a 長文 10.1週 tu
1「ああっ。」
私(わたし)は、目を疑い(うたが )ました。石井(いしい)君の指は、小さな赤べこをつまんでいました。赤べことは、福島県の郷土(きょうど)玩具(がんぐ)で、「赤いべこ」つまり、赤い体をした、牛のことです。首が振り子(ふ こ)のようにゆらゆらゆれる、とてもユーモラスな格好(かっこう)の牛です。2私(わたし)の赤べこは、キーホルダーになっています。それをランドセルに下げていました。石井(いしい)君はふざけて触っ(さわ )て遊んでいたのですが、何かの拍子(ひょうし)にはずれてしまったようです。いっしょにいたさやかちゃんが、あわててつけ直してくれようとしました。3しかし、赤べこの背中(せなか)についていた輪っか(わ  )が折れ(お )ていて、もうチェーンとつなげることができなくなっていました。石井(いしい)君は、いつものいたずらぼうずの顔から、びっくりした顔になって、
「ごめん。取れちゃった。」
と言いました。
 4この赤べこは、私(わたし)が一年生のとき、福島のおばあちゃんが送ってくれたものです。私(わたし)の赤いランドセルにぴったりだったので、一年生のときからずっと、お守り代わりにつけています。私(わたし)の大事な大事な宝物(たからもの)です。
 5でも、私(わたし)は、石井(いしい)君がわざと壊し(こわ )たわけではないと知っていました。私(わたし)は、なるべく明るい言い方で、
「あ、いいよ。これ、たぶんもう古くなっていたんだ。」
と言いました。石井(いしい)君は、少しほっとした顔になりましたが、もう一度、
「でも、ぼくがひっぱったから……。」
と、小さく言いかけました。6私(わたし)は、
「いいの、いいの。気にしない。そういう運命だったんだから。」
と、元気に言って、赤べこを手に取りました。
 壊れ(こわ )た赤べこに目をやると、赤べこは、のんびりした顔で、手のひらに横たわっています。7じっと見ていると、不思議(ふしぎ)なことに赤べこが少し笑っ(わら )たような気がしました。
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「まあまあ、そんなにしんべ(心配( ))しねえで。」
そんな牛の言葉まで聞こえた気がして、ふと顔を上げると、石井(いしい)君もじっと赤べこを見つめています。私(わたし)たちは、顔を見合わせて、思わずくすっと笑い(わら )ました。
 8その日、私(わたし)は家に帰ってから、お母さんに、壊れ(こわ )てしまった赤べこを見せました。お母さんは少し驚い(おどろ )た顔をしましたが、事情(じじょう)を聞くとすぐに納得(なっとく)してくれました。そして、赤べこを見ながら、
「石井(いしい)君、気にしていないといいね。」
と言いました。9私(わたし)は、牛の声を聞いたんだから大丈夫(だいじょうぶ)、と心の中で思いました。
 お父さんが帰ってきたら、たぶんうまく直してくれるでしょう。今度、福島のおばあちゃんの家に行くときに、元気になった赤べこを一緒(いっしょ)に連れ(つ )ていくつもりです。0

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 10.2週 tu
 宮崎(みやざき)県(けん)にある幸島(こうじま)は小さな無人島(むじんとう)です。この島(しま)には百匹(ぴき)余り(あま )の猿(さる)が生息(せいそく)しています。ある日のこと、イネという名の若い(わか )メス猿(ざる)が川の水でイモを洗っ(あら )て食べ(た )ました。すると、ほかの猿(さる)たちも次々(つぎつぎ)とイモを洗っ(あら )て食べる(た  )ようになりました。これまでは、砂(すな)などのよごれのついたイモをそのまま食べ(た )ていた猿(さる)たちは、「イネのまねをして食べる(た  )とおいしいね。」と思っ(おも )たことでしょう。しばらくして、イネは、川の水ではなく海(うみ)の水でイモを洗う(あら )ことを思いつき(おも   )ます。海(うみ)の水で洗う(あら )と、塩味(しおあじ)がついてもっとおいしくなるのです。それを見ていたほかの猿(さる)たちも、イモを海水(かいすい)で洗う(あら )のはいいものだと、イネと同じ(おな )ように海水(かいすい)でイモを洗う(あら )ようになりました。 
 幸島(こうじま)の猿(さる)たちがみなイモを洗っ(あら )て食べる(た  )ようになると、不思議(ふしぎ)なことに、大分(おおいた)県(けん)高崎山(たかさきやま)の猿(さる)たちもイモを洗い(あら )始め(はじ )ました。高崎山(たかさきやま)の猿(さる)ばかりではありません。遠く(とお )離れ(はな )た他(た)の土地(とち)や島(しま)にすむ猿(さる)たちもイモを洗っ(あら )て食べる(た  )ようになったのです。もちろん、これらの猿(さる)たちは、幸島(こうじま)の猿(さる)たちがイモを洗う(あら )ところを実際(じっさい)に見たわけではありません。しかし、いろいろな場所(ばしょ)にすむ猿(さる)たちが申し合わせ(もう あ  )たかのようにイモを洗い(あら )始め(はじ )たのです。これは、イモを洗う(あら )猿(さる)が一定(いってい)の数(かず)に達する(たっ  )と、その行動(こうどう)が距離(きょり)をこえて、ほかの集団(しゅうだん)にも伝染(でんせん)したためではないかと言わ(い )れています。
 これと似(に)た現象(げんしょう)は、人間(にんげん)社会(しゃかい)にもあります。何(なに)か新しい(あたら  )発明(はつめい)をした人がいると、ちょうど同じ(おな )ころ世界(せかい)のほかの場所(ばしょ)でも同じ(おな )発明(はつめい)をしている人がいたということがよくあります。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(かい)(Λ)
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a 長文 10.3週 tu
 1みなさんは江戸(えど)時代の大名(だいみょう)が、「加賀(かが)百万石(ごく)の大名(だいみょう)」とか、「尾張(おわり)六十万石(ごく)の大名(だいみょう)」といったよびかたで、よばれているのをきいたことがあるでしょう。石高(こくだか)はその国のゆたかさ、大きさをあらわしたいいかたです。2加賀(かが)の国は百万石(ごく)ものお米がとれる大国です。それほどのゆたかな国を領地(りょうち)に持つ大名(だいみょう)、という意味です。
 ちなみに一石(いっこく)とは、約(やく)百八十リットルを意味します。それはひとりが一年間に食べる、お米の量(りょう)にあたります。
 3武士(ぶし)や足軽の給料(きゅうりょう)も、「五人扶持(ぶち)」「十人扶持(ぶち)」というように、お米で計算されました。五人扶持(ぶち)とは、五人のけらいがやしなえるだけのお米です。ひとり一日五合として計算されました。
 4昭和になって戦争(せんそう)中、日本には食糧(しょくりょう)がなくなり、お米は配給(はいきゅう)制(せい)になりました。生産(せいさん)者も消費(しょうひ)者も、かってに売ったり買ったりすることは禁じ(きん )られ、生産(せいさん)されたお米はすべて政府(せいふ)がいちど買いあげ、消費(しょうひ)者は決められた量(りょう)だけを、そこから買うようになっていました。
 5その、お米を買うための通帳は、長いあいだ、身分証明(しょうめい)書のかわりでもありました。
 お米とはそれほどに、国民(こくみん)の生きるための基本(きほん)だったのです。人々のくらしや社会のありかたが、お米を基本(きほん)とすることで成り立っ(な た )てきた国。6そんな時代が、ついさいきんまで、ずっとつづいてきた国。そのような国も世界には、ほかにありません。
 もうひとつ、たいせつなことがあります。お米はわたしたちの気づかぬところで、いつもわたしたちといっしょです。
 7水道のじゃぐちをひねるとき、あなたはその水がどこからくるか考えてみたことがありますか。川から、ダムから、と答えた人は、ダムにたまるそのおおもとの川の水を、考えてみてください。
 8日本は山がけわしく、急斜面(きゅうしゃめん)の国です。「日本の川は、滝(たき)のようだ。」と、いわれるくらいです。雨がふっても水はいちどきに海へすてられ、あとはたちまちかわいてしまう、あばれ川なのです。それなのに、一か月も二か月も晴れた日がつづいていても、水がな
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がれているのはなぜでしょう。
 9雨をしっかりと受けとめて、大地につなぎとめている、森林や水田があるからです。
 ふった雨が森林や水田の土にしみこみ、ゆっくりゆっくり地下を移動(いどう)し、何年も何十年も、ときには何百年もかけて、やがて地表にわき出てきます。0そのわき水のあつまりが、ふだんながれている川の水なのです。
「森林は緑のダムだ。」
と、よくいわれます。おなじように水田も、ダムなのです。
 田植えどき、水をはった段々畑(だんだんばたけ)を見てください。
「なるほど小さなダムたちが、山の斜面(しゃめん)にはりついているなあ。」
と、あなたもきっと、感心するでしょう。
 水田にたたえられたその水は、地下にしみこみ地下水になり、やがて下流にながれ出て川に水を提供(ていきょう)してくれます。

 (富山(とみやま)和子著(ちょ)「お米は生きている」より)
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a 長文 10.4週 tu
 身近な自然(しぜん)はありふれているだけに、失っ(うしな )てからでないとたいせつさに気づかないという矛盾(むじゅん)をかかえています。それだけでなく、高度成長(せいちょう)の時代には、住民(じゅうみん)自らが望ん(のぞ )で遠ざけたのです。
 親しみやすい等身大の自然(しぜん)も、油断(ゆだん)すると大敵(たいてき)に変身(へんしん)します。裸足(はだし)で小川に入ると、ガラスの破片(はへん)やとがった岩で足を切るし、まれにはおぼれて命をとられることもあります。淀川(よどがわ)などすこし大きくなると、不思議(ふしぎ)にもあきらめが先に立ちます。しかし等身大の小川やため池になると、くやしさがまさり、だれかに怒り(いか )をぶつけたくなり、裁判(さいばん)に訴える(うった  )ケースが増え(ふ )てきました。
 民主(みんしゅ)主義(しゅぎ)がみんなのものになり、泣き寝入り(な ねい )しないで行政(ぎょうせい)の責任(せきにん)を問う市民(しみん)が増え(ふ )たこと、裁判所(さいばんしょ)が行政(ぎょうせい)責任(せきにん)をきびしく問い、住民(じゅうみん)が勝訴(しょうそ)するばあいがあったことは評価(ひょうか)できます。しかし地域(ちいき)住民(じゅうみん)が参加(さんか)しないで、後の対策(たいさく)を行政(ぎょうせい)だけに負わせる結果(けっか)になったことは、いまから考えると大きな矛盾(むじゅん)を生みだしていたのです。
 淀川(よどがわ)など大きな川にはない金網(かなあみ)が、小さな川に張ら(は )れてしまいました。落ちたりけがをすることは確か(たし )に少なくなりましたが、反面で身近な自然(しぜん)を生活の場から遠ざけることになってしまいました。子どもの遊び場でなくなると、とうぜん関心(かんしん)がうすれます。自転車や単車(たんしゃ)が捨て(す )られていても長いあいだそのままになっていますし、雑草(ざっそう)も年一回刈り取ら(か と )れるくらいなので景観(けいかん)もよくありません。家庭排水(はいすい)の捨て(す )場になり、汚れ(よご )てくると埋(うめ)立てて道路にしたほうがいいということになり、小さな川が街(まち)のなかから消えていきました。
 思わぬところで矛盾(むじゅん)が頭をもたげます。十年ほど前、子供(こども)会で遠足に行ったとき、就学(しゅうがく)前の女の子がなにかにつまずいて倒れ(たお )ました。手が出ず顔をまともに地面にぶつけたのです。本能(ほんのう)で手が出るのではなく、戸外で遊びながら身につける運動能力(のうりょく)の一つだった
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のです。最近(さいきん)は小学生にもいるとの報道(ほうどう)がありました。
 ある衛星(えいせい)都市の保育(ほいく)所では、すこし手足にけがをすると、もうれつに怒る(おこ )お母さんがいるそうです。理屈(りくつ)上はけがをさせたことになるので、責任(せきにん)を問われると対応(たいおう)せざるをえません。朝来園したとき、家でついた傷(きず)か否(いな)かのチェックをしなければならなくなったそうです。家庭での生活能力(のうりょく)がおとろえるにしたがって増え(ふ )てきた遅刻(ちこく)指導(しどう)がエスカレートして、生徒(せいと)を殺し(ころ )てしまった状況(じょうきょう)と似(に)ています。「すみません」ですまない世界がどんどんひろがりつつあるようです。

(森住明弘(あきひろ)「環境(かんきょう)とつきあう50話」)
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a 長文 11.1週 tu
1「ごはんですよ。」
キッチンから、お母さんの声がしました。ソースを煮込む(にこ )ので、そのにおいでとっくにメニューはわかっています。だから本当は勉強していることになっているけれど、ぼくは気もそぞろで、今か今かと部屋のドアを開けて待っていたのです。
 2和食、中華(ちゅうか)、洋食、エスニック、日本では外国に行かなくても、各国(かっこく)の料理(りょうり)が楽しめます。お店で食べるだけでなく、いろいろな食材(しょくざい)が売られているので、家でも食べることができます。なんて幸せなのだろうと、ぼくはごはんのたびに思います。
 3ぼくが特に(とく )好き(す )なのは、イタリアンです。オリーブオイルとガーリックの香り(かお )や、トマトの酸味(さんみ)、複雑(ふくざつ)なハーブの味わいなどがぼくの五感を刺激(しげき)します。中でもパスタ類(るい)は特別(とくべつ)で、何もない時は、めんをゆで、オリーブオイルとパルメザンチーズだけで食べられるくらいです。
 4今夜は、野菜(やさい)もたっぷり入れたスペシャルミートソースです。ぼくは、フォークにスパゲティを巻き(ま )つけながら、うっとりと、
「どうしてこんなにおいしいのかなあ。本当に毎日でも食べたいよ。」
と言いました。
 5すると、
「啓介(けいすけ)は、お母さんのおなかにいるときから、スパゲティが好き(す )だったからね。」
 実はこの話は、毎回繰り返さ(く かえ )れるのですが、お母さんは話したことなど、すっかり忘れ(わす )て、まるでそれが初めて(はじ  )のようにいつも不思議(ふしぎ)そうに語ります。
6「お母さんはずっと和食党(とう)だったのに、どういうわけか、啓介(けいすけ)がおなかにいるとき、調子が悪くてもミートスパゲティだけは食べられたの。毎日でもいいくらいに。」
 そこで決まって、妹ののり子が、
「その話、何回も聞いた。」
と言います。
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 7半分くらい食べた時点で、お母さんが立って、おかわりの分のめんをゆで始めます。ぼくは、たくさん食べるので、二回に分けないとめんが伸び(の )てしまうからです。
「アル・デンテでお願い(ねが )ね。」
ちょっと生意気に、そうオーダーします。
 8ぼくは、ちょっと固め(かた )のゆであがりが好み(この )です。最初(さいしょ)は、柔らかい(やわ   )ものだと思っていたのですが、いとこのお姉ちゃんといっしょにビストロに行った時、「絶妙(ぜつみょう)な歯ごたえ」のアル・デンテという状態(じょうたい)が最高(さいこう)なのだと教えてもらったのです。
 9友だちに人気があるのは、焼肉(やきにく)、お寿司(すし)、カレーというラインナップで、イタリアンなどという子はあまりいません。でも、本当においしいので、いつかイタリアンシェフになって、子どもにも人気のあるお店を作りたいと思っています。そんなことを考えながら、ぼくはおかわりしたお皿を両手で受け取りました。0

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 11.2週 tu
 二種類(しゅるい)の生き物(い もの)が一緒(いっしょ)に暮らす(く  )ことを共生(きょうせい)といいます。その一例(れい)がイソギンチャクとクマノミです。普通(ふつう)、魚がイソギンチャクの触手(しょくしゅ)に触れる(ふ  )と、毒針(どくばり)によって麻痺(まひ)させられてしまいます。しかし、クマノミの体の表面(ひょうめん)には特殊(とくしゅ)な粘液(ねんえき)が分泌(ぶんぴつ)されていて、イソギンチャクの毒(どく)には反応(はんのう)しません。クマノミが出す粘液(ねんえき)の成分(せいぶん)はイソギンチャクの粘液(ねんえき)の成分(せいぶん)と似(に)ているため、イソギンチャクはクマノミをえさと見なしません。このため、クマノミはイソギンチャクの周り(まわ )をすみかにして、恐ろしい(おそ   )敵(てき)から身(み)を守る(まも )ことができるのです。
 クマノミの体は、どの種類(しゅるい)も赤、オレンジ、黄色、黒、白などが組み合わさった鮮やか(あざ  )な色をしています。歌舞伎(かぶき)役者(やくしゃ)の隈取り(くまど )した化粧(けしょう)に似(に)ているのでクマノミという名前がついたそうです。
 では、イソギンチャクにとって、クマノミが周囲(しゅうい)にいることにどんな利点(りてん)があるのでしょうか。クマノミは、イソギンチャクの周り(まわ )に縄張り(なわば )を持っ(も )ており、イソギンチャクの触手(しょくしゅ)などを食いちぎって食べる魚など、イソギンチャクの敵(てき)を追い払い(お はら )ます。また、イソギンチャクの触手(しょくしゅ)の間にえさを置い(お )ておくのですが、その一部(いちぶ)はイソギンチャクのえさにもなるようです。つまり、クマノミとイソギンチャクは、お互いに( たが  )身(み)を守っ(まも )てもらったり、えさの一部(いちぶ)を分けてもらったりして、ギブアンドテイクの関係(かんけい)を保っ(たも )ているのです。
 イソギンチャクカクレエビも、その名のとおり、イソギンチャクと一緒(いっしょ)に暮らす(く  )仲間(なかま)です。また、ヤドカリやカニの中には、自分のはさみや貝殻(かいがら)にイソギンチャクをつけて、身(み)を守る(まも )ものもいます。お互いに( たが  )えさのやりとりもしているようです。
 ハゼとエビも共生(きょうせい)しています。ハゼは、エビが苦労(くろう)して掘っ(ほ )た巣(す)穴(あな)に同居(どうきょ)します。視力(しりょく)のよくないエビにとって、自分の代わり(か  )に見張り(みは )をしてくれるハゼは歓迎(かんげい)すべき同居(どうきょ)人です。また、エビが外出するときも、ハゼは忠実(ちゅうじつ)なボディガードの役割(やくわり)を果たし(は  )ます。
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巣(す)穴(あな)の外にいるとき、エビは自分の触覚(しょっかく)をハゼの体に常に(つね )ぴたりとくっつけています。敵(てき)が近づいてくると、ハゼは、尾びれ(お  )をふるわせてエビに合図をします。エビは、危険(きけん)を察知(さっち)してすぐに巣(す)穴(あな)に入ります。もちろん、ハゼも一緒(いっしょ)に巣(す)穴(あな)に戻り(もど )ます。ハゼとエビは、同じ巣(す)穴(あな)の中で、ハーハー、ゼーゼーと息(いき)を切らしながら、「危なかっ(あぶ   )たね。」と話をしているのかもしれません。
 ホンソメワケベラとクエは掃除(そうじ)共生(きょうせい)する組み合わせとして知られています。クエは、本来、小魚をえさとしています。ホンソメワケベラは、クエに近寄っ(ちかよ )たら一口で食べられてしまいそうな小さな魚です。しかし、不思議(ふしぎ)なことに、ホンソメワケベラが近くに来るどころか、クエの口の中に入っても、クエは決して(けっ  )ホンソメワケベラを食べようとはしません。これは、ホンソメワケベラがクエの寄生虫(きせいちゅう)を掃除(そうじ)してあげているからです。クエは、口やえらなどにについた寄生虫(きせいちゅう)をきれいさっぱりホンソメワケベラに取っ(と )てもらって上機嫌(じょうきげん)というわけです。クエがホンソメワケベラを食えないわけはここにあるのです。ホンソメワケベラにとって、寄生虫(きせいちゅう)はえさにもなるし、大きな魚と一緒(いっしょ)にいることで敵(てき)から身(み)を守る(まも )こともできて一石二鳥です。 
 共生(きょうせい)関係(かんけい)にある生き物(い もの)たちは、違う(ちが )種類(しゅるい)であるにも関わら(かか  )ず、調和(ちょうわ)を保っ(たも )て、平和(へいわ)な関係(かんけい)を維持(いじ)しているのです。

 言葉(ことば)の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員(いいん)会(Λ)
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a 長文 11.3週 tu
 1第四に、お米はせまい土地でも、たくさんつくることができました。そのうえ、毎年毎年おなじように、つくることができました。
 土は生きものです。つかえば、そのぶんやせていきます。
 2たとえばヨーロッパでは、小麦をつくります。でも、毎年毎年おなじ畑につくることはできません。一年畑をつかったら、あとの二年は牧草(ぼくそう)地にしたり、肥料(ひりょう)になる作物を植えたりして、土地を休ませます。そんなふうにして土の力を回復(かいふく)させてから、つぎの年、また小麦を植えるのです。
 3ところが日本ではおなじ土地に、毎年毎年、お米がつくれます。もう二千年も、それ以上(いじょう)もの年月、そのようにして米づくりがつづけられてきたのです。日本へきたヨーロッパの専門(せんもん)家たちは、「信じ(しん )られない。」と、びっくりするほどです。
 4そのひみつは水田の「水」にあります。水田に引かれる水には、川が山から運んできた森林のゆたかな土の養分(ようぶん)がふくまれていて、たえず土をおぎなってくれたからでした。
 第五に、お米は、おいしかったのです。
 5お米そのものがおいしいから、おかずをあまり気にせずにすみました。梅干し(うめぼ )や、ほんのわずかのつけものなどがあれば、ごはんを食べるだけで十分満足(まんぞく)できました。
 こんなにもたくさんの、長所をもっているお米。
 6ですからお米は、いまも、「世界のあらゆる食糧(しょくりょう)の中で、もっとも理想的(てき)なもの。」といわれています。
 そんなすばらしいいねが、やってきたのです。
 縄文(じょうもん)時代のおわりごろのことでした。
 いねは、海のむこうから、やってきたのでした。
 7お米には大きくわけて、ジャポニカとインディカという二つの種類(しゅるい)があります。まるくてねばりがあるのがジャポニカで、わたしたちの食べているお米です。これに対して、長くてばさばさしているのがインディカで、日本以外(いがい)の多くの人たちが、食べているお米です。
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 8そのジャポニカのふるさとは、中国の長江(ちょうこう)(揚子江(ようすこう))の流域(りゅういき)だとみられています。
 中国の古都、紹興(しょうこう)の近くに、河姆渡(かぼと)遺跡(いせき)という遺跡(いせき)があります。9この遺跡(いせき)からは七千年もむかしのいねが発見されているのです。ですから、このあたりでつくられていたいねが東へ東へと伝え(つた )られ、人と技術(ぎじゅつ)といっしょに海をわたって、日本へやってきたのかもしれません。0

 (富山(とみやま)和子著(ちょ)「お米は生きている」より)
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a 長文 11.4週 tu
 さああまがえるどもはよろこんだのなんのって、チェッコという算術(さんじゅつ)のうまいかえるなどは、もうすぐ暗算をはじめました。いいつけられるわれわれの目方は拾匁(もんめ)(約(やく)三十七グラム)、いいつける団長(だんちょう)のめかたは百匁(もんめ)、百匁(もんめ)わる拾匁(もんめ)答十。仕事は九百貫目(かんめ)、九百貫目(かんめ)かける十、答九千貫目(かんめ)(約(やく)三万四千キロ)。
「九千貫(かん)だよ。おい。みんな。」
「団長(だんちょう)さん。さあこれから晩(ばん)までに四千五百貫目(かんめ)、石をひっぱってください。」
「さあ王様の命令(めいれい)です。引っぱってください。」
 今度は、とのさまがえるは、だんだん色がさめて、あめ色にすきとおって、そしてブルブルふるえてまいりました。
 あまがえるはみんなでとのさまがえるをかこんで、石のあるところへつれて行きました。そして一貫(いっかん)目ばかりある石へ、綱(つな)をむすびつけて
「さあ、これを晩(ばん)までに四千五百運べばいいのです。」といいながらカイロ団長(だんちょう)の肩(かた)に綱(つな)のさきを引っかけてやりました。団長(だんちょう)もやっと覚悟(かくご)がきまったと見えて、持っていた鉄の棒(ぼう)を投げすてて、目をちゃんときめて、石を運んで行く方角を見さだめましたがまだどうもほんとうに引っぱる気にはなりませんでした。そこであまがえるは声をそろえてはやしてやりました。
「ヨウイト、ヨウイト、ヨウイト、ヨウイトシャ。」
 カイロ団長(だんちょう)は、はやしにつりこまれて、五へんばかり足をテクテクふんばってつなを引っぱりましたが、石はびくとも動きません。
 とのさまがえるはチクチクあせを流して、口をあらんかぎりあけて、フウフウといきをしました。まったくあたりがみんなくらくらして、茶色に見えてしまったのです。
「ヨウイト、ヨウイト、ヨウイト、ヨウイトシャ。」
 とのさまがえるはまた四へんばかり足をふんばりましたが、おしまいのときは足がキクッと鳴ってくにゃりとまがってしまいました。あまがえるは思わずどっとわらいだしました。がどういうわけかそれから急にしいんとなってしまいました。それはそれはしいんとしてしまいました。みなさん、このときのさびしいことといった
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ら私(わたし)はとても口ではいえません。みなさんはおわかりですか。ドッといっしょに人をあざけりわらってそれからにわかにしいんとなったときのこのさびしいことです。
 ところがちょうどそのとき、またもや青ぞら高く、かたつむりのメガホーンの声がひびきわたりました。
「王様のあたらしいご命令(めいれい)。王様のあたらしいご命令(めいれい)。すべてあらゆるいきものはみんな気のいい、かあいそうなものである。けっしてにくんではならん。以上(いじょう)。」それから声がまたむこうのほうへ行って「王様のあたらしいご命令(めいれい)。」とひびきわたっております。
 そこであまがえるは、みんな走りよって、とのさまがえるに水をやったり、まがった足をなおしてやったり、とんとんせなかをたたいたりいたしました。
 とのさまがえるはホロホロ悔悟(かいご)のなみだをこぼして、
「ああ、みなさん、私(わたし)がわるかったのです。私(わたし)はもうあなたがたの団長(だんちょう)でもなんでもありません。私(わたし)はやっぱりただのかえるです。あしたから仕立屋をやります。」
 あまがえるは、みんなよろこんで、手をパチパチたたきました。
 次の日から、あまがえるはもとのようにゆかいにやりはじめました。

(宮沢(みやざわ)賢治(けんじ)「カイロ団長(だんちょう)」)
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a 長文 12.1週 tu
1「浅野(あさの)たちのチームは今、燃え(も )ている。」
 山口先生の声が教室に響き(ひび )渡っ(わた )た。今日の朝の会で、私(わたし)たちDチームはみんなの前でほめられた。私(わたし)たちの学校では、四年生になると女子はミニバスケットのクラブ活動があり、毎日放課後(ほうかご)、体育館で練習をしているのだ。
 2Dチームは、上から四番目のチームで、公式試合(じあい)には出られない。練習の時も、ゴール下はなかなか使えず、パス練習が多い。Cチームを負かして、自分たちがCチームになれば試合(しあい)に出られるのだがその壁(かべ)は厚かっ(あつ  )た。
 3チームの五人のうち、三人は
「どんなにがんばったって、試合(しあい)になんか出られないし。」
「先生もコーチも、A、Bチームばかり力を入れているみたいだし。しかたがないけど。」
という感じで、なんとなくやる気が出ない様子だった。
 4キャプテンである私(わたし)と、副(ふく)キャプテンのみちるちゃんは、何とかがんばってCチームに昇格(しょうかく)したいと思っているけれど、チームワークが今ひとつなので、うまくいかないのだ。私(わたし)たち二人しか来ない日もあって、Eチームに混じっ(ま  )て練習試合(じあい)をしたくらいだ。5私(わたし)も少しあきらめかけていた。
 ところが、先月のことだ。みちるちゃんが、
「ねえ、このままじゃ、いつかEチームにも抜かさ(ぬ  )れてしまうかも。がんばって、朝練しない?」
と言い出した。みんな一瞬(いっしゅん)、えーっという迷惑(めいわく)そうな顔をした。
 6しかし、みちるちゃんはひるまず、強い意志(いし)のこもった目でみんなを見つめ、
「私(わたし)たちだって、試合(しあい)に出たいよね?」
と問いかけた。私(わたし)が思わず、大きくうなずくと、他の三人もつられたように首をたてにふった。
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 次の日から、三十分の朝練が始まった。7三十分早く来るのも実は大変(たいへん)だ。特に(とく )朝が弱い私(わたし)とふくちゃんは、朝ごはんもそこそこに、髪の毛(かみ け)がはねたまま走って登校するようなあわただしさだった。
「朝練前にランニングしちゃうようなものだね。」
 誰(だれ)もいない早朝の体育館は、すべてが私(わたし)たちのものだ。8シュート練習が思う存分(おも ぞんぶん)できるし、ドリブル練習も何本もできる。声が響く(ひび )のでいやでもテンションが上がっていく。一日目にして、私(わたし)は、これはいけるかもしれないと思った。なんだか昨日(きのう)までのDチームではないみたいだ。
 9翌日(よくじつ)からは、山口先生がのぞきに来た。あいさつだけすると、体育館の入口で黙っ(だま )て見ている。ふくちゃんのロングパスを取りそこねた私(わたし)に、先生は転がったボールを拾うと、強めのチェストパスで渡し(わた )てくれた。0

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 12.2週 tu
 1日本と同じ車の左側(ひだりがわ)通行をしている国は、イギリスをはじめ、世界(せかい)の約(やく)三分の一あります。残り(のこ )の三分の二の国は、ヨーロッパやアメリカのように右側(みぎがわ)通行をしています。
 2第(だい)二次(じ)世界(せかい)大戦(たいせん)の末期(まっき)、沖縄(おきなわ)を占領(せんりょう)したアメリカは、沖縄(おきなわ)での車の通行を、それまでの左側(ひだりがわ)通行から右側(みぎがわ)通行に変え(か )ました。その後、沖縄(おきなわ)は日本に返還(へんかん)されましたが、返還(へんかん)されたあとも、沖縄(おきなわ)ではアメリカ式(しき)の右側(みぎがわ)通行が続い(つづ )ていました。
 3しかし、返還(へんかん)から六年後の七月三〇日、右側(みぎがわ)通行を左側(ひだりがわ)通行に戻す(もど )ための大変革(へんかく)が行われました。
 切り替え(き か )は、前の日の夜から、すべての車をストップさせて行われました。4すべての車がストップしていたのはわずか八時間の間でしたが、この間に、すべての道路(どうろ)標識(ひょうしき)や表示(ひょうじ)が切り替え(き か )られました。交通整理(せいり)などのために、本土からも多くの警察官(けいさつかん)が手伝い(てつだ )にかけつけました。
 5しかしここで、一つの問題(もんだい)がありました。普通(ふつう)の車は、ハンドルが右でも左でも、道路(どうろ)のどちらの側(がわ)でも走ることができますが、困る(こま )のは乗り合い(の あ )バスです。6なぜかというと、バスは、歩道の側(がわ)に乗客(じょうきゃく)が乗り降り(の お )するドアがついているので、新しい通行規則(きそく)に従う(したが )と、このドアを車両(しゃりょう)の反対(はんたい)側(がわ)につけなければならなくなるのです。
 7そこで、沖縄(おきなわ)県内(けんない)にあったほぼ一〇〇〇台ものバスが、ほとんど新しくされることになりました。このために、日本国内のメーカーは総出(そうで)で、たくさんのバスを製造(せいぞう)したのです。8この時に製造(せいぞう)されたバスは、「730車」と呼ば(よ )れています。この「730車」は非常(ひじょう)に頑丈(がんじょう)に作られていたため、数は少なくなりましたが、今でも走っているものがあるそうです。
 9こうして多くの人々の努力(どりょく)のかいあって、沖縄(おきなわ)ではたった一晩(ひとばん)で右側(みぎがわ)通行から左側(ひだりがわ)通行への変更(へんこう)が無事(ぶじ)に行われたのでした。0
 言葉(ことば)の森長文作成(さくせい)委員(いいん)会 τ
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a 長文 12.3週 tu
 1日本の大地に根をおろしたいねは、たくさんのみのりをあげてくれました。たくさんとれれば倉庫(そうこ)にたくわえ、保存(ほぞん)することができました。
 人口もふえていきました。2すこしばかり異常(いじょう)気象(きしょう)がきても、もう以前(いぜん)のように、餓死(がし)するようなことは、すくなくなっていったからです。
 人口がふえれば、もっとおおぜいの力をあわせることができました。いままでよりも大きな川から、水を引くことができました。3もっとたくさん、水田をひらくことができました。すると、もっとたくさんお米をつくることができました。
 倉庫(そうこ)のたくわえも、どんどんふえていきました。
 4こうして、十人の人をやしなうのに、八人の労働(ろうどう)でまにあうようになったとき、あとのふたりは王や貴族(きぞく)になることができました。宗教(しゅうきょう)家になり、芸術家(げいじゅつか)になり、学者や技術(ぎじゅつ)者や医者になり、商人になることができました。
 5余分(よぶん)のお米があれば、よその村でつくったべつの品物と、こうかんすることもできました。米づくりのための道具、くわやすきや、道具をつくるための鉄などと、こうかんすることもできました。布(ぬの)や着物とこうかんすることもできました。6神に祈り(いの )をささげるためのまが玉や、首かざりや、その原料(げんりょう)の石ともこうかんすることができました。金、銀、銅(どう)などのたからものや、動物の毛皮とも、こうかんすることができました。
 米を運ぶための船。その船ともこうかんすることができました。
 7食糧(しょくりょう)がたくさんとれるということは、なんとすばらしいことでしょう。
 毎年毎年おなじように、つくれるということも、なんとありがたいことでしょう。
 そして、保存(ほぞん)できるということも、なんとたいせつなことでしょう。
 8文明というものは、このようにしてしだいしだいに発達(はったつ)していったのです。村々も、しだいしだいに大きくなっていったのです。
 「農業は文明の母である。」といわれています。それは、このような意味からです。
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 9さて、米づくりがさかんになるとたくわえのある村とそうでない村との差(さ)ができるようになりました。たくわえのある大きな村がまずしい小さな村をのみこんで、より大きな村になっていきました。戦争(せんそう)です。
 0米づくりのための水。そのいのちの水をもとめて、どれほどたくさんの水あらそいが、くりひろげられたことでしょう。ゆたかな水源(すいげん)を手にいれた村は、よりゆたかに、より大きくなることができました。
 佐賀(さが)県の吉野ヶ里(よしのがり)遺跡(いせき)からは、矢の刺さっ(さ  )た人骨(じんこつ)や、頭のない人の骨(ほね)などが出土しています。水をもとめて、きっとはげしい戦争(せんそう)がくりかえされたにちがいありません。
 こうして、力の強い大きな村が力の弱い小さな村をのみこんで、より大きな村になっていきました。大きな村々がやがてひとつになって小さな王国になっていきました。
 六世紀(せいき)ごろまでに日本のあちこちに、そんな小王国がいくつもできるようになり、それはやがてひとつに統一(とういつ)されて、「日本」という国がつくられていくのです。

 (富山(とみやま)和子著(ちょ)「お米は生きている」より)
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a 長文 12.4週 tu
 Kがのぼれるかぎりの高いところまでのぼりついて、ほっとひと息ついたとき、かん高い声で話しあう水夫(すいふ)たちの声がしだいに近づいてきた。
 Kは枝(えだ)のしげみに、身体をかくすようにして彼ら(かれ )の声に注意を配っていた。
 水夫(すいふ)たちが、家の前にあらわれた。
 水夫(すいふ)たちは、声高にしゃべりあっていた。
 ひとりの黒人が、入り口の戸があいているのを発見して、指をさしながら大声で仲間(なかま)に告げ(つ )ていた。
 水夫(すいふ)たちは雨戸をたたいたり、交互(こうご)に入り口から中をのぞいたりした。しかし、だれ一人として一歩も中に入ろうとする者はいなかった。
 Kはそれを見て、彼ら(かれ )が悪者でないことを心に感じとった。
 家の中から、何の返事もないので、水夫(すいふ)たちはすごすごと通路にひきかえし、また、つぎの家へおしかけていこうとした。
 水夫(すいふ)の一群(いちぐん)の中で、いちばん最後(さいご)に、入口をのぞいた男が榕樹(ようじゅ)の樹(き)の下を通りすぎようとして足をとめた。その男はズック製(せい)のからバケツをさげていた。ほかの水夫(すいふ)たちより少し年をとった白人であった。彼(かれ)はズックのバケツを下におき、ポケットからしわくちゃのハンカチをひっぱりだして、顔や、首や、シャツからはだけた胸(むね)や、腕(うで)の汗(あせ)をふいた。オールのように太い腕(うで)は日やけして、金色の毛がいっぱいに生えていた。この水夫(すいふ)は榕樹(ようじゅ)のかげで少し涼ん(すず )でいくつもりらしかった。
 あんのじょう、彼(かれ)は煙草(たばこ)をとりだして火をつけた。
 Kは息をのんで、見つめていた。
 男は、煙草(たばこ)をうまそうに、ひと口すいこむと、ふいに上を向いて、榕樹(ようじゅ)を眺め(なが )まわした。
 Kがあわてたしゅんかん、持っていた枝(えだ)がゆれて、葉が、かすかではあるが、音をたてた。
 Kと西洋人の水夫(すいふ)は、視線(しせん)をあわせてしまっていた。
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 水夫(すいふ)は、両手をさしのべて、Kをうけとめてやろうというようなしぐさをした。そして目にはやさしい笑い(わら )を浮かべ(う  )ていた。
 Kは決心をして、そろそろおりはじめた。
 おりている途中(とちゅう)、西洋人が何か一言、二言いった。きっと、「気をつけなさい」といってくれているのにちがいなかった。
 Kは地面におりたって、きまり悪そうな顔をしていると、船員はほほえみながら、手をさしだした。腕(うで)には金色の毛が生えている。
 男は、ズックのバケツを指さして、何か話した。
 Kは、言葉にはわからなかったが、水をほしがっているのだということに気がついた。
 Kは、バケツを持って井戸(いど)ばたへ案内(あんない)した。
 その男は、大声を出して仲間(なかま)を呼び(よ )集めた。水夫(すいふ)たちは騒ぎ(さわ )ながら、ひきかえしてきた。彼ら(かれ )は、大げさすぎるほどの表情(ひょうじょう)で喜び(よろこ )の気持ちをあらわしていた。
 Kがつるべで水をくもうとすると、水夫(すいふ)たちは、いっしょに手伝っ(てつだ )て、勢い(いきお )よくくみあげた。そしてズックのバケツにいれて、かわるがわる馬のように水を飲んだ。何べんもつるべでくみあげて、全員がたっぷりと水を飲んでから、バケツに水を満たし(み  )てひきあげた。帰りぎわに、Kはもう一度、少し年をとった水夫(すいふ)と握手(あくしゅ)した。
 エビア号の船員たちは、三週間ほどたって、村から姿(すがた)を消した。
 Kは最初(さいしょ)の夕方、エビア号を見て以来(いらい)、美しい帆船(はんせん)の姿(すがた)を二度と忘れる(わす  )ことはできなかった。

(庄野(しょうの)英二(えいじ)「白い帆船(はんせん)」)
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