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 地獄じごく沙汰さたも金しだい

 沙汰さた」とは、結果けっかとか取りきめのこと。地獄じごくでうけるえんま大王の裁判さいばん結果けっかでさえも、お金をだせば有利ゆうりになるという意味。そこから、世の中はお金さえあれば、なにごとも思うがままになる、というたとえだ。
 このように、世の中でお金がいちばん大切、と考える人はたくさんいる。たしかに人間が生きていくのに、お金は必要ひつようなものだ。けれど人には、お金よりもっと大切にしなくちゃいけないものが、あるんじゃないかな。たとえば、人と仲よくなか  平和にくらしていくこととか、まじめに働くはたら こととか、正しいと信じるしん  ことはつらぬくといったことなどだよ。大人になって、お金だけがすべて、という人間にはなってもらいたくないな。
 地獄じごくってどんなところか知ってる? 地下の牢獄ろうごくのことだ。この世でわるいことをした人間が、死んでからいく場所のこと。えんま大王は、地獄じごくでいちばんえらい主だ。死んで地獄じごくにきた人間の裁判さいばんをする。死者が生きていた時のおこないを裁いさば て、ばつをきめる。赤い血の色の衣装いしょうをまとって、かんむりをかぶり、目をいからせて、手には罪人つみびとをしばるなわをもっている。えんま大王が裁判さいばんをやる時、死んだ者がやったことをしらべるものを、えんま帳というんだ。そばには、命令めいれいをうけて罪人つみびとをこらしめるおにがひかえている。
 地獄じごくのえんま大王がでてくる熊本くまもと県のむかし話がある。
 ――むかし、千五郎せんごろうという役者がいた。芝居しばいがとても上手で、〈千両役者〉といわれたほどだ。ある時、千五郎せんごろうはきゅうな病でころっと死んでしまった。
 はだかにされた千五郎せんごろうは、くらいところをずんずん歩いていく。そして、地獄じごく極楽ごくらくのわかれ道にきた。えんま大王が、こわい顔をしてすわっていた。
「こらあ、お前は、しゃばではなにをしていたか。」
大王に聞かれ、千五郎せんごろうは役者をしていた、とこたえた。
「役者だったら、いまからこの前で、芝居しばいをやってみろ。」
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「こんなはだかじゃ、芝居しばいをやれません。」
 えんま大王が、どんな衣装いしょうでも貸しか てやるといったので、千五郎せんごろうは、大王の衣装いしょう借りか たいと申しでた。大王は、しぶしぶ貸しか てくれた。
 千五郎せんごろうは大王の衣装いしょうを着ると、こしからけんをひきぬき、大きな声でいった。
「おおい、赤おに、青おにぃ。こっちへきて、その男をつかまえろ。そして地獄じごくへ追いやるんだあ。」
 大王はちがうちがうとさけんだが、おにたちは大王をひっとらえて地獄じごくへ追いやってしまったんだ。そのあと地獄じごくの入り口では、千五郎せんごろうがずっとえんま大王をやっているそうな。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫)より
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