a 長文 10.3週 su
「でもね、お母さん、小学校って、まるで軍隊ぐんたいみたいなんだ。だからぼく、いやなんだよ。」
 なるほど、そのころのドイツの小学校は、規則きそくだい一で、暗くくら 重苦しいおもくる  ふんいきに満ちみ あふれていました。授業じゅぎょうも、暗記あんきばかり。自分で考えることは、いっさい許さゆる れません。先生にさからうことはもちろん、質問しつもんすることさえ禁じきん られていたのです。おさないアルバートが「軍隊ぐんたいそっくり。」というのも、もっともでした。
 おまけに、無口むくち体育たいいくがにがてなアルバートには、なかなか友だちもできません。一か月もしないうちに、学校がすっかりいやになってしまいました。
 とはいえ、勉強べんきょうまできらいになったわけではありませんでした。下校してくると、ヤコブおじさんに助けたす てもらいながら、辞書じしょをひき、本を読み、自分の好きす 勉強べんきょう深めふか ていきました。
 数学に興味きょうみをもったのも、そのころのことです。
 ある日、アルバートはヤコブおじさんにたずねました。
「ねえ、おじさん、『代数だいすう』ってなんのこと?」
 おじさんは、待っま ていましたとばかりに、説明せつめいをはじめました。
「『代数だいすう』とは、わからない数をさがしだす数学だよ。まず、わからない数を、文字の『X(エックス)』とよぶ。そして、問題もんだいでいわれたとおりに、計算しきをつくっていくと、さいごに、『X』がどんな数かが、ちゃんとわかるんだ。」
「なんだか、おもしろそうだね。」
「おう、頭の体操たいそうみたいなものだからな。」
 こうして、アルバートは、小学生ではとても理解りかいできないような数学を、どんどん、自力で学んでいったのです。
 勉強べんきょうにあきると、こんどはバイオリンを取り上げと あ 、小さな手で器用きように、モーツァルトやベートーベンのきょくをかなでます。
 そういえば、バイオリンも、ほとんど独習どくしゅうでした。
 六さいになったとき両親りょうしん連れつ ていかれたバイオリンの先生
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は、小学校の先生と同じように、かたくるしくて、いばりくさっていました。はじめのうち、アルバートは、レッスンがいやでたまりませんでした。けれども、家に帰って、自分で工夫くふうしながら練習れんしゅうをつづけているうちに、ある日とつぜん、モーツァルトのソナタがひけるようになったのです。
 それからは、しめたもの。すっかりバイオリンのとりこになったアルバートは、一生、この優雅ゆうが複雑ふくざつ楽器がっきと、親友のようにつきあいました。
 父のへルマンからは文学、母のパゥリーネからは音楽、そしてヤコブおじさんからは科学……。この三つの世界せかいは、アインシュタインの一生の大きなはしらとなりました。
 
(「アインシュタイン」岡田おかだ好恵よしえちょより)
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