a 長文 10.2週 su2
 エジソンが七さいになったとき、一家は、ミランからヒューロンのそばのポートヒューロンにうつりました。おとうさんのやっていた食料しょくりょうひん製材せいざい事業じぎょうが大きくなるにつれて、あたらしく鉄道てつどうえきができたポートヒューロンのほうが、べんりだったのです。
 エジソンは、この活気にあふれた町の小学校に入学しました。ところが、たちまちのうちに、教室のやっかいものになってしまったのです。きまぐれで、ごうじょうで、すきなことにはむちゅうになるくせに、きらいなことには見むきもしないのです。
 そのうえ、れいの好奇こうき心から、時と場所ばしょもかまわずだしぬけに、ちょいちょい、先生がかんがえてもいないような質問しつもんをしたりします。
 ことに、数学の時間はたいへんです。先生が、
「二たす二は四。」
とおしえます。すると、エジソンが、きゅうに立ちあがって、
「先生、どうして二と二をたすと四になるのですか?」
「かぞえてごらん。四になるじゃないか。」
「でも、なぜ四にならなければいけないのですか?」
「わからない子だな。二たす二は、四なんだ。よくおぼえておおき!」
 そんなわけで、エジソンは先生からすっかりきらわれてしまいました。そして、先生はとうとう、きみは低能ていのうであると、きめてしまいました。
 こんなことがかさなって、ある日、エジソンは、おかあさんにいいました。
「……ぼく……もう学校へいかないよ。」
「まあ、きゅうに、どうしたの?」
「先生がね、ぼくのことを、ばかだっていうんだもの。そうして……。」
「そうして?」
「なにをきいても、よけいなことをきくんじゃないって、しかるんだもの。」
 おかあさんは、じっとかんがえこんでいました。じぶんも、むかし、学校の先生をしたことがあり、そういう教育きょういくほうがとくべつの才能さいのうをもった子どもをみちびくのに、てきとうでないことをよく知っていました。
 333231302928272625242322212019181716151413121110090807060504030201 

「そう……。それではこれからは、おかあさんが先生になってあげましょう。そのかわり、いっしょうけんめい勉強べんきょうするんですよ。」
「うん、ぼく、いっしょうけんめいやるよ。ぼく、ばかじゃないもの、ね。」
 こうして、学校をやめたエジソンは、家庭かていでとくべつの教育きょういくをうけました。それはじつにおもいきった教育きょういくで、まだ八つか九つだというのに、母親のナンシーが先生になって、ギボンの「ローマ帝国   ていこく衰亡すいぼう」、ヒュームの「英国えいこく」、シアースの「世界せかい」、バートンの「ゆううつの解剖かいぼう」、「科学の辞典じてん」といった、むずかしい本を読んだのです。
 十二さいになると、ニュートンの「プリンキピア」という本の勉強べんきょうをはじめました。その中にでてくる数学は、先生のおかあさんでさえ、てこずるものでしたから、数学がにがてのエジソンには、どうにもくるしいたたかいでした。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
 666564636261605958575655545352515049484746454443424140393837363534