a 長文 11.3週 su2
 その日も、実験じっけんにつかれて頭をかかえこんでいましたが、ふと、ゆかの上を見たエジソンは、おもわず、あっと声をあげました。
「そうか、そうか……どうして、こんなことに気がつかなかったのだろう!」
 それは、もめんの糸くずでした。
 エジソンは、もめんのぬい糸を手ごろのながさにきり、タールとすすをまぶしてニッケルにのせ、そうっとにいれてやきました。
 むねをおどらせながら、とりだしてみると、ああ、なんというよろこび! おもったようにほそい炭素たんそ線が、みごとにできていたのです。
 エジソンは、もうむちゅうでした。それから二日がかりで、この炭素たんそ線を、にしたり、ばてい形にしたりして、ガラスだまの中にふうじこみました。そして、ゆっくりゆっくり空気をぬき、百万分の一気圧きあつ真空しんくうにしました。
「できたぞ! できたぞ!」
 おもわずさけぶエジソンを、所員しょいんたちがとりかこみました。みんなが、じっといきをつめて見つめる中で、エジソンはその電球でんきゅう注意ちゅういぶかく電線につなぎ、ふるえる手でスイッチをいれました。
「わあっ!」
 それは、文明のあけぼのをつげる歓声かんせいでした。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
 みんなは、かわるがわるエジソンの手をにぎりしめました。エジソンは、ひとことも声がだせず、ただじっと、世界せかいさいしょの電灯でんとうを見つめていました。
 一八七九年の十月二十一日のことでした。十月二十一日――それはいまでも、「エジソン記念きねん日」とされています。
 この電灯でんとうは、四十五時間かがやきつづけてきえました。そのあいだ、だれもが、まる二日間、ねようともしなかったのです。エジソンは、くずれるようにたおれ、そのまま二十四時間ねむりつづけました。
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「メンロパークの魔術まじゅつが、とうとう電灯でんとう発明はつめいしたそうだよ。」
 世間せけんは、もう大さわぎです。新聞は、毎日のように大きくかきたてました。
 そして、この年の大みそか。研究所けんきゅうじょにわの木という木には、何百こという電球でんきゅうがつけられました。所員しょいんそうがかりでととのえた展覧てんらん会です。
 ニューヨークからは、臨時りんじ特別とくべつ列車れっしゃが人々をはこびました。そうしてあつまった何千という人たちの頭の上で、世紀せいきの光が、まばゆいばかりにかがやいたのです。
 やがて、新年をつげる教会のかねがなりはじめました。そのときだれからともなく、
「エジソン、ばんざい!」
という声があがりました。観衆かんしゅうのどよめきは、いつまでもいつまでも、こだましました。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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