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 エジソンの父の時代じだいにはアメリカ独立どくりつ戦争せんそうがあり、自身じしん南北戦争なんぼくせんそうのさいちゅうにそだち、戦争せんそうのしげきをうけることもおおかったエジソンが、兵器へいき研究けんきゅうをしなかったということは、たいへんりっぱな信念しんねんをもっていたことをしめすものといえるのです。
 エジソンは、いろいろな発明はつめいにつよいきょうみをもち、また、事業じぎょう心もなかなかさかんでしたが、じぶんの発明はつめいは、あくまで「人類じんるいのためにある」、という精神せいしんをすてなかったのです。また、その信念しんねんがあればこそ、むずかしい研究けんきゅうに、あれだけの努力どりょくもはらえたのでしょう。
 エジソンはほんとうに平和へいわ愛するあい  人でした。そうして戦争せんそうをきらっていました。
 エジソンは、いろいろなべんりな発明はつめいで、世界せかいの国々がゆたかになれば、戦争せんそうなどはなくなるものだ、というかんがえをもっていました。電灯でんとう蓄音機ちくおんき映画えいがなどといった発明はつめいには、そのことがよくあらわれています。
 一九一四年の七月に、ヨーロッパでだい世界せかい大戦たいせんがはじまりました。
 そのころ、科学や工業こうぎょう研究けんきゅうでは、世界せかいでドイツがいちばんすすんでいました。ことに化学かがく製品せいひんは、ほかのどの国より、とくにすぐれていました。ドイツの染料せんりょう医薬いやく・ガラス、マグネシウムなどの金属きんぞくるい、そういったものを、アメリカの産業さんぎょうかいでは、ドイツからたくさん輸入ゆにゅうしていました。
 それが、戦争せんそうがはじまると同時に、ぴったりはいってこなくなったのです。アメリカはまだ、ドイツと戦争せんそうはしていなかったのですが、イギリスの海軍かいぐんがドイツを封鎖ふうさして、ドイツの商船しょうせんのうごきをとめてしまったからです。
 アメリカの工業こうぎょうかいは、たいへんこまりました。ことにおりものぎょうやそめものぎょうは、ドイツの染料せんりょうがはいらなくなっては、どう
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しようもありません。そこでなんとかして、アメリカでその原料げんりょうをつくろうと、大いそぎで研究けんきゅうしはじめたのです。
 しかし、おいそれと、すぐにはとてもまにあいません。ことに、エジソンの蓄音機ちくおんき工場では、レコードの原料げんりょうにつかう石炭酸せきたんさんが、ぜひ必要ひつようなのですが、ほうぼうの薬品やくひん会社に注文ちゅうもんしてみましても、これから研究けんきゅうして製造せいぞうをはじめるのだから、すくなくとも一年ぐらいたたなければできないというへんじです。
 そこでエジソンは、
「よし、それなら、われわれの手でひとつつくってみることにしよう。」
というわけで、すぐ、蓄電池ちくでんちのニッケルをつくっていたシルバーレークの化学かがく工場をひろげて、その研究けんきゅうにとりかかりました。研究所けんきゅうじょの人たちは、はりきって、二十四時間三こうたいで、ぶっつづけのしごとととりくみました。その努力どりょくのけっか、それから二十日めには、はやくも石炭酸せきたんさんがとれるようになりました。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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