1「自然ってどんな色?」と聞かれたら、何と答えるだろう? たいていの人は、緑色と答えるにちがいないし、実際みんなそう思っている。だから「水と緑の町づくり」などという標語がそこらじゅうに掲げられているのである。
2目に入る「自然」が一望の砂である砂漠の国でも、水と緑はオアシスの象徴であり、人々はそこに安らぎを感じる。だから水と緑は、人間という動物にもともとしっかり結びついているものであるらしい。
3たぶんそういう理由からだろう、かつてはずいぶんこっけいなこともおこなわれていた。道路を作るので、草木の緑におおわれた丘に切り通しを作る。新しい道の両側は、赤茶けた土そのままの崖で、何ともうるおいがないし、荒れた感じがする。4それにいつ土が崩れてくるかもわからないから、がっちりとコンクリートでおおってしまう。そうなると、ますます味気ない。そこで、とにかく緑にしようということで、コンクリートを緑色に塗ったのである。
確かに少し遠くからは緑にみえる。5けれど、所詮はペンキで緑色に塗っただけである。人間の感覚はこんなことでは欺されないはずだ。
昔、モンシロチョウで実験してみたことがある。ケージの地面にいろいろな色の大きな紙を敷き、チョウがどの色の紙の上をよく飛ぶかを調べたのだ。6やはり緑色の紙の上を、もっとも好んで飛ぶようであった。なるほど、チョウは緑色であれば紙でもいいのだな、とぼくは思った。
けれどこれは、チョウチョにはたいへん失礼な思いちがいであった。7ほんものの草を植えた植木鉢をたくさん並べたら、チョウは緑色の紙など見向きもせず、ほんものの草の上ばかりを飛んだのである。
コンクリートを緑色に塗るのはその後まもなくやめになった。やはりほんものの草でなければ、ということは誰にでもすぐにわかっ
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