1「クロちゃん、どこ。」
「クロちゃあん。」
私は、大きな声で名前を呼びながら、脱走したクロちゃんを探します。クロちゃんは、手のひらサイズのジャンガリアンハムスターです。2毎朝、登校前のケージのそうじで、ちょっと気を許すと、するっと外に出て全速力でどこかへ行ってしまうのです。ハムスターは、せまいところが大好きで、家具の間などにどんどん入ってしまいます。3出られなくなったら大変です。私は、そんなとき、クロちゃんの大好物のひまわりの種の入った紙袋を持ってカシャカシャと振ります。すると、種がもらえると思うのか、どこからかクロちゃんは出てきます。4小さな足でちょこちょこ歩く姿を見ると、脱走したことを怒ることなどできません。
私のお母さんも動物好きで、子供のころはインコ、文鳥、柴犬、ニワトリ、金魚、カメなどを飼っていたそうです。5私くらいのときは、毎朝欠かさず五時に起きて、犬の散歩、鳥小屋のそうじ、いろいろな生き物のえさやりをしていたと言います。
「自分で飼うと決めたのだから、ちゃんと世話しないとね。だから一日も休まなかったよ。」
と、お母さんは言いました。
6クロちゃんは、私が誕生日にほしいと言って買ってもらったハムスターです。確かそのとき、
「ちゃんと自分で飼うから。世話もきちんとするから。おねがい。」
と、私も言ったような気がします。
7クロちゃんは、体がとても小さいので、たぶん脳みそも小さいと思います。けれども、私の気持ちをよくわかってくれるような気がします。8私が叱られたり、友だちとけんかしたりして悲しい時、じっとこちらを見て、「大丈夫」と声をかけてくれているみたいです。
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