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 オーストリーのローレンツ先生はある初春しょしゅんのころ、ウィーンの森を散歩さんぽしていましたが、森の中の開けた草原に大きな一ひきの野ウサギをみつけました。ウサギは前のほうをみつめていましたが、果たせるは   かなもう一ひきの野ウサギがその方向から出て来ました。ひきのウサギはイヌが出会うとするように、鼻をつき合わせて一種いっしゅのあいさつをしたあとで、突然とつぜん、それぞれ頭を相手のしっぽにぴったりつけたまま、小さな円を描いえが てぐるぐるかけまわり出し、つづいて相手をなぐったり、けったり、空中にとび上がったりして、激しいはげ  けんかをはじめました。しかし、このけんかも先生がいっしょにつれていたお嬢さん じょう  が野ウサギたちのようすがあまりおかしいのにふき出したため、その声におどろいて、二ひきは分かれてべつべつの方向にとんで行きました。これはなんでもないことのようですが、同じ種類しゅるいの動物たちのけんかはすべて、この野ウサギのけんかにていることを先生は書物の中で強調しています。ひきのイヌが出会ったときに、みなさんもこんな光景こうけいをみたことがあるでしょう。足をつっぱり、をぴんと立て、かたの毛を立て、ゆっくり歩みよって、すれちがうように横腹よこばら横腹よこばら、頭ととが向き合うようになります。つづいてたがいのしり嗅ぎか 合う行動がはじまります。もしどちらか一方が闘いたたか 敗けるま  と感じると、たちまちしっぽを垂れた て、ぐるっとを向けて逃げ出すに だ ことになりますが、そうでなければ、けんかの姿勢しせいはそのまま、つづきます。しかし、それでも一方のイヌがかなわないと思えばをたれて首すじを強いイヌのほうにさらしたままになります。首すじはイヌにとって、ひとかみされても命にかかわる急所です。しかし、そのとき、ウーウーといいながらも勝ったほうのイヌはけっしてかみつかないのです。先生はロンドン近郊きんこうの広い動物園の中で、オオカミのけんかをみてこれとまったく同じことになったことを書いています。イヌよりもはるかに荒っぽいあら   と思われるオオカミのけんかが、イヌや野ウサギ
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の場合と同じなのです。赤ずきんの童話の中ではいつも凶悪きょうあくな動物となっているオオカミですら、まいったといっている身ぶりの負けたものに向かって、かみつくのをがまんしていることが気づかれるのです。もしオオカミやイヌがみさかいもなく仲間なかまの首すじにかみついていたら、その数はだんだん減少げんしょうしていくことになったでしょうが、オオカミもイヌもこのようにがまんできるということは、動物の生活にとって大切なことと思われます。

(「動物とこころ」 小川たかしちょ 大日本図書より)
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