1ぼくは、二年生のとき、初めて一人で電車に乗りました。夏休みにおばあちゃんのうちへ行くためです。駅のホームで、お母さんは、心配そうに何回もぼくの顔を見て、
「いい? 港南台でおりるんだからね。二つめだからね。」
と言いました。2ぼくは、うなずきました。でも、お母さんは、まだ心配そうで、
「港南台、だからね。おばあちゃんがそこでまってるからね。」
と言いました。
青い電車が入ってきて、いよいよ乗り込みました。ぼくは、ドキドキしてきました。3お母さんを見たら、いっしょうけんめい手をふっています。ぼくは、それを見て、手をふるのはまだ早いよ、と思いました。そのとき、プルルルルーとベルが鳴って、びっくりしているうちに、電車のドアが閉まりました。
4ぼくは、ドアに顔をくっつけて、お母さんを見ました。お母さんが、何か言いながら手をふっています。ぼくもふろうとしたけれど、あっというまに電車は発車して、お母さんは見えなくなってしまいました。
5ぼくは、急に心細くなって、あたりを見回しました。すると、近くの席にぼくぐらいの年齢の子がゲーム機で遊んでいるのが見えました。そのとなりには、もう少し大きいその子のお兄さんのような子もいて、やはりゲームをやっていました。6二人は、大きな声で笑ったり、たたきあったりしながら、夢中で遊んでいます。ぼくは、何のゲームかなあと思いながら、ずっとそちらを見ていました。
「次は洋光台、洋光台。」
とアナウンスが聞こえました。ぼくは、はっとしました。7いくつ駅をすぎたか数えていませんでした。でも、「台」がつくから、合っているなと思いました。やっとついたと思って、電車をおりてホームをさがしても、おばあちゃんはいませんでした。
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