1日本を訪れる外国人にとっては、日本の家が、襖や障子で仕切られていて、ひろい部屋がいつでも多くのせまい部屋になってしまうことや、畳が部屋いっぱいに敷きつめられていること、西洋の家のようにテーブルや椅子など、家具がたくさん置いてないことなどがめずらしくてたまらないようです。
2このような住居のくふうは、寝殿造りの形をもとにして、鎌倉時代から室町時代にかけて、できあがったものです。夏の蒸し暑さをさけて、涼しい風を取り入れるためには、それがいちばんつごうがよいのです。
3いまでは、西洋ふうのアパートに住む人も多くなりましたが、せまい部屋で、まわりは壁にかこまれ、窓があいているだけでは、夏は、扇風機や冷房装置がなければ、とても暑苦しくてたまらないでしょう。4日本ふうの家では、夏は襖や障子をあけはなして、涼しい風をいっぱい入れることができるのです。わたしたち日本人は、こうした家の中の生活になれていますが、日本人がとかくあけっぱなしの生活をあたりまえのことと考えているのは、ひとつにはそのためだと言うことができます。
5わたしたちは、自分ひとりになるということがほとんどありません。部屋の中にいても、襖をあけてだれかがはいって来ます。話をしていても、障子の向こうでだれかが聞いているかもしれません。6日本式の家では、西洋ふうの家と違って部屋にかぎをかけて閉じこもるということができないのです。それぞれの部屋が独立していてかぎがなければあけられない。かぎさえかけてしまえば完全に自分だけ、自分たちだけになれる。7また、外出するときも、かぎさえかけておけば、るすに、ほかの人にじゃまをされない。かぎの生活というものは、実に便利なものです。便利であるばかりでなく、自分をみつめる、自分を反省する、もっとひろく、そしてむずかしく言えば、個人主義の考えを養う上にたいそう役立つのです。8「日本では、自分ひとりになれる場所は、トイレの中だけだ」と言った人もいますが、たしかにそのとおりです。
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