1ウナギは卵を生むために育った土地から五〜六〇〇〇キロメートルも離れたところまで泳いで行くということですが、そこで生まれた子どもがふたたび両親の育った土地まで帰ってくるというのですから、これもふしぎな大旅行といえそうです。2ウナギはおよそ十歳になると川を下って海に出て行きます。例えばヨーロッパ各地のウナギは川をつたって大西洋に入ります。そこからは深海にもぐって西インド諸島の付近まで行くらしいのです。そこでウナギの両親は子どもを産んで死ぬのです。3育った子ウナギは、やがて海を渡ってヨーロッパにもどる大旅行をすることになります。海からヨーロッパの河口に到達するころになると、ウナギの身長は五センチ以上になりますが、群れをなして上流にさかのぼって行きます。4そして、両親の育った場所にもどり、ふたたび、両親の役目をくり返すわけです。この大旅行についても、渡り鳥やデンショバトのような太陽コンパスが考えられるかどうか、両親の故郷の生活を一度もしたことのないウナギの子が、そこに帰って行くことを考えるとなかなかむずかしいことです。
5サケも卵を生むために大旅行をしますが、ウナギの場合とちょうど逆さまで、海から泳いで河口に達し川をさかのぼって行きます。卵は上流の河床に産みつけられるのです。生まれたサケの子は、約二年間、川の中で過ごし、それから川を下って海に出て行きます。6そこで二年以上過ごし、十分に成長したサケはふたたび、海から川に向かってもどることになります。ふしぎなのは、サケがもどる川が、はじめに育って出て行った川だということです。同じサケがもどって来たのかどうかを確かめるために、ひれのある場所を切って印をつけておいてわかったのです。
7サケはおどろくべき記憶力をもっていて、出て行った川をおぼえているのでしょうか。サケの卵を産卵地とちがう川の上流に移しかえる実験がアメリカのカリフォルニアで行われました。8サケは生まれた土地にではなく、育った土地にもどって来ました。
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