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 ドイツのケーラー先生は、第一次大戦たいせんのころ、アフリカのテネリファ島にあったチンパンジーの研究所で、おもしろい実験じっけんをしました。その中の有名な実験じっけんをいくつかお話ししたいと思います。
 天井てんじょうからバナナがつるしてありますが、直接ちょくせつチンパンジーには手がとどきません。部屋のすみ数個すうこ包装ほうそう箱が置かお れています。チンパンジーをこの部屋に入れると、背のびせ  をしてバナナをとろうとしたり、とび上がってみたりしますが、それがむだなことがわかると落ち着きなく歩きまわります。やがて、すわって天井てんじょうのバナナをみたり、包装ほうそう箱をみたりしていますが、突然とつぜん、立ち上がってバナナのつるされている下に箱の一つをもって来て置きお 、その上にもう一つの箱をのせ、これに上がってバナナをとったのです。こういうことはチンパンジーにとって生まれてからはじめての出来ごとだったと思います。木にのぼってバナナをとるのはいつもやっていたことです。箱の上にのったりこしかけたりしたこともあります。しかし、箱を重ねてその上にのってバナナをとったのははじめてです。次に、二の箱だけではとどかない高さにバナナをつるしますと、いくつも箱を重ねて、その上によじのぼり、バナナをとることにも成功せいこうしたのです。
 べつ実験じっけんでは、箱を部屋の外に置きお 、チンパンジーを部屋につれてくる途中とちゅうでそれに気づくようにしておいたのです。同じバナナをとる問題で、チンパンジーは部屋からはみえない箱を部屋の外からもって来て、これにのってバナナをとることもできました。
 チンパンジーの行動は、でたらめになにかしているうちにたまたま、目的もくてきにかなった結果けっか到達とうたつしたというよりも、積み重ねつ かさ た箱とつるされたバナナとの関係かんけい理解りかいすること、前にみたこと、したことを記憶きおくしていること、そしてその記憶きおく利用りようしていま解決かいけつしなければならない問題に適してき た新しい考えを生み出した結果けっかと思われます。
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 ケーラー先生はこれを見通しのある学習とよんでいますが、次の実験じっけんも同じれいです。チンパンジーのおりの外にバナナが置かお れます。おりのこうしから手を伸ばすの  だけではバナナにはとどかないのです。一本の竹のぼうおりの中に置かお れます。チンパンジーはあたかも天井てんじょうからつるされたバナナとゆかの箱とをじっとみたように、こんどもバナナとぼうとをじっとみてから、突然とつぜんぼうをつかんで外のバナナをかきよせ、手のとどくところにひき寄せよ たのです。

(「動物とこころ」 小川たかしちょ 大日本図書より)
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