a 長文 11.1週 su2
 朝六時におきて、列車れっしゃにのりこみ、夜は十時にかえってきます。そのあいだじゅうが、うり子のしごとと、図書館としょかんでの勉強べんきょうと、化学かがく実験じっけんです。
 このようにしてすごす一日一日は、つらいことのようですが、エジソンにとっては、かけがえのないたのしみだったのです。
 こういうと、エジソンには、少年らしいたのしみというものが、まるでなかったようですが、たった一つ、エジソンをむちゅうにさせたあそびがありました。
 電信でんしんあそびです。
 そのころ、つまり、一八六〇年代ねんだいのアメリカでは、電信でんしんがようやく実用じつようされてきていました。このあたらしい器具きぐが、少年たちをとりこにしたのは、あたりまえのことで、それをまねた電信でんしんあそびは、大流行りゅうこうでした。
 もちろん、エジソンもその一人でした。
 かれは、ありあわせのものだけをつかって、電信でんしんをつくりました。電線の針金はりがねにぬのぎれをまき、それをてつのしんにまきつけて電磁石でんじしゃくとし、キーには、しんちゅうのばねをりようしました。あきびんを、絶縁ぜつえん用の碍子がいしにして立ち木にくぎでとめました。電池は地下化学かがく実験じっけん室でおぼえた方法ほうほうでつくりました。
 これらができあがったところで、エジソンはちかくの友だちの一人とのあいだに電線をひきました。
 交信こうしんは、うまくいきました。信号しんごうで、おもうことをつたえる、おもしろいあそびです。だが、エジソンは、夜の十時でなければ、家へかえれません。
 ところが、おとうさんのサムエルは、エジソンの健康けんこうをしんぱいして、十一時半よりおそくまでおきていることをゆるしません。なんとか、これをゆるめる作戦さくせんがひつようです。
 ところで、サムエルは、毎晩まいばん、エジソンがもってかえる新聞をたのしみにしていました。あるばん、エジソンは、その新聞をもたずにかえってきました。
「わすれた? そいつはがっかりだな。」
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「そうだ、友だちのところに新聞があるから、ニュースをきいてあげようか。」
「こんな時間にかい?」
「まあ、見ててごらん。」
 エジソンが電信でんしんにスイッチをいれて、キーをたたくと、それにこたえて、友だちが信号しんごうをおくってきます。エジソンは、その電文を文章ぶんしょうになおして、まちかまえているおとうさんにわたしました。
「なるほど、すばらしいことをやるもんだなあ。」
 夜おそくまで、ただ、いたずらあそびをしている、としかおもわなかったサムエルは、ほとほとかんしんしてしまいました。もう、「はやくねなさい。」といえなくなりました。
 おかげでエジソンは、夜おそくまで電信でんしんをたのしむことができるようになったのですが、やがて、このあそびから、かれのあたらしい道がひらけることになるのです。
 電信でんしん手というしごとです。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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