1物語とはなにか。
物語を理性の言葉としての哲学や科学に対立させて、空想の語り、非合理的な語りとする見方があるが、それは正しい見方とはいえない。宗教学者の島田裕巳は物語を積極的に評価して、「世界の中に生起する現象の説明原理であり、筋立てを持つ説明の体系のこと」と定義する。2それは独自の「体系化や分類の働きを」もち、「儀礼や象徴の背後に存在し」て、「人生に一定の方向性を与える」ものだという。
どういうことか。
たとえば有名なオイディプス伝説を考えてみよう。3ソフォクレスの悲劇でよく知られるこの物語は、もともとテーバイ地方に伝わる神話・伝説であった。主人公オイディプスは、テーバイの王ライオスの長子として生まれるが、その生誕の直前に「成長すると、父を殺し、母と交わる」との神託が出たことによって、荒れ野に捨てられる。4その彼をコリントスの王ポリュボスが見つけ、わが子として育てる。やがて成長したオイディプスは、自分の出生に疑いをいだくようになり、神託を求めたところ右の答えが得られたため、実父と信じるポリュボスを殺すことを恐れて町を離れる。5道を歩む彼は、偶然、実父ライオスと出会い、争ってこれを殺す。ついで彼はテーバイを訪れ、災いをもたらしていた怪物スフィンクスの謎を解いてこれを退治し、その報奨として女王イオカステと結婚し、子どもをもうける。6しかしその後も町に災いは続いたため、知者を呼んだところ、神託に告げられていた真実を知らされる。自分の運命を知った彼は、われとわが目を剣で突いて、放浪の旅に出るところで悲劇は終わる。
7この物語は、あらゆる物語がそうであるように、一つづきの行為=出来事を時間の経過のなかで展開させたものである。それはオイディプスをはじめとする登場人物が、なにをし、なにを喋ったかを述べるものであって、それ以上のものではない。8殺されるはずであったオイディプスが、従者の情けによって荒れ野に捨てられたこと。コリントスの王に拾われた彼が、その実子として大切に育
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