1その日も、実験につかれて頭をかかえこんでいましたが、ふと、ゆかの上を見たエジソンは、おもわず、あっと声をあげました。
「そうか、そうか……どうして、こんなことに気がつかなかったのだろう!」
それは、もめんの糸くずでした。
2エジソンは、もめんのぬい糸を手ごろのながさにきり、タールとすすをまぶしてニッケルにのせ、そうっと炉にいれてやきました。
むねをおどらせながら、とりだしてみると、ああ、なんというよろこび! 3おもったようにほそい炭素線が、みごとにできていたのです。
エジソンは、もうむちゅうでした。それから二日がかりで、この炭素線を、輪にしたり、ばてい形にしたりして、ガラス球の中にふうじこみました。4そして、ゆっくりゆっくり空気をぬき、百万分の一気圧の真空にしました。
「できたぞ! できたぞ!」
おもわずさけぶエジソンを、所員たちがとりかこみました。5みんなが、じっといきをつめて見つめる中で、エジソンはその電球を注意ぶかく電線につなぎ、ふるえる手でスイッチをいれました。
「わあっ!」
それは、文明のあけぼのをつげる歓声でした。
6「おめでとう!」
「おめでとう!」
みんなは、かわるがわるエジソンの手をにぎりしめました。エジソンは、ひとことも声がだせず、ただじっと、世界さいしょの電灯を見つめていました。
7一八七九年の十月二十一日のことでした。十月二十一日――それはいまでも、「エジソン記念日」とされています。
この電灯は、四十五時間かがやきつづけてきえました。そのあいだ、だれもが、まる二日間、ねようともしなかったのです。8エジソンは、くずれるようにたおれ、そのまま二十四時間ねむりつづけました。
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