しょくちゅうしょくぶつ)の中から、ハエトリグサ、ウツボカズラ、モウセンゴケの三種類(しゅるい)を紹介(しょうかい)しましょう。 
 ハエトリグサの葉(は)には、片側(かたがわ)に三つずつ、合計六本の小さな毛が生えています。虫がこの毛に二回さわると、すぐに葉(は)が閉じ(と )て虫をつかまえます。虫があたふたしているうちにふたが閉まっ(し  )てしまうわけです。なぜ二回さわるまで葉(は)を閉じ(と )ないかというと、一回だけでは虫が葉っぱ(は  )のまん中に入っていないかもしれないからです。二回ならほとんど間違い(まちが )なく虫が真ん中(ま なか)に入っているだろうというわけです。ハエトリグサは用心深い(ようじんぶか )性格(せいかく)なのかもしれません。
 葉(は)を閉じ(と )てからもしばらくは、葉(は)の中に虫が動ける(うご  )隙間(すきま)があります。しかし、虫をつかまえてから一日経つ(た )と、葉(は)をぴたりと閉じ(と )て虫を押しつぶし(お    )てしまいます。そして、消化(しょうか)液(えき)を出して虫をどんどんとかしてしまいます。虫を完全(かんぜん)にとかすまでには十日ぐらいかかります。その後、また葉(は)を開い(ひら )て、次(つぎ)の餌食(えじき)となる虫を待つ(ま )のです。 
 ウツボカズラのふくろにはふたがあります。このふたの裏(うら)やふくろの口のまわりから甘い(あま )ミツを出して虫をおびきよせます。ふくろの表面(ひょうめん)はロウのようになっていてとてもすべりやすいので、虫たちがいくらもがいても徒労(とろう)に終わっ(お  )てしまいます。ミツを目当てにやってきた虫たちは、結局(けっきょく)は足をすべらせてふくろの中に落ち(お )て
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しまいます。ふくろの下にはいつも消化(しょうか)液(えき)がたまっています。ウツボカズラは、ふくろの内側(うちがわ)にあるぶつぶつから虫の栄養分(えいようぶん)を吸い取っ(す と )ています。一方的(てき)に栄養分(えいようぶん)を取る(と )だけですから、物々交換(ぶつぶつこうかん)とはいかないようです。ふくろについているふたですが、このふたは雨を防ぐ(ふせ )ためのもので、虫をつかまえた後も閉まり(し  )ません。 
 モウセンゴケの仲間(なかま)は、北極(ほっきょく)、南極(なんきょく)、砂漠(さばく)をのぞく、ほぼ世界中(せかいじゅう)に分布(ぶんぷ)しています。日本でも北から南までどこでもよく見ることができます。モウセンゴケの葉(は)には腺(せん)毛が生えていて、その先からねばねばした液(えき)を出して虫を捕え(とら )ます。赤い腺(せん)毛の先にねばねばがきらきらと光り、まるでダイヤモンドダストのようです。葉(は)の上に虫がとまると、毛が素早く(すばや )動きだし(うご   )ます。毛だけでなく葉(は)も虫をつつみこむように動き(うご )、虫をとかす消化(しょうか)液(えき)を出します。十時間もすると、葉(は)は虫をくるくる巻き(ま )にして、ゼンマイのような姿(すがた)になります。そして、消化(しょうか)液(えき)でとかされた虫の栄養分(えいようぶん)を吸い取り(す と )、その後、まるで何事(なにごと)もなかったようにまた葉(は)を開い(ひら )て次(つぎ)の虫を待ち(ま )ます。「モウセンゴケ」とは名ばかりで、「もう、せん。」と言いながらも次々(つぎつぎ)に虫をつかまえてしまうようです。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(Λ)
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a 長文 12.1週 su
 1私(わたし)が小さい頃(ころ)から大切にしているものは貝殻(かいがら)です。大切にしているだけではなくて、今も集め(あつ )ているので、大切にしているものはどんどん増え(ふ )ていきます。 
 最初(さいしょ)に貝殻(かいがら)をもらったのは、たぶん幼稚園(ようちえん)の年中のときです。2伊豆(いず)にあるお父さんの会社の保養所(ほようじょ)でお泊まり(と  )をしたときです。きれいな伊豆(いず)の海には広い砂浜(すなはま)があって、私(わたし)は、そこでよく砂(すな)の山を作って遊び(あそ )ました。砂(すな)の山を固め(かた )たあと、真ん中(ま なか)を掘っ(ほ )てトンネルにするのが大好き(だいす )でした。
 3私(わたし)は、浮輪(うきわ)をしても波(なみ)が怖かっ(こわ  )たので、あまり海には入らないで砂遊び(すなあそ )ばかりしていました。砂(すな)を掘っ(ほ )ていたら、小さい貝や貝のかけらがたくさんみつかりました。私(わたし)はそれを洗っ(あら )たアイスのカップに集め(あつ )ました。
 4そのときも私(わたし)が砂(すな)を掘っ(ほ )ていたら、赤い水着(みずぎ)を着(き)たお姉さんがやって来て、 
「たくさん集め(あつ )たね。これきれいでしょう。桜貝(さくらがい)というのよ。」 
と、ピンクの二枚貝(にまいがい)をくれました。すけて見えそうなうすい貝で、まるで貝のお姫様( ひめさま)のようでした。5私(わたし)はうれしくて、ありがとうと言いたかったけれどはずかしくて言えませんでした。代わり(か  )に横(よこ)にいたお父さんがお礼( れい)を言いました。 
 夕ごはんのとき、お母さんにそのことを話しながら桜貝(さくらがい)を見せました。6お母さんは、 
「あら、ほんと。こんなにきれいな桜貝(さくらがい)ってあんまりないのよねえ。よかったわね。」 
と言って、そっと桜貝(さくらがい)を手に乗せ(の )ました。そして、 
「これねえ、うすくてわれやすいから、何かでつつんでおいた方がいいね。」 
と、ティッシュを出して、そっとつつんでくれました。
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 7私(わたし)は、ちょっと緊張(きんちょう)しながら、何度(ど)もそのティッシュをあけて、桜貝(さくらがい)を見ました。寝る(ね )までに三十回ぐらいは見たと思います。ほんとうにきれいで、何回見てもあきませんでした。その夜は、うれしくてなかなか眠れ(ねむ )ませんでした。
 8大事(だいじ)に持っ(も )て帰った桜貝(さくらがい)ですが、いつだったかティッシュから出して、他(ほか)の貝といっしょにテーブルに並べ(なら )て遊ん(あそ )でいるとき、つまみあげた指先(ゆびさき)にちょっと力が入りすぎて、片方(かたほう)のはしが欠け(か )てしまいました。 
 9その後、自分で海で拾っ(ひろ )たり、誰か(だれ )におみやげでもらったり、鎌倉(かまくら)のお店で買ったりして、貝殻(かいがら)はどんどん増え(ふ )ていきました。でも、やっぱりいちばん大切にしているのは、はしが少し欠け(か )たあの桜貝(さくらがい)です。私(わたし)は、今も時々、桜貝(さくらがい)の入った宝石(ほうせき)箱(ばこ)を開け(あ )て見ています。0

(言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会 φ)
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a 長文 12.2週 su
 『種(しゅ)の起源(きげん)』の著者(ちょしゃ)チャールズ・ダーウィンがミミズの研究(けんきゅう)を始め(はじ )たのは、二十八歳(さい)のときでした。それ以来(いらい)、ダーウィンは四十年以上(いじょう)もミミズの観察(かんさつ)を続け(つづ )ました。ダーウィンが最初(さいしょ)に目をつけたのは牧草(ぼくそう)地です。最初(さいしょ)はでこぼこで石ころだらけだったはずの牧草(ぼくそう)地の土が細かくしっとりとした土になり、地面(じめん)が平ら(たい )になっていくのは、ミミズが土を食べて、土のフンをするからではないかと考えたのです。つまり、ミミズが長い年月をかけて、土を耕し(たがや )ているのではないかと思いついたのです。 
 ダーウィンは、十年ほど前に土をよくするために石灰(せっかい)をまいたという牧草(ぼくそう)地に行ってみました。すると、石灰(せっかい)は、地表(ちひょう)から七・五センチぐらいのところに埋まっ(う  )ていました。ダーウィンはミミズが石灰(せっかい)の上にフンをして、十年の間にこれだけ埋め(う )てしまったに違い(ちが )ないと考えました。しかし、もしかしたら、その十年の間に、誰(だれ)かが土をまいたのかもしれません。ほかの動物(どうぶつ)や風が土を運ん(はこ )できたということも考えられます。そこで、ダーウィンは、これがミミズの仕事(しごと)だったということを自分の目で確かめよ(たし   )うと決意(けつい)しました。 
 ある年の冬、三十三歳(さい)のダーウィンは、自宅(じたく)の裏(うら)に広がる牧草(ぼくそう)地に石灰岩(せっかいがん)の破片(はへん)をばらまきました。この場所(ばしょ)なら毎日観察(かんさつ)することができます。しかし、石灰岩(せっかいがん)の破片(はへん)が埋まっ(う  )て見えなくなるまでに数年、ミミズが耕す(たがや )土の量(りょう)をほぼ正確(せいかく)に計算できるようになるまでに数十年かかります。ダーウィンは、来る日も来る日も牧草(ぼくそう)地をながめながら、この気の遠くなるような年月を待ち(ま )続け(つづ )ました。
 もちろん、この間、ダーウィンはただ待っ(ま )ていただけではありません。ミミズにガラスやれんがのかけらを食べさせたらどうなるか、地面(じめん)の下に何匹(ひき)くらいミミズがいるか、ミミズのフンはどのように移動(いどう)するのかなど、ミミズに関する( かん  )さまざまな実験(じっけん)を行いました。まさにミミズづけの数十年間だったのです。ミミズのフンの研究(けんきゅう)ばかりしているダーウィンに、もう青年になっていた子供(こども)た
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ちは憤慨(ふんがい)しました。それでも、ダーウィンは実験(じっけん)を続け(つづ )ました。
 最初(さいしょ)に石灰岩(せっかいがん)の破片(はへん)をまいてから二十九年たち、ダーウィンは六十二歳(さい)になっていました。その年の十一月、ついに牧草(ぼくそう)地を掘る(ほ )日がやってきました。ダーウィンは、牧草(ぼくそう)地にざくっとスコップをさしこみます。土を持ち上げる(も あ  )と、白いものが見えます。それは、言うまでもなく、二十九年前に牧草(ぼくそう)地にばらまいた石灰(せっかい)でした。深(ふか)さ五十センチほどの穴(あな)を掘る(ほ )と、周囲(しゅうい)の土の壁(かべ)に一筋(ひとすじ)石灰(せっかい)の層(そう)が見えます。石灰(せっかい)は、地表(ちひょう)から十七・五センチぐらいのところに埋まっ(う  )ていました。二十九年間で十七・五センチということは、毎年約(やく)六ミリずつ埋め(う )られていたことになります。これは、もちろんミミズのはたらきによるものです。 
 ダーウィンは、この研究(けんきゅう)を三百ページをこえる一冊(さつ)の本にまとめ上げました。進化(しんか)論(ろん)の提唱(ていしょう)者(しゃ)として有名(ゆうめい)なダーウィンですが、その一方でミミズのような小さな生き物(い もの)の研究(けんきゅう)にも生涯(しょうがい)をささげたのです。みんなが見向き(みむ )もしないような小さな生き物(い もの)に注目(ちゅうもく)し、その生態(せいたい)を明らかにしたダーウィン。そのダーウィンが亡くなっ(な   )たのは、ミミズの本を書き上げてから半年後のことでした。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(Λ)
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a 長文 12.3週 su
 1その日から、アインシュタインの、核(かく)廃絶(はいぜつ)と戦争(せんそう)反対(はんたい)への努力(どりょく)がはじまりました。
「われわれは、戦争(せんそう)には勝ち(か )ました。けれども平和(へいわ)を勝ち(か )とったわけではない。」
 2博士(はかせ)はまず、アメリカ国民(こくみん)に対して( たい  )、こう忠告(ちゅうこく)します。
 原子力は、人間の手にあまるほど危険(きけん)な力です。つぎの戦争(せんそう)で使わ(つか )れたら、世界(せかい)は破滅(はめつ)するでしょう。3だから、ぜったいに戦争(せんそう)が起こら(お  )ないように努力(どりょく)しなければなりません。アメリカ人は、世界(せかい)に先がけて原子兵器(へいき)のひみつをにぎった国民(こくみん)として、このことをぜひ自覚(じかく)してほしいとうったえたのです。
 4博士(はかせ)は、終戦(しゅうせん)直後にできた、国際(こくさい)連合(れんごう)の原子力委員(いいん)会の会長を引き受け(ひ う )ました。一九四六年には国際(こくさい)連合(れんごう)に、世界(せかい)政府(せいふ)をつくることを提唱(ていしょう)します。つまり、世界(せかい)から国境(こっきょう)をなくし、国家どうしの争い(あらそ )を永久(えいきゅう)になくそうというのです。
 5けれども、そのときすでに、ソ連( れん)をはじめ世界(せかい)各国(かっこく)で、アメリカに負け(ま )じと、核(かく)開発(かいはつ)競争(きょうそう)がはじまっていました。
 こうなると、アメリカもだまってはいられません。一九四八年、トルーマン大統領(だいとうりょう)によって、こんどは「水爆(すいばく)(水素(すいそ)爆弾(ばくだん))」の開発(かいはつ)が命令(めいれい)されました。
 6核(かく)開発(かいはつ)合戦(がっせん)はいよいよ過熱(かねつ)し、世界(せかい)はアメリカ側(がわ)とソ連( れん)側(がわ)にわかれて、にらみあうようになりました。
 人間のおろかさに、博士(はかせ)は深く(ふか )胸(むね)をいためました。そして、あるときたずねてきた日本人の記者(きしゃ)に、「敗戦(はいせん)国日本の国民(こくみん)には、心から同情(どうじょう)します。7けれども、勝っ(か )た国々もいま、それ以上(いじょう)に苦しい(くる  )道を歩んでいるのです。」と、しみじみ語りました。博士(はかせ)は、原子力発電(はつでん)所(しょ)をはじめとする、原子エネルギーの平和(へいわ)利用(りよう)についても、かなり慎重(しんちょう)な考えをもっていました。
 8一九四五年『アトランティック=マンスリー』という雑誌(ざっし)に
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は、つぎのように書いています。「……原子力が将来(しょうらい)、人類(じんるい)に大きな恵み(めぐ )をもたらすとは、いまのわたしには、考えにくいのです。原子力は脅威(きょうい)です。」
 9人間は、原子力を発見(はっけん)できたのに、どうして、それを管理(かんり)できないのでしょう、ときかれると、「それは、政治(せいじ)が物理(ぶつり)学よりむずかしいからですよ。」と、皮肉(ひにく)をこめて、答えています。0
 
(「アインシュタイン」岡田(おかだ)好恵(よしえ)著(ちょ)より)
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a 長文 12.4週 su
 駄洒落(だじゃれ)(ダジャレ)とは、音が同じかそっくりな言葉(ことば)をならべて遊ぶ(あそ )言葉(ことば)遊び(あそ )です。江戸(えど)中期(ちゅうき)の雑俳(ざっぱい)と呼ば(よ )れる短い(みじか )詩(し)のひとつと言われています。地口(じぐち)とも呼ば(よ )れます。この雑俳(ざっぱい)に詠わ(うた )れる内容(ないよう)は、みんなの知っている言葉(ことば)や、芝居(しばい)の有名(ゆうめい)なせりふをもとにした機知(きち)に富ん(と )だおもしろいことがらです。いろいろな言葉(ことば)をよく知っていて、世の中(よ なか)のことに精通(せいつう)し、センスがよいと気の利い(き )たじょうずなシャレができるのです。ですから、江戸(えど)時代(じだい)では、シャレのうまい人を教養(きょうよう)があるとみなしたようです。立派(りっぱ)な庶民(しょみん)の文化(ぶんか)だったわけです。地口(じぐち)に合った絵を行灯(あんどん)に描い(えが )て、秋のお祭り( まつ )に使っ(つか )たという「地口(じぐち)行灯(あんどん)」は、最近(さいきん)復活(ふっかつ)して関東(かんとう)地方のあちこちで、作られているようです。 
 しかし、正統(せいとう)派(は)の俳人(はいじん)や文化(ぶんか)人と言われる人たちの中には、ばかばかしいおふざけと見る人もあり、シャレに「駄(だ)」がつけられてしまったのです。もともとは「洗練(せんれん)されている」「洒落(しゃれ)ていて趣(おもむき)がある」という意味(いみ)だったシャレですが、つまらない・粗末(そまつ)な・でたらめといった意味(いみ)を表す(あらわ )、不名誉(ふめいよ)な「駄(だ)」がつけられてしまいました。 
 さて、ダジャレにはどんなものがあるのでしょう。いろいろな種類(しゅるい)がありますが、まずはちょっとした語呂合わせ(ごろあ  )で作る「同じ読み方の言葉(ことば)を使っ(つか )たもの」。これには、「電話にはでんわ」、「アルミ缶(かん)の上にあるミカン」などがあります。全く(まった )同じ音なのに全然(ぜんぜん)違う(ちが )ものを表し(あらわ )ているという意外(いがい)性(せい)のおもしろさがあります。ダジャレといえば、このようなものを思い浮かべる(おも う   )人も多いでしょう。少し発展(はってん)させると、「とかげと影(かげ)」「机(つくえ)にくっつく絵」「宝(たから)があったから」などができます。 
 次に(つぎ )、「似(に)たような音を持つ(も )言葉(ことば)を使っ(つか )たもの」があります。「とこやはどこや」「めじろのねじろ」「迷子(まいご)の舞妓(まいこ)」などがそれにあたります。気軽(きがる)にひょいと口をついて出るような軽い(かる )ダジャレ
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です。少し無理(むり)があると、またそれがおもしろくなることもあります。 
 三つめは、ニつの言葉(ことば)をくっつけて作ったやや上級(じょうきゅう)編(へん)です。「布団(ふとん)がお山の方まで吹っ飛ん(ふ と )だ!」「おやまぁ。」ちょっとしたストーリーができあがります。 
 さらに、一つの文にニつの意味(いみ)をもたせるものがあります。「風林火山ない?」と「風鈴(ふうりん)飾ん(かざ )ない?」、「倒産(とうさん)か辛かっ(つら  )たな」と「父さんカツラ買ったな」、「私(わたし)と居(い)てください」と「渡し(わた )といてください」などです。ダジャレのつもりでなく、口にして、「あれ、勘違い(かんちが )」ということもあるかもしれません。 
 江戸(えど)時代(じだい)には文化(ぶんか)だったダジャレですが、最近(さいきん)では若者(わかもの)たちに親父ギャグなどと呼ば(よ )れて、肩身(かたみ)のせまいところです。しかし、日本語独特(どくとく)の音のおもしろさ、言葉(ことば)から広がるイメージなどを共有(きょうゆう)することで、場が和み(なご )、楽しい気分になるものです。ダジャレを最も(もっと )よく言う層(そう)は、小学校高学年の男子と四十代(だい)以上(いじょう)のサラリーマンだそうです。語彙(ごい)が増え(ふ )て、ユーモアを解する(かい  )ようになったダジャレ入門者(しゃ)の小学生と、忙しい(いそが  )生活や仕事(しごと)に疲れ(つか )、つかのまの癒し(いや )をダジャレに求める(もと  )ダジャレ世代(せだい)のお父さんたちというわけです。 
 欧米(おうべい)人は冗談(じょうだん)が好き(す )で、ユーモアとウィット(機知(きち))に富ん(と )だ会話を楽しむ、とよく言われます。ユーモアのセンスというのは、言っている本人はもちろん、相手(あいて)も楽しくなり、円滑(えんかつ)な人間関係(かんけい)を結ぶ(むす )上で大変(たいへん)重要(じゅうよう)なものです。
 ダジャレの特徴(とくちょう)は、子供(こども)から大人までだれでも気軽(きがる)に言えることです。「日本じゃだれでも、ダジャレを言える」となったら、ダジャレは日本の伝統(でんとう)文化(ぶんか)の一つとして世界(せかい)に誇れる(ほこ  )ものになるかもしれません。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(φ)
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