1やれやれ、と、ほっとした母は一どにつかれがでたのでしょう。その日は朝から、おきてきませんでした。
「きょう一日、休ましてもらうべえ。あしたっからは、また正月のしたくにかからねえばなんねえから――。」
と、いいわけでもするように、ふとんの中でいっていました。
2父とあには、どこかへでかけていたのでしょうか。家には、母とわたしのふたりだけしかいませんでした。
ひるちかくになったら、ねどこの中から、母がわたしをよびました。
「あついにこみうどんがくいてえが、ひろにできべえかなあ。」
やってみてくれやい、というようにいったのです。
3「ああ、おらが、うんまくつくってやるよ。」
わたしは、はずんでこたえました。
いままででも、手つだいなら、よくしていました。それでも、じぶんだけでなにかをつくってみたことは、まだ一どもありません。4わたしは、きゅうにおねえさんにでもなれたような気がして、うれしくなっていました。
戸だなの中には、母がゆうべつくった、うどんの玉がいくつかのこっていました。おつゆをこしらえて、にるだけでいいわけです。
5「かつぶしをかくのは、あぶねえから、けずりぶしでいいぜ。たんといれてなあ、うんまくつくってくれやい。」
母は、ねたままでさしずをしました。
「だまっていてもいいよ。つくりかた、しってるもん。」
わたしは、おしえてもらいたくなかったのです。6じぶんだけでやって、「できたよー」と、いってみたかったからです。
いちばん小さいなべに、水をいれると、じざいかぎにかけて、いろりの火をかきたてました。
だしはうまくとれたのです。いよいよあじつけです。7ながしだいの下に、ぶどうしゅのあきびんにつめたおしょうゆが、三本ならんでいました。いちばんてまえのレッテルのあたらしいびんが、つかいかけのようです。それをもってきて、おたまに一つだけ、いれてみました。
8そして、小ざらにとって、あじをみました。まだまだ、うすくてちっともきいていません。
こんどは、二ついれました。からくしすぎたかな――。しんぱいしながら、またあじをみました。まだ、だめです。
おかしいなあ……。9でも、おたまの中へでてくるいろは、たしかに、おしょうゆです。
ことしは、できがわるかったのかなあー。そうおもいながら、またおしょうゆをたしました。それから、あじをみました。
|