a 長文 1.2週 te2
「つぎは、あかばね(赤羽)!」
 ヤッちゃんたちのうちは、あかばねにありましたから、竹ざお電車は、そこでストップです。あかばねのえきまえは、ヤッちゃんもよくしっています。
 ところが、あれっ? ……ぜんぜん見たことのないところにきていました。
 竹ざお電車はおばあちゃんのうちへむかって、ものすごいスピードで走りました。右へいったり、左へいったり、ぐるぐる走りまわりましたが、どうしても、おばあちゃんのうちへかえれません。ふたりとも、あせびっしょりでした。二十分も三十分も走りました。のどが、カラカラで、足もだるく、竹ざお電車は走ることができません。のろりのろりあるいていきました。
「にいちゃん、はやく、おばあちゃんのうちへかえろうよ。」
 しゃしょうさんのチイちゃんは、なんにも気がついていないようですが、うんてん手のヤッちゃんは、さっき、あかばねについたときから、これはたいへんなことになった、電車はまいごになったらしいとわかっていました。ですから、かなしくて、おそろしくて、くちびるをへの字にまげて、もうすこしでなきそうになるのをじっとがまんしていたのです。
「どうしたの?」
 竹ざお電車が、ぼんやりつったっていると、道ばたであそんでいた女の子が、よってきました。ヤッちゃんよりも小さい子でした。
「あんたたち、まいごなのね。」
 そういわれたとたん、ヤッちゃんは、パッとかけだしました。もうすこしでなきそうだったので、そんな小さい女の子とはなしをしたくなかったのです。走りながら、オックン、オックン、なきじゃくりました。
(もう、おばあちゃんのうちへはかえれないかもしれない。おかあさんにもあえなくなってしまうかもしれない。)
 そうおもうと、なみだがあふれてきて、ワァーンとなきだしてしまいました。
「おにいちゃん、なかないでよう。」
 しゃしょうさんは、ないていません。
「おにいちゃん、さがせば、きっと見つかるよ、おばあちゃんのうち。ね、だから、なかないでよう。」
 小さいのに、なんて、しっかりしたしゃしょうさんでしょう。
 ヤッちゃんがないているので、おまわりさんは、チイちゃんに、いろいろはなしをきいていましたが、さっぱりけんとうがつかないようすでした。
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「あのね、電車にのって走ったの。にっぽり(日暮里)のつぎは、たばた(田端)なの。あかばねでおりて、ここへきたの。これから、かんのんさまへいって、みつまめたべるの……。」
 十分くらいたったでしょうか、交番へ、おかあさんとおばあちゃんがかけこんできました。
 これで、まいごになった電車はぶじにうちへかえれたのですが、かえるとちゅうも、ヤッちゃんはなきつづけていました。
 なにがかなしくてないていたのでしょう?

『はずかしかったものがたり』「まいごになった電車」(前川康男やすお)より
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