転んでもただでは起きぬ
1つまずいてころんでも、ころんだところにおちているものをひろってから起きあがる、という意味だ。そこから、たとえ失敗したとしても、その失敗をむだにしないで役にたて、利益をあげようとする。2欲がふかくて、どんな時でも自分の得になるようにすること。ぬけ目のない人をあざわらっていうことばだ。
これは、古くからあったことわざらしい。「転んでも土」とか、「こけてもただでは起きぬ」、「こけても砂」、「こけても馬のくそ」といったように、おなじ意味のことわざがいくつもある。3むかしは、馬のくそも畑のいい肥料になったから、ひろってもって帰ったんだね。「こけた所で火打ち石」は、ころんだら、そこにおちている石の中から、火打ち石になるようなかたい石をひろってからたちあがったという意味だ。4ほんとに、ただでは起きないたくましさを感じることわざだ。
むかし話に「わらしべ長者」というのがある。この話にでてくる男は、ころんでもただでは起きなかったことから、幸運がはじまるんだ。
――むかし、京の町にとても貧乏でしようのない男がいた。5大和の国、長谷の観音様におまいりして、どうかお助けくださいとたのんでいた。すると、ある夜の明け方、観音様が夢にあらわれていわれた。「都へ帰るとちゅう、どんなものでも手にはいったものを、大切に思ってもって帰りなさい。」
6男はお寺の門からでようとして、ころんでしまった。起きあがって気がつくと、一本のわらしべをひろってつかんでいた。男は、このわらしべが観音様のいわれたものだと思い、すてずに歩きはじめた。
7男は、飛んできたアブを、そのわらでむすんでもっていた。すると、牛車に乗ってきた高貴な人の子が、すごくほしがった。アブのわらしべをあげると、みかん三つをくれた。少しいくと、のどがかわいて歩けなくなった女の人がいてみかんをあげるとよろこんで、三反の布をくれた。
8またいくと、たおれた馬の処分にこまっている武士がいた。男
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