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 わたしが小さいころから大切にしているものは貝殻かいがらです。大切にしているだけではなくて、今も集めあつ ているので、大切にしているものはどんどん増えふ ていきます。 
 最初さいしょ貝殻かいがらをもらったのは、たぶん幼稚園ようちえんの年中のときです。伊豆いずにあるお父さんの会社の保養所ほようじょでお泊まりと  をしたときです。きれいな伊豆いずの海には広い砂浜すなはまがあって、わたしは、そこでよくすなの山を作って遊びあそ ました。すなの山を固めかた たあと、真ん中ま なか掘っほ てトンネルにするのが大好きだいす でした。
 わたしは、浮輪うきわをしてもなみ怖かっこわ  たので、あまり海には入らないで砂遊びすなあそ ばかりしていました。すな掘っほ ていたら、小さい貝や貝のかけらがたくさんみつかりました。わたしはそれを洗っあら たアイスのカップに集めあつ ました。
 そのときもわたしすな掘っほ ていたら、赤い水着みずぎたお姉さんがやって来て、 
「たくさん集めあつ たね。これきれいでしょう。桜貝さくらがいというのよ。」 
と、ピンクの二枚貝にまいがいをくれました。すけて見えそうなうすい貝で、まるで貝のお姫様 ひめさまのようでした。わたしはうれしくて、ありがとうと言いたかったけれどはずかしくて言えませんでした。代わりか  よこにいたお父さんがお礼 れいを言いました。 
 夕ごはんのとき、お母さんにそのことを話しながら桜貝さくらがいを見せました。お母さんは、 
「あら、ほんと。こんなにきれいな桜貝さくらがいってあんまりないのよねえ。よかったわね。」 
と言って、そっと桜貝さくらがいを手に乗せの ました。そして、 
「これねえ、うすくてわれやすいから、何かでつつんでおいた方がいいね。」 
と、ティッシュを出して、そっとつつんでくれました。
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 わたしは、ちょっと緊張きんちょうしながら、何もそのティッシュをあけて、桜貝さくらがいを見ました。寝るね までに三十回ぐらいは見たと思います。ほんとうにきれいで、何回見てもあきませんでした。その夜は、うれしくてなかなか眠れねむ ませんでした。
 大事だいじ持っも て帰った桜貝さくらがいですが、いつだったかティッシュから出して、ほかの貝といっしょにテーブルに並べなら 遊んあそ でいるとき、つまみあげた指先ゆびさきにちょっと力が入りすぎて、片方かたほうのはしが欠けか てしまいました。 
 その後、自分で海で拾っひろ たり、誰かだれ におみやげでもらったり、鎌倉かまくらのお店で買ったりして、貝殻かいがらはどんどん増えふ ていきました。でも、やっぱりいちばん大切にしているのは、はしが少し欠けか たあの桜貝さくらがいです。わたしは、今も時々、桜貝さくらがいの入った宝石ほうせきばこ開けあ て見ています。

言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会 φ)
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