a 長文 10.3週 su2
 決心けっしんしたとおり、エジソンは、グランド=トランク鉄道てつどうの新聞うりになりました。それは、新聞のほかに、雑誌ざっし・くだもの・キャンデーなどを、列車れっしゃ内でうるのです。そのきょりは、ポートヒューロン――デトロイト間百キロメートル、三時間です。そこで、毎朝七時にポートヒューロンを発車はっしゃして、十時にデトロイトにつきます。
 デトロイトにつくと、この汽車は夕がたまでやすみ、そして、夜の九時半ごろ、ポートヒューロンにかえります。それは、エジソンにとって、ながいひまな時間でした。
 この列車れっしゃは、三りょう編成へんせいで、手荷物てにもつ車と喫煙きつえん車と婦人ふじん普通ふつう客車きゃくしゃからなっていました。手荷物てにもつ車は、荷物にもつ室・郵便ゆうびん室・喫煙きつえん室の三つにくぎってあり、この喫煙きつえん室はつかわれていませんでした。エジソンは、このへやをあてがわれたのです。かれは、そこへ、きゃくにうる品物しなものをもちこみました。
 こんな列車れっしゃですから、朝のりこんで、お客 きゃくに新聞やたべものをひととおりうると、もうひまです。十時から夕がたまでは、デトロイトの図書館としょかん勉強べんきょうします。けれども、列車れっしゃ内の往復おうふく六時間をぼんやりすごすなんて、そんなことは、エジソンにはできません。
 そこでかんがえついたのが、車内実験じっけんです。じぶんにあてがわれた車室を、化学かがく実験じっけん室にしようというわけです。
 しかし、こんなことは、しゃしょうにそうだんしたらおしまいです。そっとやらなければだめです。かんがえついたあくる日、じぶんの家の地下室から、薬品やくひん実験じっけん用具ようぐをこっそりもちこみました。
 じょうぶなからだをおじいさんから、事業じぎょう才能さいのうをおとうさんから、そして、勉強べんきょうへの熱情ねつじょうをおかあさんからうけついだのか、少年エジソンはつかれしらずに、しごとと勉強べんきょうをつづけるのでした。
 朝はやくから列車れっしゃうり子、化学かがく実験じっけん図書館としょかんがよいをするだけでなく、ポートヒューロンに、助手じょしゅのオーツをつかって、やさいとくだものの店をひらきました。デトロイトの市場でやすい品物しなものを見
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つけると、すかさず仕入れしい てきて、ポートヒューロンの店でうるのです。そうして、十二さいの少年が、一日八ドルから十ドルの収入しゅうにゅうをあげるのです。
 そのうちの一ドルを毎日おかあさんへ、そしてのこりは、本・薬品やくひん実験じっけん器具きぐ費用ひようにしました。実験じっけん室は、みるみる道具どうぐがそろってきました。
 いったい、いまエジソンがうちこんでいる化学かがく実験じっけんと、かれの商売しょうばいと、どんなつながりがあるのでしょう。
 なんのつながりもないように見えますが、じつは、エジソンという人物じんぶつにとっては、きりはなすことのできないかんけいがあるのです。それは、その後のかれの発明はつめいをかんがえればすぐわかるでしょう。
 電灯でんとう・電車・蓄音機ちくおんき映画えいが・ラジオ……そのほか、どれをとってみても、の人々にちょくせつやくにたつものばかりです。みんな社会と、ちょくせつむすびついています。そういうものが発明はつめいできたのは、エジソンがすぐれた事業じぎょう家の性質せいしつをもち、また、商売しょうばいというものをよく知っていたからです。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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