a 長文 1.1週 te
1「いってきまあす。」
私(わたし)は冬休みの間、毎日寝坊(ねぼう)していたので、学校が始まって朝起きるのがとてもつらい。八時に出てギリギリなので、七時四十五分に起きた今朝は、とてもあせった。 
 2毎朝、となりの棟(とう)の真衣(まい)ちゃんとマンションのエントランスで待ち合わせしているのだが、今日は約束(やくそく)の五十分には間に合うはずもない。大急ぎでしたくをして、家を出たら、八時を少し過ぎ(す )てしまった。 
 3ハアハア。小走りで学校に向かう。気がつくと、マフラー、手袋(てぶくろ)はおろか、なんとコートまで忘れ(わす )てしまった。今朝は特に(とく )冷え込む(ひ こ )朝だと言うのに。取りに戻る(もど )時間はない。炎(ほのお)を吐く(は )龍(りゅう)のように、口から息が白く出てくる。ハアハア、ハアハア。4ランドセルの中のペンケースがカタッカタッとリズミカルに踊る(おど )。私(わたし)の耳はキーンと冷え(ひ )て感覚(かんかく)がなくなっている。手の指もしびれたようになってきた。く、苦しい。私(わたし)は休まずに走り続け(つづ )た。周り(まわ )の景色(けしき)が後ろに飛ん(と )でいく。 
 5やっとの思いで昇降(しょうこう)口に入ると、その時、チャイムが鳴った。まだ安心はできない。これから三階までかけのぼらなければならないのだ。廊下(ろうか)や階段(かいだん)を走ってはいけないことはわかっているが、この際(さい)しかたがない。6と、全速力で行こうとした時、後ろから、
「山根さん、おはよう。」 
と、担任(たんにん)の中田先生に声をかけられた。あせった。しかし、先生といっしょに行けば遅刻(ちこく)はまぬがれる。私(わたし)は、先生と並ん(なら )で歩くかっこうになった。 
7「今朝は本当に寒いわねえ。あら、山根さん、上着も着ないでずいぶん薄着(うすぎ)ね。寒くなかったの?」 
「あ、は、はい。薄着(うすぎ)って言うか……。」 
「でもね、先生が小学生の頃(ころ)に比べ(くら )たら、今は冬もずいぶん暖かく(あたた  )なったわよ。」
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 8先生によると、昔は、冬になると朝は決まって霜柱(しもばしら)や氷が張り(は )、東京でも窓(まど)にはつららが見られたそうだ。手足の指は霜焼け(しもや )になって、ひび割れ(  わ )やあかぎれで皮膚(ひふ)がピリピリしたと言う。さらに、そんなに寒いのに男の子はみんな半ズボンでかけまわっていたらしい。9昔は、そんなに寒かったんだ。今の寒さなんてたいしたことないんだ。心の中でそう思うと、私(わたし)はコートも着ていないのに寒さを感じなくなっていた。そして、凍りつき(こお   )そうだった耳もほっぺたも、校舎(こうしゃ)の中のほっとするような暖か(あたた )さの中で、ほてり始め、溶け(と )出しそうだった。 
 0廊下(ろうか)や階段(かいだん)にいた生徒(せいと)は、みんな教室に吸い込ま(す こ )れ、三階に着いたときには、誰(だれ)もいなくなっていた。先生がふと、私(わたし)を見た。 
「そういえば、あなた今日は寝坊(ねぼう)? 遅刻(ちこく)じゃない?」 
それを最後(さいご)まで聞かないうちに、私(わたし)はぴょんと、扉(とびら)が半分開いていた教室に飛び込ん(と こ )だ。 
「セーフ!」 
そして先生に向かって、両手を大きく開いてみせたのだった。 

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 1.2週 te
 1カブトムシやクワガタの生活する雑木林(ぞうきばやし)では、ミヤマカミキリ、ノコギリカミキリなどの大型(おおがた)の種(しゅ)から、サビカミキリの仲間(なかま)の小さな種(しゅ)まで、さまざまなカミキリムシが生活しています。2細い枯れ枝(か えだ)の一部に小さな孔(あな)があいていたり、木のかじりくずがもりあがってでていれば、たいていは、カミキリムシがいるか、でたあとと見てよいでしょう。
 このような枯れ木(か き)は、樹皮(じゅひ)があっても中は完全(かんぜん)に食いあらされ、かんたんに折れ(お )てしまいます。3カミキリムシの幼虫(ようちゅう)は、樹(き)の皮の部分だけのこして、中を食べてトンネル状(じょう)にしてしまいます。その一部に白いイモムシが入っているので、ちょうど、鉄砲(てっぽう)の中に弾(たま)をこめたように見えるので、鉄砲虫(てっぽうむし)ともよばれます。
 4このような食べ方をしますから、ヒトがだいじに育てている樹木(じゅもく)についたとなると、やはり害虫(がいちゅう)にされてしまいます。たとえば、シロスジカミキリの幼虫(ようちゅう)はイチジクの樹(き)をよく食べます。子どもがイチジクの実をとりに樹(き)に登ると、枝(えだ)の中が、がらんどうで折れ(お )てしまうことがあり、やはり嫌わ(きら )れる資格(しかく)は、じゅうぶんにあります。
 5キボシカミキリ、クワカミキリ、トラフカミキリなどは、クワにつくので養蚕(ようさん)家は嫌い(きら )ます。クロカミキリ、マツノマダラカミキリはマツにつきますから、一時、マツの立ち枯れ(た が )の原因(げんいん)として大さわぎされました。6このような状態(じょうたい)は、森林の害虫(がいちゅう)とよばれてもしかたのない面もありますが、そうではない見方もできます。
 前に枯れ木(か き)に多いといいました。枯れ(か )た木が、そのまま林の中にごろごろしていると、後から新しい木の芽(き め)がでるのをじゃますることになります。7枯れ木(か き)はなるべく早く分解(ぶんかい)して、新しい木を生やしたほうが、森林にとってはぐあいのよいことです。枯れ木(か き)を食べる昆虫(こんちゅう)は、この枯れ木(か き)や倒木(とうぼく)の分解(ぶんかい)を早める働き(はたら )をします。ようするに森林の中のそうじ屋になるのです。
 8この点では、けっしてわるい虫ではありません。林の樹木(じゅもく)の
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若返り(わかがえ )、つまり森林の若(わか)さを保つ(たも )働き(はたら )をしています。同時に、この幼虫(ようちゅう)たち、あるいは成虫(せいちゅう)も、トリや小さなケモノの食べ物にもなりますから、森林の自然(しぜん)の一部としてのぞくことはできません。
 9マツの害虫(がいちゅう)と考えられているマツノマダラカミキリについても、おもしろいことがわかっています。たしかに、このカミキリムシの幼虫(ようちゅう)はマツの材(ざい)部を食べあらします。この点は害虫(がいちゅう)とよばれてもしかたのないことです。0ところが、生きている樹木(じゅもく)についた幼虫(ようちゅう)は、中心の材(ざい)部を食べても、樹皮(じゅひ)と材(ざい)部のあいだにある、水や養分(ようぶん)の通る管(かん)のあるところは、あまり食べないものです。
 というのは、ここを早く食べてしまうと、樹(き)が弱るのも早くなって、自分の食べ物をだめにしてしまう危険(きけん)性(せい)があるからです。ようするに、なるべく樹(き)自体は長生きさせながら、あまり植物の成長(せいちょう)に関係(かんけい)しない場所を食べているのです。ですから、マツの中でカミキリが少しばかり食べても、それほど急に、樹(き)がだめになることはありません。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満() 日本少年文庫より)
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a 長文 1.3週 te
 1いまから三十七年あまり前、ちょうど、第二次世界大戦(たいせん)が終わって、アメリカと日本のあいだで、物資(ぶっし)やヒトの移動(いどう)がさかんになりました。この時、アメリカから、小さな白いガが日本に侵入(しんにゅう)してきました。2おそらく、サナギが荷物の一部にくっついて日本に渡り(わた )、こちらで羽化したのでしょう。
 このガは日本の環境(かんきょう)にうまくあったのか、たちまちふえはじめました。これがアメリカシロヒトリです。そして幼虫(ようちゅう)は、街(まち)の中の樹(き)の葉を丸坊主(まるぼうず)にしていきました。3その後、日本の各地(かくち)で、この昆虫(こんちゅう)の大発生が見られるようになりましたが、やがてまた、あまり見られなくなりました。いまでは、時々、かぎられた地域(ちいき)で発生するのが、見られるていどになりました。
 4このガの幼虫(ようちゅう)は、ふ化すると最初(さいしょ)は網(あみ)を張り(は )何百匹(ぴき)もの小さなケムシが集団(しゅうだん)で網(あみ)の中で生活しながら葉を丸坊主(まるぼうず)にしていきます。サクラ、クワ、イチョウ、プラタナス、クヌギなど、なんでも食べ、このままふえると、日本中の樹(き)の葉を食べつくしてしまうのではないかと思えるほどの勢い(いきお )でした。
 5ところが、このケムシは、成長(せいちょう)すると網(あみ)の中から出て、単独(たんどく)で歩きまわり葉を食べるようになります。そしてじゅうぶん成長(せいちょう)した幼虫(ようちゅう)が、樹(き)の皮の下や、割れ目(わ め)の中などに入ってサナギになります。6そしてつぎの成虫(せいちゅう)が羽化しますが、この成虫(せいちゅう)は、あれほどたくさんいた幼虫(ようちゅう)ほどの数がいません。そしてつぎの幼虫(ようちゅう)は、そんなに多くはならないのです。
 バッタの大発生のようなことにはけっしてなりません。7また、このガは都会の中にはよく見られても、森林の害虫(がいちゅう)になって、山の樹(き)々を食べつくしたことは一度もありません。
 じつは、このガの幼虫(ようちゅう)が、網(あみ)から出て散らばっ(ち   )て活動をはじめると、スズメやそのほかのトリにほとんど食べられてしまうのです。8トリのほか、クモやカマキリ、アシナガバチなどにも食べられてしまいます。じっさいには、〇・五パーセントていどの生存(せいぞん)率(りつ)
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といわれますから、二百匹(ぴき)のうち一匹(ぴき)だけが生きのこることになります。
 9成虫(せいちゅう)は、八百から千個(こ)ほどの卵(たまご)を産み(う )ますから、一つの親からせいぜい四、五匹(ひき)の子どもが生きのこることになるのでしょう。これでもよくのこるほうで、じっさいにはもっと少なくなります。ですから、とても大発生を続ける(つづ  )ことにはならないのです。0まして、森林や山にはトリやほかの昆虫(こんちゅう)がたくさんいますから、みんな食べられてしまうので、森林の中まで侵入(しんにゅう)する力がないのです。都会で目立つのは、この幼虫(ようちゅう)を食べる、トリやクモが少ないことを意味しているのです。
 また、この幼虫(ようちゅう)は葉を食べるだけで、樹(き)そのものは害し(がい )ません。樹(き)は勢い(いきお )さえよければ、葉を食べられても、つぎの年の春には新しい芽(め)からまた葉をつけていきます。樹(き)の寿命(じゅみょう)が活発であるかぎり、葉が食べられても、それほど大きな被害(ひがい)にはならないのです。
 ある先生は、このガの生態(せいたい)を観察(かんさつ)しているうちに、それほど恐ろしい(おそ   )昆虫(こんちゅう)でないことがわかり、「アメリカシロヒトリなんて三流害虫(がいちゅう)さ」といいました。私(わたし)たちの目にいかにも大きな害(がい)をあたえそうに見える昆虫(こんちゅう)でも、自然(しぜん)界の中ではたいした存在(そんざい)ではないのです。
 このことから考えさせられることは、「トリやクモの住めないような世界こそ恐ろしい(おそ   )」ということです。アメリカシロヒトリは、そんなすき間をねらって葉を食べているのです。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満() 日本少年文庫より)
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a 長文 1.4週 te
 誰(だれ)だって失敗(しっぱい)なんかしたくない。 
 失敗(しっぱい)することははずかしいことだと思っている。だから、なるべくなら失敗(しっぱい)しないように、細心の注意をはらう。 (中略(ちゅうりゃく))
 失敗(しっぱい)することは、そんなに悪いことなんだろうか。そんなにはずかしいことなんだろうか。 
 私(わたし)のところにアルバイトにきてくれていた女の子は、とても優秀(ゆうしゅう)で、なにをしても完ぺき(かん  )に近い仕事ぶりだった。 
 そんな彼女(かのじょ)だから、たまには小さなミスでもして、注意されたりすると、さぁたいへん、全然(ぜんぜん)たいしたことでもないのに、ぽろぽろと涙(なみだ)を流し、その日は一日中落ちこんでいる。 
 これでは注意したほうもたまらない。「これ、まちがってるんじゃない?」と言い、「あっ、そうか。いっけなーい」ですんじゃう会話が、突然(とつぜん)泣き(な )だされ、あげくにしょんぼりされてしまってはなにも言えなくなってしまう。 
 実際(じっさい)、おこられることを極端(きょくたん)に恐れる(おそ  )人がいる。おこられると思っただけで心臓(しんぞう)がとまりそうになったり、じんわりと涙(なみだ)がうかんできたり……。必要(ひつよう)以上(いじょう)に反発する人もいる。そういう人たちは、心のどこかで、自分がおこられるようなことをするはずがない、おこられたりする自分はゆるせない、と思っているのではないだろうか。 
 私(わたし)が出版(しゅっぱん)社で働い(はたら )ていたころ、おこられない日は一日もなかった。 
 作業がおそいといってどなられ、センスがないといってののしられ、ミスでもしようものなら、「バカヤロー」と大きな雷(かみなり)が落ちた。 いちいち気にしていたり、落ちこんでいたりしたら、三日もつづかなかっただろうと思う。 
 もちろん、あまりおこられるので、自分はこの仕事にむいていないのではないかと、けっこう真剣(しんけん)に悩ん(なや )だこともあったけれど、なにより、それでもこの仕事が好き(す )、という気もちが優先(ゆうせん)した。 
 それなら、おこられるにしても、おなじことでおこられないようにしよう。そのための改善(かいぜん)策(さく)を考えるしかない。
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 作業がおそいのは、手順(てじゅん)が悪いせいではないか。センスが悪いといわれるのは、想像(そうぞう)力がかけているからではないか。ミスが多いのは、あせりながらとりかかっているせいではないか……。 
 おこられるポイントを、ひとつずつ整理して考えていくと、案外(あんがい)挽回(ばんかい)できるものだ。少しずつだけど、おこられる回数もへってくる。あげく、私(わたし)のことをどなりつづけた雷(かみなり)オヤジから、こう言われた。 
「おまえって、ほんとにおこりがいのあるやつだな。おまえみたいなのをおこるのは、楽しくってしかたがない」 
「どういうことですか!」 
 さすがにむっとなる。人の気も知らないで、楽しいとはなにごとか。 
「あのな。よーくおぼえておけよ。人はおこられなくなったら終わりだ。おこられることは自分をのばすチャンスなんだ。だから、おこられなくなったら、自分が見はなされたか期待されていないと思え」 
 彼(かれ)はそう答えた。それから、私(わたし)もだんだん年をかさねて、人に注意する立場になったとき、彼(かれ)が言ったことの意味がよくわかった。 
 こちらが注意して、すぐに泣い(な )たり、落ちこんだり、言いわけばかりする人のことは、もう二度と注意なんてしたくないと思う。 
 それより、多少優秀(ゆうしゅう)じゃなくっても、おこられたことを逆手(さかて)にとってがんばる人のほうに注目する。そしてそういう人のほうが、確実(かくじつ)にのびるのだ。 
 なぜ失敗(しっぱい)したのか。どうしておこられたのか。 
 その理由を考え、それじゃぁこうしてみようと思うからこそ、つぎにつながる。そうして成長(せいちょう)していくのではないだろうか。 

(倉橋(くらはし)耀子(ようこ)「くよくよしないで、笑っ(わら )ちゃえ!」)
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a 長文 2.1週 te
 1ぼくは、学校では体も大きいほうだし、声も大きいからちょっといばっています。ドラえもんに出てくるジャイアンみたいだと悪口を言う子もいるくらいです。今はもう、四年生だから、最近(さいきん)はあまりしないけれど、低(てい)学年のころはしょっちゅうケンカをして、友達(ともだち)を泣かせ(な  )ていました。2それに大きい兄さんがニ人もいるので、みんなよりいろいろな遊びや情報(じょうほう)も知っていて、そういう点でもクラスの中ではちょっとリーダー的(てき)な存在(そんざい)かもしれません。 
 しかし、うちでは「末っ子(すえ こ)の甘えん坊(あま  ぼう)」と言われています。3兄さんニ人は年が近いのですが、ぼくは下の兄さんより八歳(さい)も下なのです。だから、もう十歳(さい)を過ぎ(す )たのにときどき赤ちゃん扱い(あつか )されます。特に(とく )、お母さんは、 
「ひろちゃんはまだ小さいから。」 
と、口ぐせのように言います。4もうとっくに背(せ)はお母さんを追い越し(お こ )ているのにです。 
 先月の終わりごろ、真ん中の兄さんが、 
「ひろさあ、母さん病院だし、今年は節分(せつぶん)やらなくてもいいよな。」 
と、ぼそっと言いました。5お母さんは、年末(ねんまつ)に具合が悪くなって、緊急(きんきゅう)手術(しゅじゅつ)をし、今も入院しています。お医者さんから、病気の名前やどんな病気かを聞いたけれど、むずかしくてよくわかりませんでした。それより、病気になった理由が「働き(はたら )すぎ」だったのではないかと気になっています。6もともとあまり体がじょうぶではなかったのに、三人も男の子を生んで育てているので、とても大変(たいへん)だったのだと思います。いつも、お母さん、もっと休めばいいのになあと思っていたのに、あまり休めないから、無理(むり)がいったのだと思います。 
 7ぼくは心の中で、節分(せつぶん)をやらないと幸せな一年が過ごせ(す  )ないかもしれないと思い、少し心配になりましたが、 
「うん、そうだね。おれは学校でも豆まきあるからいいし。」 
と、強がって言いました。すると兄さんは、うなずいてバイクででかけてしまいました。
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 8それなのに三日の夜になって、突然(とつぜん)バタバタと兄さんたちが帰ってきて、ぼくにマスに入った豆をもたせると、 
「さあ、ひろ、かかってこい。」 
と言うのです。マジックで雑(ざつ)に描い(えが )た鬼(おに)のおめんをつけています。9ぼくは、大きな声で、 
「鬼(おに)は、外、福は、うち。」 
と、兄さん鬼(おに)に豆をぶつけました。鬼(おに)は外、お母さん帰ってきて。心の中でそう叫ぶ(さけ )と、涙(なみだ)がぽろりとこぼれそうになり、ぼくはあわてて目をこすりました。0

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 2.2週 te
 1バッタの害(がい)で有名なのは、日本より外国です。イナゴより一まわり大きいトビバッタの仲間(なかま)、日本ではダイミョウバッタとよんでいる大型(おおがた)のバッタが、時々大発生をします。
 アフリカ、インド、アメリカ、中国など、大陸(たいりく)で起きます。2『聖書(せいしょ)』の中にも、東風がバッタの大群(たいぐん)を運んできて、豊か(ゆた )な土地の植物を食べあらしていくことが書かれています。この大群(たいぐん)は、日本では想像(そうぞう)のできないような大きなものです。
 3たとえば、東アフリカで発生した群(むれ)は、先頭の群(むれ)のはばが一・六キロ、厚(あつ)さが三〇メートルになり、時速一〇キロのスピードで、群(むれ)が通り過ぎる(とお す  )のに九時間かかった、というような記録(きろく)があります。4また、南アルジェリアで発生した群(むれ)が、三〇〇〇キロ以上(いじょう)、風に乗って移動(いどう)し、イギリスまで到着(とうちゃく)したという記録(きろく)もあります。
 たいへんな数字で、もしこんなことが日本で起きたら、日本の農作物は、数日のうちに全滅(ぜんめつ)してしまうでしょう。
 5どうしてこんなことが起きるのか、だんだんわかってきました。このような大発生と大移動(いどう)をするバッタは、ダイミョウバッタの仲間(なかま)の、サバクバッタや、ロッキートビバッタなど、七種(しゅ)ほどのバッタですが、いずれも、一つの種(しゅ)が、移動(いどう)したり、しなかったりをくり返しているのです。
 6移動(いどう)しない時のバッタを単独(たんどく)相のバッタとよび、性質(せいしつ)はおとなしく、体は緑色が多くて、一匹(ぴき)一匹(ぴき)草を食べて生活しています。ところが移動(いどう)するバッタは、群集(ぐんしゅう)相のバッタとよばれ、性質(せいしつ)があらく、なんにでもかみつくようになり、群がっ(むら  )て生活し、体は黒っぽい色になって翅(はね)が長くなります。
 7どうして一つの種(しゅ)で、こんなちがいがでてくるかというと、まず第一は、ある地域(ちいき)で、よい条件(じょうけん)の下で生活しているバッタから出発すると考えられています。
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 条件(じょうけん)がよいというのは、気候(きこう)がよく、食べ物が豊富(ほうふ)にあることを意味します。8こんな土地では、生まれた個体(こたい)がよく育ち、成長(せいちょう)のとちゅうで死ぬ数が少ないので、だんだんと数がふえることになります。
 数がふえれば、その地域(ちいき)にいるバッタが、仲間(なかま)と出会う率(りつ)が高くなり、とうぜん、オスとメスの出会う率(りつ)も高く、たくさん、卵(たまご)を産む(う )ことになります。9そのうえ、おたがいが接触(せっしょく)することが刺激(しげき)になって、体の中でのホルモンの働き(はたら )が活発になり、卵(たまご)の発育が早く、単独(たんどく)相のバッタより短い期間で、産卵(さんらん)をはじめるようになります。
 気候(きこう)がよいから、つぎつぎに若い(わか )バッタが生まれ、数はどんどんふえることになります。0数がふえればだんだん食べ物が少なくなります。すると、我先(われさき)にと草を食べるようになり、競争(きょうそう)が激しく(はげ  )なります。性質(せいしつ)があらくなるのは、競争(きょうそう)に負けないようにするためでしょう。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満() 日本少年文庫より)
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a 長文 2.3週 te
 1カもハエと同じ、二枚(まい)翅(ばね)の昆虫(こんちゅう)です。これも新しい虫で、成虫(せいちゅう)が地上を飛びまわる(と    )のに、幼虫(ようちゅう)は水の中の生活です。だいたい、動物は、水中生活から陸上(りくじょう)へと移っ(うつ )てきたものです。昆虫(こんちゅう)も進化が進むほど、陸上(りくじょう)生活をするものになります。2その中で、もう一度、幼虫(ようちゅう)が水の生活にもどったことになりますから、カはよほど生活の場がなかったのでしょう。しかも、小さな体で短い一生ですから、ヒトの血を吸わ(す )ないかぎり、まったく目につかない昆虫(こんちゅう)ですんだはずです。
 3血を吸う(す )カはメスです。オスは血を吸わ(す )ず、樹(き)にたまった水を吸っ(す )たり熟し(じゅく )た果物(くだもの)の液(えき)を吸う(す )だけです。メスは卵(たまご)を発達(はったつ)させたり、卵(たまご)を産む(う )時、水の上に浮かべる(う   )卵(たまご)がばらばらにならないように、卵(たまご)をくっつけるために、動物の血液(けつえき)を利用(りよう)するのです。あの小さな体ですから、一匹(ひき)のカが吸う(す )血の量(りょう)はわずかです。
 4それでも刺さ(さ )れれば不快(ふかい)ですから、追いはらわれます。まして、ヒトからヒトへ血液(けつえき)を吸う(す )たびに、病原体を持っていたヒトのウイルス(日本脳炎(にほんのうえん)ウイルスとかマラリア原虫)などを媒介(ばいかい)するとなれば、それがコガタアカイエカやハマダラカにかぎられるといってもカ全体がわる者にされてしまいます。5じっさいには血を吸わ(す )ないカもいますし、ヒトとまったく関係(かんけい)のないカのほうが多いのです。ユスリカのように生物学の実験(じっけん)材料(ざいりょう)に使われるものさえいるのです。
 ところで、動物の血液(けつえき)は体の外にでると、すぐ固まっ(かた  )て、流れでるのをふせぐようになっています。6小さなカが口で刺し(さ )た時、血液(けつえき)が固まっ(かた  )てしまうと、口がつまってしまいます。そこで、カは、血液(けつえき)を溶かす(と  )物質(ぶっしつ)を持っていて、これを混ぜ(ま )て吸う(す )のです。カに刺さ(さ )れたあとがかゆいのは、この物質(ぶっしつ)がヒトの体の中にのこり、じゃまをするからです。
 7かゆいので、かけば、それだけ散らばり(ち   )ますから、よけいかゆ
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くなります。カの方はじゅうぶんに血を吸う(す )と、この液(えき)もださなくなり、飛び(と )さりますから、とちゅうでたたかずに血をわけてやったほうがかゆみは少ないのです。8それまでがまんできない場合のほうが多いのですが……。
 カを研究している人たちは、一日のうちに一回、カのカゴの中に腕(うで)を入れ、なん百匹(ひき)ものカに血を吸わ(す )せます。それでもヒトにはなにも起きません。9病気のもとがないかぎり、カは、けっして、こわい虫でもなんでもありません。恐ろしい(おそ   )のはよごれた環境(かんきょう)のほうでしょう。
 ところで、あの小さなカが飛ん(と )でいる時には、ブーンという耳ざわりな音がします。0夏の夜、寝(ね)ているところでは気になる羽音ですが、あれは仲間(なかま)に自分の場所を知らせる音です。メスがえさを求め(もと )て飛ぶ(と )羽音をたよりに、オスがやってきて交尾(こうび)します。同じような振動(しんどう)音の音叉(おんさ)をならすと、これにオスがいっぱい寄っ(よ )てきます。また、ヒトにかぎらず動物が呼吸(こきゅう)で排出(はいしゅつ)する炭酸(たんさん)ガスは、カをひきつけます。ドライアイスの煙(けむり)は炭酸(たんさん)ガスですから、これでカを集める方法(ほうほう)もあります。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満() 日本少年文庫より)
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a 長文 2.4週 te
「ゆたかみーつけっ。真理子みーつけっ」 
 ひろしがさけび、みんないっせいに走りだした。駐車(ちゅうしゃ)場をとびだすと空気がうす青く、もう夕方がはじまっている。わーっという歓声(かんせい)があがり、ひろしがカンをけって、今度はゆたかが鬼(おに)になる。 
 カポーン。あちこちへこんだあきカンが、まのぬけた音をたててもう一度けられ、鬼(おに)をのこしてみんなかけだした。時夫(ときお)は、T字路まで走って思い出したように立ちどまり、くるっとうしろをふりむいた。 
「やっぱり」 
 やっぱり、だった。青屋根のたてものの窓(まど)から、きょうもおばあさんが見ている。青屋根のたてものは、そこからへい一つへだてたキャベツ畑のむこうにあった。 
「オレ、ぬける」 
 ぽつんと言って、時夫(ときお)はへいによじのぼると、ひょいととびおりた。ほこっと土のにおいがする。 
「おい。どこ行くんだ。養老(ようろう)院だぞ」 
 背中(せなか)ごしにゆたかの声がした。その青屋根には、ボケてしまった老人(ろうじん)がたくさんいるので、子供(こども)たちはこわがってちかよらないのだ。若い(わか )女の人の血をすって生きているおばあさんがいるとか、子供(こども)の肉でつくったハンバーグが大好物(こうぶつ)のおじいさんがいるとか、いろんなうわさがあった。 
 この養老(ようろう)院では週に一度、老人(ろうじん)たちに看護婦(かんごふ)さんが何人かつきそって、散歩(さんぽ)に行くことになっていた。時夫(ときお)とおばあさんが出会ったのも、そんな散歩(さんぽ)の時だった。もう一ヵ月(かげつ)ほど前になるだろうか。川ぞいの道でお父さんとキャッチボールをしている時夫(ときお)を、おばあさんは土手からながめていた。 
「行くぞ、時夫(ときお)」 
 お父さんがそう言ったとき、やおら立ち上がったおばあさんはとつぜん、大きな声でこう言ったのだ。 
「あんた、トキオ、いうんか。わたしはトキ、いうんじゃよ」 
 びっくりするほどしっかりした足どりで、つかつかとちかづいてきたおばあさんは背(せ)がひくく、日にやけて、やせていた。
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「友達(ともだち)に、なってくれるかの」 
 おばあさんは破顔一笑(はがんいっしょう)、そう言った。 
 それから毎日、おばあさんは窓(まど)から時夫(ときお)を見つめていたのだ。あそびに来てほしいのかもしれない、時夫(ときお)は何度もそう思ったが、その勇気(ゆうき)はなかった。キャベツ畑のむこうの青屋根といえば、子供(こども)たちにとって、おばけ屋敷(やしき)もおんなじだったのだ。 
 けれども、もう決心した。時夫(ときお)はぐっと胸(むね)をはり、キャベツ畑のまん中の細い小道を、どんどん歩いていく。 
「もどってこいよ。鬼ばば(おに  )あがいるぞ。」 
「ハンバーグにされちゃうから」 
 みんなの声が、うしろからきこえていた。 
 小さな玄関(げんかん)を入り、病院のような待ち合い室をぬけると階段(かいだん)があり、窓(まど)を目印(めじるし)にいくと、おばあさんの部屋はすぐにわかった。色あせた畳(たたみ)の上に冷蔵庫(れいぞうこ)とテレビがおいてある。時夫(ときお)は帽子(ぼうし)をとっておじぎをした。 
「待っとったよ。これはルームメイトのゆりこさんに、げんさんに、ひさしさん。これは私(わたし)の友達(ともだち)のトキオ」 
 おばあさんはじゅんぐりに紹介(しょうかい)し、冷蔵庫(れいぞうこ)からジュースをだしてくれた。おばあさんが「ルームメイト」という言葉を使ったのが、なんとなくおかしくて、時夫(ときお)は心の中でくすっと笑い(わら )、緊張(きんちょう)が、するっとほどけた。 
「毎日毎日、カンけりしとったなあ」 
 おばあさんが言って、 
「トキさんはまた、それを毎日毎日、見とったなあ」 
 ひさしさんが言った。ひさしさんは白髪(しらが)頭を短く刈っ(か )た、色白のおじいさんだ。 
「見ていると、私(わたし)もいっしょに遊んでいるような気がしおってね」 
 おばあさんははずかしそうに笑う(わら )のだった。
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長文 2.4週 teのつづき
 ゆりこさんと呼ば(よ )れたおばあさんは長い髪(かみ)を左がわでおさげに編ん(あ )で、白い浴衣(ゆかた)を着ていた。部屋のすみの赤い座布団(ざぶとん)の上にすわって、一心にお手玉している。時夫(ときお)の視線(しせん)に気がつくと、しずかに、ふわっと笑っ(わら )た。小さな、白い、あどけない顔だった。 
「アイスクリームがあるからおあがり。あんたのために買うといたに」 
 おばあさんが言った。紙のカップに入ったバニラアイスはかちかちにかたまって、冷蔵庫(れいぞうこ)のにおいがついていた。ずいぶん前から買ってあったんだな。時夫(ときお)はそう思いながら、さっきから窓(まど)のそばでたばこをすっている、げんさんというおじいさんの横顔をちらりと見た。むっつりして、少しこわい横顔だった。 
「テレビ、みようか。そろそろ大乃()国がでるころだな」 
 ひさしさんが言った。 
「大乃()国? だめだめすもうは桝田(ますだ)山だよ」 
「おっ、しぶ好み(この )だな」 
 おすもう好き(す )のひさしさんと、やっぱりおすもう好き(す )の時夫(ときお)とはすっかり意気投合し、ハンバーグなんてうそばっかり、と、時夫(ときお)は心の中でつぶやいた。 

(江國(えくに)香織(かおり)「つめたいよるに」)
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a 長文 3.1週 te
1「今日のお代わりは、三班(ぱん)さあん。」 
 日直の声で、三班(ぱん)の五人はいっせいに立ち上がりました。今日は、フルーツヨーグルトサラダの日。給食(きゅうしょく)の中でもデザート系(けい)は特に(とく )人気です。2昨日(きのう)は私(わたし)のニ班(はん)がお代わり優先(ゆうせん)の日だったのですが、メニューは大好物(こうぶつ)のスパゲティ・ミートソースでした。肉じゃがや、カレー、エビチリ、ビビンバなどが出る日は、みんな大好き(だいす )なのでほかの班(はん)までお代わりがまわりません。3給食(きゅうしょく)は、ほとんど毎日おいしいです。魚が出る日はちょっとがっかりしますが、給食(きゅうしょく)の魚は食べやすいので残し(のこ )ません。 
 私(わたし)は、学校にあがる前は、とても食が細くて、体も小さかったのですが、給食(きゅうしょく)のおかげで大きくなったと母がいつも言います。4給食(きゅうしょく)がおいしいこともあるけれど、大勢(おおぜい)で食べるからたくさん食べられるのかなあと思います。うちでは、兄弟がいないし、お父さんは仕事で遅い(おそ )ので、たいがいお母さんと二人っきりのごはんなのです。 
 5昨日(きのう)、お母さんに小学生のころの給食(きゅうしょく)の話を聞いてみました。すると、
「お母さんもね、実は食が細かったのよ。今はぽっちゃりしているけど。子供(こども)のころは、おばあちゃんが、やせすぎをいつも心配していたの。6学校にあがっても、低(てい)学年のころは、少ししか給食(きゅうしょく)が食べられないし、時間はかかるしで、給食(きゅうしょく)がいやだったわ。」 
と、驚く(おどろ )ような話が飛び出し(と だ )ました。 
7「でもね、三年生の時の担任(たんにん)の先生が、農家の息子で、お米や野菜(やさい)ができるまでの話をいつも興味深く(きょうみぶか )聞かせてくれたのよ。そのせいか、クラスではいつもお代わりの競争(きょうそう)をしていて、それに巻き込ま(ま こ )れるようになったことで、いつの間にかすっかり食いしん坊(く   ぼう)になったのよねえ。」 
8「やっぱり、食べることが楽しいと思って食べると、体にしっか
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り取り込ま(と こ )れるのね。今は取り込み(と こ )過ぎ(す )て、困っ(こま )ちゃうけどね。」 
と笑い(わら )ました。私(わたし)は、それを聞いて、なるほどなあと心の中で思いました。9そして、前に担任(たんにん)の先生が、 
「興味(きょうみ)を持って、楽しみながら学んだことはしっかり身につくのです。」 
と言ったことを思い出して、何だか似(に)ているなと思いました。 
 今日の給食(きゅうしょく)も完(かん)食でした。きれいに空っぽになった食缶(かん)が満足(まんぞく)そうに配膳(はいぜん)台に並ん(なら )でいました。0

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 3.2週 te
 1化学繊維(せんい)が発達(はったつ)し、最近(さいきん)では、手間のかかる養蚕(ようさん)をする人が少なくなりました。けれど、カイコを飼っ(か )ているところを見たことがある人、あるいは自分で飼っ(か )たことがある人なら、だれでも知っていることですが、2平らな入れ物の中にクワの葉を入れ、そのままにしておいても逃げだし(に   )もせず、あちこち歩きまわりもせず、ただクワさえきらさなければ、かんたんに飼え(か )ます。
 3ほかの昆虫(こんちゅう)を飼う(か )時には、逃げ(に )ないようにカゴやふたのある入れ物に入れ、えさや水やと、けっこう苦労(くろう)するものです。カイコはその心配がありません。やがて完全(かんぜん)に成熟(せいじゅく)すると、入れ物のすみや、枯れ(か )たクワの葉のあいだに糸をはり、繭(まゆ)をつくります。4養蚕(ようさん)家が、この時に入れ物の上に繭(まゆ)をつくる格子(こうし)状(じょう)のワクを置い(お )てやると、ここにはい上がって、一匹(ぴき)が一つずつきれいに繭(まゆ)をつくります。卵(たまご)からふ化した幼虫(ようちゅう)が、繭(まゆ)になるまでだいたい一か月で、そのあいだに四回、脱皮(だっぴ)をして成長(せいちょう)し、繭(まゆ)の中でサナギになります。
 5養蚕(ようさん)業では、繭(まゆ)ができるとすぐに集め、大きさのそろったものを選ん(えら )で糸をとる工場に送ります。サナギが成虫(せいちゅう)のカイコガになるのは一週間ほどですから、ガにならないうちに糸をとりはじめます。6これは、繭(まゆ)を煮(に)ながら糸をやわらかくして、ほぐれた糸をまき取る方法(ほうほう)が一般(いっぱん)的(てき)です。これで、一つの繭(まゆ)から切れずにつながった糸がとれます。現在(げんざい)の大きな良い(よ )繭(まゆ)は、千五百メートルほどの糸になります。この糸をより合わせ、絹糸(きぬいと)にして布(ぬの)に織り(お )ます。
 7このように繭(まゆ)から一本のつながった糸をとるのですから、繭(まゆ)の中で羽化したガが、繭(まゆ)を破っ(やぶ )て外にでたのではなんにもなりません。ヒトが糸をとるためには、成虫(せいちゅう)になってはいけないので、どんなにたくさんカイコが飼わ(か )れても、すべて殺さ(ころ )れてしまうことになります。
 8つぎの卵(たまご)を産ま(う )せる分は、別に(べつ )何匹(びき)かのこしておけば、この
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ガ一匹(ぴき)で千個(こ)近い卵(たまご)を産み(う )ますからいっこうにさしつかえありません。幼虫(ようちゅう)の生活も、子孫(しそん)をつくることも、すべてヒトの計画どおりになっています。
 9そのうえ、羽化したガは翅()を持っていますが、飛ぶ(と )ことはできません。この翅()のはばたきはもともと飛ん(と )でいたころのはばたきと同じですから、いつごろからか飛べ(と )ないガになってしまったのです。これも、たぶん、飼育(しいく)化の結果(けっか)でしょう。0すべての点が、ヒトが飼い(か )やすい、すなわち管理(かんり)しやすいようになっているのです。
 こんな野生の昆虫(こんちゅう)が、はじめからいるわけがありません。その証拠(しょうこ)に、今日ではカイコの祖先(そせん)型(がた)と考えられている野生のカイコ、これはクワの樹(き)につくのでクワコとよばれますが、これは、成虫(せいちゅう)は立派(りっぱ)に飛び(と )ますし、幼虫(ようちゅう)は群がる(むら  )こともなく、一匹(ぴき)ずつかくれるように生活しています。飼育(しいく)もむずかしく、とてもカイコのようには飼え(か )ませんし、注意しないとすぐ逃げだし(に   )てしまいます。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満() 日本少年文庫より)
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a 長文 3.3週 te
 1ヒトとイエバエの対比(たいひ)を少し進めてみると、大きさはいうまでもないでしょう。寿命(じゅみょう)はヒトを、平均(へいきん)六十五年とすれば、イエバエはわずか二週間です。このあいだで卵(たまご)・幼虫(ようちゅう)・サナギ・成虫(せいちゅう)が終わってしまいます。
 2子どもは、今日の日本人の平均(へいきん)的(てき)子どもの数は、二・二人すなわち、二人か三人、ハエは二百〜三百の卵(たまご)を産み(う )ます。この寿命(じゅみょう)と子どもの数で考えると、イエバエは一年間に、ものすごい数にふえることになります。3ある計算では、一対のハエの子孫(しそん)が、半年で億(おく)の百倍以上(いじょう)の数になるといわれます。
 もちろん、ハエはこんなにはふえません。死んでしまう子どもが多いからです。ただし、この死んだ子どもは卵(たまご)であれ幼虫(ようちゅう)であれ、必ず(かなら )ほかの動物か植物の役に立っています。4その点ヒトでは、ほかの生き物にとって何の役にも立たない子どもが、生き続け(つづ )ていることになります。
 ハエが、短い期間で大量(たいりょう)の卵(たまご)を産む(う )ことには、大きな意味があります。それは、遺伝(いでん)にかかわる問題が、短いあいだで効果(こうか)的(てき)にかたづくことです。5ある薬品に対して、抵抗(ていこう)性(せい)のある個体(こたい)がいたとしましょう。ほかの個体(こたい)には抵抗(ていこう)性(せい)がないと、薬品にであった場合、死んでしまうでしょう。
 ところが、抵抗(ていこう)性(せい)をもっている個体(こたい)は生きのこります。6これが子孫(しそん)をのこしていくと、子どもたちはみな、抵抗(ていこう)性(せい)を持つものになります。しかも一生が短いから、この間に抵抗(ていこう)性(せい)のないものが死に絶え(し た )、抵抗(ていこう)性(せい)のあるものが生きのこり、ハエの群(むれ)がすべて、抵抗(ていこう)性(せい)のある個体(こたい)に入れかわる結果(けっか)になります。7このように短期間で、仲間(なかま)の性質(せいしつ)をすべて変え(か )てしまうことができます。
 ヒトの場合は、一生が長く、生まれる子どもの数も少ないので、特別(とくべつ)な性質(せいしつ)を、グループ全体に入れかえてしまうには、ひじょうに長い、おそらく何万年という時間がかかるでしょう。
 8また、ハエとヒトの運動性(せい)をくらべるとどうでしょうか。もち
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ろん、ヒトはハエのように飛べ(と )ません。その意味ではヒトの運動の範囲(はんい)は、ハエよりもせまいでしょう。
 ところで、ハエのすばらしさはスピードの調節(ちょうせつ)のみごとさです。9そうとうな速さで飛ん(と )できたハエは、そのまま速さを変え(か )ずに、ぴたりと壁(かべ)にとまります。もし、これをヒトにあてはめると、百メートル、全力疾走(しっそう)してきたヒトが、壁(かべ)の前で速度をゆるめず、ぴたりと止まることになるでしょう。
 0ヒトには、とてもこんなことはできません。百メートルのゴールは、そこで終わりではなく、走りぬける先があるから、全力で走ってこられるのです。ヒトはスピードを加える(くわ  )にも、おとすにも、助走が必要(ひつよう)です。これは運動の上からいえばむだな部分です。
 ハエは、助走も加速(かそく)もせず、ある場所に自由にとまり、自由に飛びだす(と   )ことができます。こんな動き方は、ヒトが考えだしたどんな飛行機(ひこうき)でも、ヘリコプターでも、やることができません。むだな運動をしないことは、活動のエネルギーをたいせつにしていることになります。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満() 日本少年文庫より一部直す)
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a 長文 3.4週 te
 美しい景色(けしき)をみて思わず、「きれいね」と口にでて、たのしい思いになる、それでもう十分とも思いますが、そのたのしい思いにさせてくれるものの姿(すがた)を、たしかめてみましょう。
 美しいものと、美しくないものと、わたくしはいま自分の部屋を見まわして、よりわけてみました。
 机(つくえ)の上のペン皿にあるえんぴつ、何本かのえんぴつの中で美しく目にうつるのは、けずりたてのえんぴつです。シンがまるくなったり、折れ(お )たままのは美しいとは思えません。
 お皿に盛っ(も )たバナナは、あざやかな黄の色をしていて美しい。でも実をたべてしまった皮は、皮になった瞬間(しゅんかん)に、もう美しいとは思えませんし、色もまたたちまち黒ずんできたなくなってしまいます。
 けずりたてのえんぴつが美しく目にうつるのは、「どうぞ、いつでもすぐに使えますよ。」と、すぐに役にたつ姿(すがた)を見せてくれているからでしょう。
 バナナの皮も、中に実をつつんでいるという、使命をもっているときは美しいのですが、その使命が終わって皮だけになった瞬間(しゅんかん)に美しくなくなります。
 こうしたことを思うと、人に心よい感動をあたえる美しさとは、そのものが役にたつという姿(すがた)を見せているところにあるのではないかと思われます。
 花が美しい、木々が美しいというのは、その命の美しさを感じるところにあります。命とは活動することであって、つまり、役目をはたしている姿(すがた)です。花も木も、せいいっぱいに生き、そして自分たちの子孫(しそん)を永続(えいぞく)させるために、花を咲かせ(さ  )、実をならし、その命を充実(じゅうじつ)させて、活動しているのです。
 わたくしたちは働く(はたら )人を美しいと見ます。どんなにどろんこでも、汗みどろ(あせ   )でも、働く(はたら )姿(すがた)は美しい。どろんこも、汗(あせ)も、働く(はたら )姿(すがた)の美しさを引きたてます。これは、働く(はたら )という行為(こうい)が、活動そのものであり、役だつ使命をはたすことであり、汗(あせ)もどろんこもまた、そのためにあるからです。
 でも、働く(はたら )ことをやめて、食卓(しょくたく)にむかったときの、汗みどろ(あせ   )、
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どろんこは、きたない、もう美しくは目にうつりません。このときの、どろんこや汗(あせ)は、労働(ろうどう)という中味をとってしまったあとの残りもの(のこ   )、バナナの皮みたいな存在(そんざい)になってしまったからでしょう。食事をするという行為(こうい)に、どろんこは不要(ふよう)です。そこで、きれいにさっぱりと洗い(あら )おとさなければなりません。
 ですから、同じものでも、そのものが、そのものとして役にたたない場所にあるときは、美しく目にうつりません。
 髪の毛(かみ け)は、髪(かみ)にあるから美しい。ぬけおちた髪の毛(かみ け)が、食物の中にでもはいっていたら、とてもゆううつです。
 ショーウィンドーの商品がみな美しく見えるのは、「このとおり、役にたちますよ」と、マネキンに着せてみせたりして、たのしく、わかりやすく飾ら(かざ )れてあるからでしょう。
 わたくしたちのおしゃれや、動作、マナーなども、その場にふさわしく、役にたつかたちであるとき、美しく見えるのです。
 急ぐときは、きびきびした動作が美しく、人にものをたずねるときは、その人に教わるという気持ちをあらわすのに必要(ひつよう)な謙虚(けんきょ)な動作、教えるときは相手によくわかるようにする動作が、気持ちよく美しくうつります。
 ここでひとこと、気づいたことをいいそえますと、必要(ひつよう)と実用とは少しちがいます。
 たとえば道を教わるとき、わたくしたちは、「すみませんが」ということばをそえますが、実用という面からいうと、このことばはなくてもよいわけです。「東京駅はどっちですか?」といえば、用はたせます。でも、それではぶっきらぼうです。「すみませんが」といいそえることで、心のあたたかみが伝わり(つた  )ます。「どうぞお茶をお飲みください」のときの「どうぞ」も同じで、こうしたやさしさがあって、ことばも、動作も美しくなります。
 「必要(ひつよう)」と「実用」とを、どうぞ、まちがえないでください。
 わたくしたちが生きてゆく上では、実用的(てき)な衣(い)・食・住のほかに、遊ぶことも、たのしむことも、安らぐことも必要(ひつよう)です。そうした精神(せいしん)的(てき)に必要(ひつよう)なものとして、やさしさや美がつくりだされています。
(高田敏子(としこ)「詩の世界」)
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