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どんぐりのせい比べくら 

 どんぐりは、どれも形や大きさがおなじようで、一つ一つのちがいはよくわからない。そこから、人間をくらべる時に、みんなおなじようでとくにすぐれたものがいないことをいう。
 このことわざは、平凡へいぼんなものばかりをくらべる時に使い、すぐれたものをくらべる時には使わない。クラスの成績せいせきで、上位じょういのものは力がそろっていて、だれが一か二かわからないような時には、「どんぐりのせい比べくら 」とはいわない。どうしてことわざに「どんぐり」がでてきたんだろう?
 それは、どんぐりがとてもありふれた木の実だからだ。どんぐりは、特定とくていの木の実じゃない。ブナ科ナラぞくの木になる実は、みんなどんぐりだ。つまり、カシ、クヌギ、コナラ、ミズナラ、カシワ、といった木になる実はぜんぶ「どんぐり」とよぶんだ。木の種類しゅるいはちがい、みきや葉の形などはちがっても、その木にできたどんぐりをくらべてみると、みんなているように見える。そこから、このことわざがうまれたと思われるよ。
 ところで、宮沢みやざわ賢治けんじという人が書いた童話に「どんぐりと山猫やまねこ」というのがある。作品のなかみは、このことわざとつながるところがあるよ。
 ――ある日、一郎いちろうのところに、おかしなはがきがきた。それは山ねこからのもので、あした、めんどうな裁判さいばんをするからきてくれ、と書いてあった。
 つぎの日、一郎いちろうは、谷川にそって、くりの木、たき、きのこ、りすなどに道を聞きながら、どんどん山の中に入っていった。そしてかやの森への坂道をのぼると、ぽっかりと草地がひらけていて、そこに山ねこがあらわれた。
 そこへ、赤いズボンをはいたどんぐりが、いっぱい飛びだしと   てきた。どんぐりたちは、だれがいちばんえらいかをあらそっていて、山ねこに裁判さいばんしてもらっていたのだ。頭がとがったのがいちばんえらいとか、丸いのがえらいとか、大きいのがえらいとか、口ぐちにいいはる。もう三日も裁判さいばんをやってるのに、ちっともおさまらないのだった。
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 その日も、みんな自分がいちばんえらいといい、わけがわからなくなってしまった。山ねこはどうしたらいいかをたずね、一郎いちろうはこたえた。
「この中で、いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなってないようなのがいちばんえらい、といったらどうでしょう。」
 山ねこは、そのとおりどんぐりたちに申しわたした。すると、どんぐりたちはしいんとして、だれもなにもいわなくなった。裁判さいばんはおわった。山ねこは大よろこびで、お礼に金のどんぐりを一しょうくれたのだった。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫)より
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