どんぐりの背比べ
1どんぐりは、どれも形や大きさがおなじようで、一つ一つのちがいはよくわからない。そこから、人間をくらべる時に、みんなおなじようでとくにすぐれたものがいないことをいう。
このことわざは、平凡なものばかりをくらべる時に使い、すぐれたものをくらべる時には使わない。2クラスの成績で、上位のものは力がそろっていて、だれが一位か二位かわからないような時には、「どんぐりの背比べ」とはいわない。どうしてことわざに「どんぐり」がでてきたんだろう?
それは、どんぐりがとてもありふれた木の実だからだ。3どんぐりは、特定の木の実じゃない。ブナ科ナラ属の木になる実は、みんなどんぐりだ。つまり、カシ、クヌギ、コナラ、ミズナラ、カシワ、といった木になる実はぜんぶ「どんぐり」とよぶんだ。4木の種類はちがい、幹や葉の形などはちがっても、その木にできたどんぐりをくらべてみると、みんな似ているように見える。そこから、このことわざがうまれたと思われるよ。
ところで、宮沢賢治という人が書いた童話に「どんぐりと山猫」というのがある。5作品のなかみは、このことわざとつながるところがあるよ。
――ある日、一郎のところに、おかしなはがきがきた。それは山ねこからのもので、あした、めんどうな裁判をするからきてくれ、と書いてあった。
6つぎの日、一郎は、谷川にそって、くりの木、滝、きのこ、りすなどに道を聞きながら、どんどん山の中に入っていった。そしてかやの森への坂道をのぼると、ぽっかりと草地がひらけていて、そこに山ねこがあらわれた。
7そこへ、赤いズボンをはいたどんぐりが、いっぱい飛びだしてきた。どんぐりたちは、だれがいちばんえらいかをあらそっていて、山ねこに裁判してもらっていたのだ。頭がとがったのがいちばんえらいとか、丸いのがえらいとか、大きいのがえらいとか、口ぐちにいいはる。8もう三日も裁判をやってるのに、ちっともおさまらないのだった。
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