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 みなさんは江戸えど時代の大名だいみょうが、「加賀かが百万ごく大名だいみょう」とか、「尾張おわり六十万ごく大名だいみょう」といったよびかたで、よばれているのをきいたことがあるでしょう。石高こくだかはその国のゆたかさ、大きさをあらわしたいいかたです。加賀かがの国は百万ごくものお米がとれる大国です。それほどのゆたかな国を領地りょうちに持つ大名だいみょう、という意味です。
 ちなみに一石いっこくとは、やく百八十リットルを意味します。それはひとりが一年間に食べる、お米のりょうにあたります。
 武士ぶしや足軽の給料きゅうりょうも、「五人扶持ぶち」「十人扶持ぶち」というように、お米で計算されました。五人扶持ぶちとは、五人のけらいがやしなえるだけのお米です。ひとり一日五合として計算されました。
 昭和になって戦争せんそう中、日本には食糧しょくりょうがなくなり、お米は配給はいきゅうせいになりました。生産せいさん者も消費しょうひ者も、かってに売ったり買ったりすることは禁じきん られ、生産せいさんされたお米はすべて政府せいふがいちど買いあげ、消費しょうひ者は決められたりょうだけを、そこから買うようになっていました。
 その、お米を買うための通帳は、長いあいだ、身分証明しょうめい書のかわりでもありました。
 お米とはそれほどに、国民こくみんの生きるための基本きほんだったのです。人々のくらしや社会のありかたが、お米を基本きほんとすることで成り立っな た てきた国。そんな時代が、ついさいきんまで、ずっとつづいてきた国。そのような国も世界には、ほかにありません。
 もうひとつ、たいせつなことがあります。お米はわたしたちの気づかぬところで、いつもわたしたちといっしょです。
 水道のじゃぐちをひねるとき、あなたはその水がどこからくるか考えてみたことがありますか。川から、ダムから、と答えた人は、ダムにたまるそのおおもとの川の水を、考えてみてください。
 日本は山がけわしく、急斜面きゅうしゃめんの国です。「日本の川は、たきのようだ。」と、いわれるくらいです。雨がふっても水はいちどきに海へすてられ、あとはたちまちかわいてしまう、あばれ川なのです。それなのに、一か月も二か月も晴れた日がつづいていても、水がな
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がれているのはなぜでしょう。
 雨をしっかりと受けとめて、大地につなぎとめている、森林や水田があるからです。
 ふった雨が森林や水田の土にしみこみ、ゆっくりゆっくり地下を移動いどうし、何年も何十年も、ときには何百年もかけて、やがて地表にわき出てきます。そのわき水のあつまりが、ふだんながれている川の水なのです。
「森林は緑のダムだ。」
と、よくいわれます。おなじように水田も、ダムなのです。
 田植えどき、水をはった段々畑だんだんばたけを見てください。
「なるほど小さなダムたちが、山の斜面しゃめんにはりついているなあ。」
と、あなたもきっと、感心するでしょう。
 水田にたたえられたその水は、地下にしみこみ地下水になり、やがて下流にながれ出て川に水を提供ていきょうしてくれます。

 (富山とみやま和子ちょ「お米は生きている」より)
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